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「ちょっと、うちの大事な副官をいじめないでやってくれないかな?」
「何故お前が一歩引いたところから発言する。全てお前が要因だろうが」
「ハッ。……星鈴。聞きたいんだけどいいかい?」
セレイル様のもっともな言葉を鼻で一蹴し、カミーユ様は片手で頬杖をついたまま私に視線を寄越してくる。
「……なんです?」
「それを作ったのはいいけど、忘れてない? うちには君の主もいるんだよ? どうして毎回指揮しているのが私だって思うんだい?」
元老院で仕事をすれど、個として仕える主はまた別だ。
一瞬、長く艶やかな銀髪に深い青の双眸を持つ方の姿が頭をよぎる。
「……捕縛業務を祭りだと言ってはばからない方が、他の誰かに指揮系統を譲るわけないじゃないですか」
「そうかな? ほら、そろそろ」
「はい?」
カミーユ様が出入口の障子へと目をやる。
その視線を追って、私も障子へと目を向けた時だった。
「フェルナンド様っ、星鈴様はこちらですかっ!?」
第六課で物資の補給担当をしている青年が息をきらして駆け込んできた。
普段なら挨拶をしない非礼に目くじらを立てるセレイル様も何も言わず、ただ彼の様子を黙って見つめるにとどめている。
「だ、大丈夫?」
「どうしたの?」
フェルナンド様が寄って行って、心配げに眉を下げて彼の肩に手をあてる。
私もフェルナンド様の後に続いて横についた。
「それが、第三課が急遽捕縛任務に出向いていましてっ! こちらの部隊はほぼ無傷ですが、賊の方に被害が多数とのことです! すみませんが、どちらかだけでも至急お戻りくださいっ」
「……まさか」
ある考えに思い至り、カミーユ様とコリンの方を見る。
すると、カミーユ様は勝ち誇るかのように斜に構えて笑っている。片やコリンはというと、絶対に私と視線を合わせようとしない。
「ほらね? 私が行かない任務もあるんだよ。翁にも一月禁止だと言われたばかりだし」
尻尾を出そうとしないトリックスターの相手はしていられない。
「……コリン、仕掛けた?」
「え、えっと……なんのことでしょう?」
人も人外も、心臓がある以上脈が触れる。そして、普通は緊張した場合、同じように脈が速まる。
コリンの前に回り込み、顎の下側にそっと触れた。
その際にコリンが見せる抵抗なんて、痛みに悶える患者のソレと比べればなんの問題もない。
今のコリンは努めて平静であろうとしているけれど、先ほどからかかるストレスも相まって精神的なものからくる脈の速さだけは誤魔化せない。
「……フェルナンド様、ここは私が出ます。会議の方をお願いしてもよろしいでしょうか」
「うん。でも、僕も行かなくて大丈夫?」
「えぇ。二人とも席を離れては彼らの思う壺でしょう。できるだけ早く戻ります」
「う、うん。よろしくね」
「はい」
部屋から出る際に風呂敷に入った各課の弱み情報は念のためフェルナンド様に預けておく。きっと適所適所で使ってくれるだろう。万が一の時のためと、カンニングペーパーを準備しておいて本当に良かった。
青年を伴って部屋を出る間際、障子に手をかけたまま僅かにカミーユ様の方へ目をやる。
「カミーユ様。次に第六課の治療を受ける時は覚えておいてくださいね」
「部下と賊の治療、よろしく頼むよ」
「……失礼します」
まだまだ言ってやりたいことは尽きていない。
けれど、これ以上は待たせることはできない。
言いたいこと全て飲み込み、皆に向かって頭を下げて部屋を後にした。




