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待ちくたびれ、どこかの課が迎えにいくと言い出しそうな雰囲気が出てきた頃。
遠くから男の絶叫が部屋の中まで聞こえてきた。
なるほど。応援という名の生贄はアイツか。
……この分だと神経性胃炎待ったなし、だな。
他の課長達の様子をそっと見渡すと、誰も彼も、特にレオン様は内心ではえげつないことを考えていそうな面相をしている。
この分だと、下手すれば胃に大穴が開くくらいはするかもしれない。
そんな恐ろしい舞台まで役者となった男が上がるのに、そう時間はかからなかった。
「離せっ! ちょっ、痛ぇっ! そこっ! 食い込んでる、縄、食い込んでるからっ!!」
潮様が入室の許可を出すと、スッと障子が開けられる。
廊下の向こうに、第二課の者達に両横から取り押さえられる男――第三課近衛部隊第一精鋭部隊長付き伝令役の鷹が、まるで賊のように縄で上半身を雁字搦めにされ座らされていた。
本当に抵抗したのか、着衣に乱れがあったり、髪などボサボサだ。先程食い込んでいると言っていたのは自慢の翼にだったらしく、僅かに目に涙が浮かんでいる気がする。
「お前らなぁっ! 俺に何か恨みでもあんのかよぉっ!」
「恨み? いいえ。そんなものありませんよ。そんなことより、貴方を待っていたんですから、早くこちらへ来てください」
「いーやーだぁっ! 俺は許されたこの平和な時間を昼寝に費やすんだ! せっかくお前らも会議に入ってていない。アイツも外に出てて呼び出しもない。この! 素晴らしき何もない時間! それを奪おうってのか!?」
「人聞きの悪い。……貴方くらいなんですよ。直接元老院に雇用されているわけじゃないのは」
「じゃあ、外部から誰か引っ張ってくりゃいいだろうがよぉ」
「そんな時間はないですし、そうなると対価をお支払いしなければなりません」
「……て、ことは俺のこの時間は?」
「完全なるボランティアです」
「嘘だろっ!?」
完全なるボランティアとシャルルに言い切られてしまった鷹は、これがボランティア?ボランティアってもっと高尚な気持ちでやるもんじゃないのか?等々現実を受け止めきれていない顔でブツブツと呟いている。
まぁ、確かに鷹は直接元老院雇用じゃなく、主の第一精鋭部隊長である方について仕事をしているに過ぎない。そして、外部から呼ぶにしても、守秘義務などの問題があるから難しい。その点、鷹は内部でもあり外部でもある。予算云々は関係ないから公平といえば公平。
様々な面から考えて、目をつけられる理由は十分だった。
……それに。
あぁ、バカだなぁ。
この面子が集合している場でそんなに嫌がっているのを表に出すと。
「鷹」
「……は、はい?」
「なんでそんなに嫌がるのさ。君は対等な立場で僕達の意見を聞いて判断してくれればいいだけでしょ?」
「そ、そんな、そんなこと言ったってなぁ! 却下しようものなら闇討ちでもしそうな顔で言うもんじゃねぇだろうが!」
「え? そんなことないよ。だって、会計担当が決める振り分けは絶対だもの。いくら僕でも会計担当にはそんな無体なことしないしない」
「……会計担当、会計担当って言ってるけどよ、本当は会計担当じゃない俺はどうなんだよ」
「あっ? 気づいた?」
「帰る! 帰らせていただきますっ!」
パッと花を散らしたように笑うレオン様に、鷹は自分の行く末を悟り、血の気の引いた顔で逃げ出そうとする。
けれど、両側から押さえられてそうもいかない。
まったく。情けない。
直属ではないとはいえ、第三課に属する者が業務上は非戦闘員の第二課に押さえつけられてどうすんのさ。無理やりつれてこられて同情はするけど、自分の鍛錬不足が招いた結果でもあるよなぁ。
そう思っていたら本人もそう思ったようで、顔を悔し気に歪めていた。




