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すぐ背後には、いつものように仏頂面をした男と、柔らかな笑みを浮かべた少女の二人組が立っていた。合わせの第三課の制服を着た二人は、全身返り血に塗れている。
「主。加減は必要ですと、いつもあれほどお伝えしているでしょう?」
主の顔についた血をポケットから取り出した布で拭いて差し上げた。すると、主は血を拭っていた私の手を両手で掴み、そのまま甘えるようにご自分の頬に当てた。
「星鈴、そんなに怒らないで。ごめんね。今回は邪魔が入らないものだから、つい楽しくなっちゃって。ね、エリオル」
「「……」」
視線が二つ分、主の横に立つ男に向かう。
渋面を浮かべ、リュミエール様を見つめる男――エリオル。
鷹と私、そしてエリオルは主を同じくする。特に私は主が生まれる前から主の一族に仕え、主がお生まれになってからは守り役の任も受けた。今はこの男が側近中の側近とはいえ、私だって主の性分は分かっている。
これはきちんと言い聞かせないと駄目なやつだ。
「主――リュミエール様」
「……はぁい?」
名前で呼ばれる時は説教をされる時だと分かっておられるのか、リュミエール様は少し嫌そうに返事をされた。そして、そっと手を離される。
それにちょっと寂しさがこみ上げてきたけれど、甘やかしては本人もためにもならない。
なにより、こんな風に怪我人も出るほどの事ならばなおさらだ。
「いいですか? 楽しくっても駄目なものは駄目です。元老院から特例的に自治権すら認められているほどの実力を持つ一族のお一人なのですから、どんな時も加減をなさってください。それがいらないのはあのバカ……じゃなくって、カミーユ様を相手にする時だけです」
「バカ……バカ、ねぇ。一応第三課のトップなんだけど」
「……あ、すみません。つい」
「ほら。星鈴だって、ついしてしまうでしょう? それと同じよ」
それとこれとは話が違う。
そう言って反論したいけど、この場で必要な治療は全て終えた今、一刻も早く予算会議に戻らなければいけない。
「……お口が達者になられて」
「ほんとう? エリオル、私、星鈴に褒められちゃったわ」
「褒めてません! 褒めてませんから!」
予算会議に戻らねばと踵を返すと、やはりカミーユ様の、というよりコリンの差し金だったらしい。二人揃って全力で止めに来た。
しかし、いくら二人が第三課の精鋭部隊とはいえ、リュミエール様に戦法や術式を教えたのは私。そして、エリオルよりもウン百年は長く生き、元老院で働いている。
たとえ主といえど、必要な予算を削られる危機にある時。
反逆ではありませんから、と心の中で言い訳して、薬で四肢の自由を奪わせてもらう。
ベースの後処理のために残っていた第六課の中でも一番優秀な者に、悔し気な表情を浮かべる二人を預け、私はようやく会議に戻るべく門をくぐった。




