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「ここに各課それぞれ提出していただいた予算案の書類があります。我々で確認させていただいて、赤字で却下分とそれに伴った金額変更を記載したものを毎年返却していると思います。その状態にしてありますので、まずは一度皆様もご確認ください」
シャルルがそれぞれ机を回り、先日提出していた予算案が返された。
その言葉通り、却下分が赤字で消され、下の合計金額が訂正されている。
良かった。思ったよりも今期は却下分が少ない。
……ん? いや、待てよ?
今回は予算獲得後に組み直しになるのか。危ない、危ない。
あやうくぬか喜びするところだった。
「セレイル様。今年もやはりこの項目、却下となりましたね」
「ふん。部外者が判断するのだから致し方あるまい」
「そこです」
「は?」
半ば皮肉げに口にした言葉をシャルルに拾われ、セレイル様は眉を顰めた。
副官より下の者であればその表情を見るだけで委縮してしまうものだが、シャルルはそんな様子は微塵も見せない。
さすがは会計担当と言うべきか。個々に渡り合ってきたせいで耐性ができているらしい。
「同じ院内とはいえ、各課の業務で必要な費用を全て把握するのは到底無理があるというもの。明らかに不要と思われるものは容赦なくばっさりと行かせていただいておりますが、判断材料に乏しく、曖昧な判断基準となるものも多いのも確かです」
この言い分にはセレイル様も思うところがあるようで、口を挟まない。
判断材料とはなにも金銭だけでなく、裁判の際にも重要になってくる。
その点において自分の課と重なって思えたのか、瞬きもせずシャルルを見据え始めた。
「なので、今回良い機会ですので、皆様には却下となってしまった項目について私と今から来るもう一名にアピールしていただきます。もし、我々が納得できる用途であれば却下取り消しの上、費用計上をいたします。さらに、そこに記載がない項目でも構いません。記載がないものについてはポイント制で、却下して浮いた分の費用から振り分けを行います」
「ちょっと待った」
レオン様が頬杖をつき、予算案を眺めていた視線をシャルルに流した。
「本当にないものでも構わないの?」
「構いません。ただし、先に言いますが、茶菓代等は当然却下です。認めません」
「ふーん。だって、潮」
「だって、って。……僕はそれを計上しようだなんて考えたことはないよ」
笑顔で潮様に話を振るレオン様だが、誰もが分かっている。
もしそれが却下にならないのであれば、茶菓代請求に手を上げていたのは確実にレオン様だっただろうということくらい。
ただ、それをわざわざ口に出して藪蛇になるのは避けたい。だからこそ、話を振られた潮様以外の全員がこの話自体をなかったことにするべく黙ってやり過ごした。
……あ、そうだ。
却下したものが再考の余地があるなら。
「あの、申請が通ったものの増額は?」
「それも可能です」
「フェルナンド様っ!」
「星鈴! やったね!」
薬種の購入予算は通っているとはいえ、まだまだ足りない。
怪我や病気になるのは全員に可能性がある。
となると、他の項目よりも申請が通りやすいと言っていいだろう。
私とフェルナンド様は思わず抱き合い、喜びを噛みしめた。
さてさて。そうなると、黙って待っているわけにはいかない。
誰が来るかは分からないが、その誰かが来るまでが勝負。
各課の課長と副官達が、これはあれはと一斉に相談し始め、その者の到着を待ちわびた。




