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逆行的に動く歩道

作者: カテチャ

 夜間、僕はふらふらと街で歩き続ける。空中に巨大な時計と砂漏が現れるのを気づける。ところが、針がぐるぐると逆らって回ってまるで狂ったようで、隣に横並びの砂漏も時間とともにもともと下にある砂がまさか上へ登っていく。それと一瞬にして、街の人々が静止して自動的に僕とすれ違う。彼らは静止したまま、目の前に通り過ぎてついに消えてしまった。依って、僕が本当に前進しているのか、それとも周囲の物事が逆行的に何かに依って行われていて、アンナチュラルとなっているのか、全く見当がつかずに、足を止めた。

 街どころか、周囲に至るまでも真っ白となって果てがない。どれほどの白みだというと、高いビルや忙しい車などは全て白に染められてしまい、つまり、時計と沙漏以外の物がない。全てがその白に呑み込まれたようだ。幸いなのは、僕は消えなかった。時計と沙漏と僕だけがこの空間に存在する。

 もともと目的地のない僕はさらに彷徨う。そもそもここから脱出する方法などはないのかなとなぜか頭にこのネガティヴな考えが孕んだ。しかし、理由を問われると僕にもよくわからないけれども、ただこの全ては人生における様々な偶然のではなく、ある意味で必然として発生した、誰であろうとも必ず経験する気がしてくる。

 考えているうちに、地面が動き始める。空港の平らかな動く歩道のようだが、逆さまに緩んで動くのだ。その場で佇むと、流石にやばいと思い、前方へ散歩のスピードで進む。一旦進むと決めて、戻るわけにはいかず、前方は真っ白とはいえ、何かがあるかも気になって僕は歩き続ける。地面の動きが遅いので、僕は前進している気がする。

 歩き続けて、前方に建物の姿が近づいてくる。目を逸らせば、病院だった。それと、なぜか病院からは赤ちゃんの泣き声と男女の二人の笑い声が聞こえてくる。病院を通り抜くと、新たな建物が見えてくる。窓から覗くと、おもちゃがいっぱい並んでいて、これは間違いなくおもちゃ屋だ。それから、小学校、中学校、高校、大学が次々と現れてそれぞれの人も学校から出てくる。笑い声や泣き声なども次々と聞こえてくる。かわいい児童は砂遊びを僕に誘ってくる、中二の中学生はいたずらの顔をしてサッカーを誘ってくる、大人しい高校生は一緒に帰ろうと言ってくる、立派な大学生はファイルを抱いて図書館へ行くのを求めてくる。その人たちはともに歩いてくれた人もいれば、最初からすれ違う人もいた。しかし、いつの間に消えてしまったかさえ気づかずに、歩きながら後ろを振り返ったら、また僕一人となった。

 大学を通り抜くと、地面は動く歩道のスピードを速めた。その上、ビニールで作製されたような壁が向かってくる。それと同時に空中の時計は相変わらず回り続いて、沙漏は一度回転したが、砂も相変わらずに上へ昇っていく。抜かれないように僕は大幅に跨いで足を急ぐ。その壁を両手で破壊してさらに進む。前方に何かあるかという好奇心はまるで記憶に存在しなかったように抹殺された。それと、足を止めることができなくなった。

 仕方なく、さらに歩き続けると、ある会社の姿が現れる。今度は笑い声や泣き声ではなく、ある穢れの声だった。窓に二人のスーツ男性が映るが、老けて見える人は、何の原稿を持って、若く見える人を見ろし、原稿の何箇所に指しながら、口に何かを喋っているようだ。一方、その若く見える男性の顔は眉を顰めて、老けて見える人に何度も辞儀をしまくる。

 集中して見届けているうちに、何かに頭をぶつける。しかし、痛くはなかった。さらに壁だったが、触ってみると、海綿のような構造だ。これも簡単に両手で破壊した。壁の後ろ、地面は突然にでこぼこして、時には跳ね上がらなければならない土台・ただには跨げないような前進の道を妨げる障害物が現れる。それらを通り抜くために、僕はしゃがんで進んだり、身を伏せて進んだり、跳ね上がって進んだり、登ったりして、何とか乗り越えた。そして疲労感も感じてきた。しかし、僕は足を止めることができず、さらに進むしかない。

 空中の時計は回り続き、沙漏も再び回転して、砂が上へ昇っていく。地面のスピードはさらに激しくなった。歩きだと、前に前進できず、抜かれるほどのスピードだ。僕は走り始める。すると、次の壁が現れる。今度も簡単に破ることができると自分の既有の力を信用して頭で突っ込もうとするが、真っ先の壁に突き当たってしまった。痛かった。それから、片目の目線が一瞬に赤くなって、硬い壁に後ろへ無情に阻害される。瞬きをし続け、赤みを取り除いて見ると、レンガの壁だった。しかし足が止めることができない。仕方なく、痛みを忍耐しながら、拳を振ったり、頭でぶつけたりして、やっと壁が破壊できて穴を作製する。そして、真ん中の穴を登り、通り過ぎていく。自分の両手を見てみれば、ある指の爪がなくなって、血まみれだ。しかし、それでも足を止めることができず、さらに走らされる。またしゃがんだり、身を伏せたり、跳ね上がったり、登ったりして前進する。前方に何かあるかは、すでに関心などがなくなって、とにかく無事でいれば良い。

 途中で、シャベルを拾えて、持ちながら走らされる。それからも、レンガの壁が現れ、シャベルを利用して簡単に破壊できた。それから、建物が現れる。それは教会堂のような建物で、中を覗くと、ウェディングドレスを着る女性は、目に憧れを込めて満足しそうに相手を一途に見上げ続ける。聖的な儀式を行われているそうだ。幸福感がその場で漂ってきて、僕の頰に触れる。それに影響が及ぼされたおかげか、指の痛みは忘れていく。さらに体中に力が満たされてシャベルを強く握れた気もする。

 一方で、空中の時計は回り続く。沙漏も再び回転して、砂が上へ昇っていく。地面のスピードも次第に進化する。僕は速やかに走らされる。それからもかなりの壁や土台などがあった。破壊してもう一度病院が現れる。赤ちゃんの泣き声と二人の笑い声が聞こえてくる。何かの責任感でも持っているかのような気がして、シャベルを振り回して現れる障害物を破壊する。破壊し続けるとともに、僕は疲れてきた。しかし、止めるわけにはいかない。前に道を切り開くしかない。

 シャベルはついに耐えられず、壊れてしまった。運が良いとでもいうか、代わりに僕は鍬を拾えた。それからは数え切れずに障害物を破壊する。

 ついに、障害物に鍬を相変わらず振り回すが、前よりさらに硬くなる壁が現れたのか、破壊し続けることに依っての退屈なのか、簡単に実現できない儚い無力感を感じたのか、あるいはただの疲れなのか、正直にいうと、見分けられない。なぜか虚しみが身に襲ってくる。しかし、それといえども、前方へ向かうしかない。足を止めることができないから。

 虚しみを抱えながら、無益に鍬を振る舞う。飽きてきた、少しでも休憩したい。が、それこそ儚く実現できないことだ。もう、前方に何かあるか、考えるのもやめだ。魂の抜かれたように、無意識的に前進させられる。いつの間に、手に握った鍬を落としてしまった。しかし、それはどうでも良いことだ。仮に前方がどんな壁、どんな土台があっても、僕はもがくのをやめるのだ。死にたいほどまでも思えてくるのだから。僕は本当に疲れた。休みたいのだ。ひどく言えば、生き延びることさえもやめたいのだ。僕は気力が抜かれたように、すっと倒れてしまって時計と沙漏を眺める。

 途端に、空中の時計は針を止めさせて、にょろにょろと水のようになる。その水は地面に滴ってきて、消えてしまう。沙漏も回転せず、砂が上の部分に止まって、ばらばらとグラスのかけらのようになって、ぱっと次第に地面へ落ちてくる。地面もスピードを上昇させたのではなく、それに反して、徐々と、動かすのをやめてくれる。

 全てが静止する。

 やっと止めてくれたな。僕は頑張ったよ。しばらくは仰向けで横たわる。地面は冷たく感じる。背中から滲んでくるその冷たみが全身に広がっていく。これも無情だ。しかし、冷たいとはいえ、起きられる気が全くしない。この場で永眠でもしようか。すると、僕は目を閉じる。環境色の真っ白とは対照的で、目を閉じると、何も見えない真っ黒となって、これからはきっとこの黒に溶け込むだろう。何か実現したくて実現できないことでもあるか。そうだ、棺がなくても、自分の墓を掘らないと。

 無力に目を開く。体をひっくり返して、両手で体を支える。かなり疲れたな。少なくとも、墓を作り出すことだ。すると、僕は地面を掘り続ける。さっきの傷からはまた血が溢れてくるが、その痛みは到底今としては感じやしない、どうでも良いことだ。

 最後の意識を保ちながら、穴を掘り続ける。時間をかけると、やっと良い加減な穴を作り出せた。身を引き摺って僕はその中に伏せる。まんざらそれを棺というと、様子としても大いに違ってくる。そして、覆ってくれる人や、蓋もないのだ。

 しかし、僕はもう眠い。

 そうだ、覆ってくれる人がいなくても、蓋がなくても、僕は眠るのだ。

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