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怪我人を第六課に運ぶため、転移門はすでに繋げてある。その門を利用して、私も現場に向かった。
建物が焼けた時のものか、煙がまだ周囲を覆っている。その中で事後処理に駆け回る者達の姿が見え隠れしていた。
「ベースはどこ?」
「こちらです!」
元老院へ移送される前に、第六課の舎館に運ぶことすら難しい者、何をおいてもまず応急処置が必要とされる者が運ばれる場所。それがベースと呼ばれる救護所だ。
青年の後をついて、煙の中を駆ける。
薬や簡単な応急処置で大丈夫であれば、例え数が多くとも私まで引っ張り出されることはない。この間の襲撃事件同様、薬の提供を求められるくらいだ。
それが私かフェルナンド様にまで話が上がってきたということは……。
「なんとしてもフェルナンド様か星鈴様のどちらかが来るまで持ちこたえるんだ」
「……血と共に通力が流れ出てる」
「脚は後だ。まずは腹部の方を止血しろ」
どんな時も患者と相対する時は冷静に。どんな時も、最期まで、です。
前任の第六課長の教えだ。
幕内から聞こえる声から察するに、ベースで治療にあたっているのは彼の人がまだ在任中に教えを受けた者達だろう。
徹底的に仕込まれた冷静さ。
時に安心感を、時に絶望感を味あわせるのは、淡々とした口調のせいか。
「お待たせ」
「星鈴様っ!」
「順番に変わるよ」
手を消毒しつつ、中の様子を確認する。
怪我人が所狭しと並べられていて、移送が追いついてないのが現状のようだ。
誰から?と声をかけると、奥にいた第六課の赤髪の青年が手を挙げた。
「……脚は諦めるべきでしょうか」
「諦める? なんで?」
「え? でも」
「この状態になったのは?」
「おそらく、数十分前かと」
「麻酔かけてる時間も勿体無いわね。ここはやっておくから、貴方は他に」
「分かりました。それでは、お願いします」
青年を別の患者の元に行かせ、服の袖をまくる。
……さて。
なんとかなくならずにすんでいる片脚。明言は避けるが、人間だったら切断か、かなりの腕を持つ外科医でないと繋げることは難しいほどの怪我だ。
私が力を使って治す治療法は、本性が癒しの術を持つフェルナンド様や前任の第六課長とは違い、こちら側も少し対価を支払わせられるもの。
それでも、目の前に横たわっている者を助けるためにはそれもまた致し方なし。
「脚の怪我の時よりも激痛が走ると思うけど、我慢しなよ?」
腰のポシェットから小刀を取り出し、掌を少し深めに切った。赤い血がポタポタと雫になり、患者の口元に落ちていく。
直接患部にかけると、反動に耐えられず、最悪死んでしまう。高い治癒力に定評のある鬼の血を薄めもせずそのまま分け与えられるのだから、それもまた道理であろう。
ただ、治療のためにしている行為なのに、それだと本末転倒になってしまう。
だからこそ、唾液等で薄める意味もあり、嚥下できる患者ならば自力、無理ならば口移しや何かしらの道具を使い、経口で体の中へ流し込ませるのが常のやり方だ。
「……っ!」
「ほら、我慢」
正直、我慢できるものなら言われずともしていると、過去にこの治療法を受けた第三課の者達から声が上がっているのは知っている。
気絶、させようか。
本当に痛い時、人も人外も問わず何も言えずに悶えるだけになる。今、まさにその状態である患者は一番痛みが走っているであろう脚を掴んで体を丸めている。
なにより、自分も同じ治療法をされるのではないのかと戦々恐々とする他の患者達の目もあった。
……うん、気絶させよう。それか、今麻酔かけるか。
ちょうどナルがベースに薬を持ってやって来たのが見えた。
ナルを手招きして呼び、箱の中に入っている薬の中から一番強力な麻酔薬を選んでやる。
布に染み込ませた薬をそのまま患者の鼻に押し当て、意識が落ちるまでそれを続けた。
「この患者はこのままで大丈夫。むしろ、完全に治るから逃亡阻止の対応をするように第三課へ報告しておいて。たぶん、あと一時間もしないうちに元通りよ」
「分かりました!」
言付けをナルに頼み、私は次に手を挙げた第六課の治療班の元へ向かった。




