異世界と箱
私なりにちゃんとした異世界モノを書いてみたいと思います。
「さて、ここはどこだ」
気づいたら見知らぬ草原に立っていた。
見渡す限りの大自然。人工物が見当たらない。
俺は悟った。ここは異世界なのだ、と。
「さて、異世界というわけだが、少し状況が違うぞ。
俺の見ていた異世界漫画であれば、異世界に来る途中で女神とか管理者とか、そういう神様みたいな存在にチート能力をもらうイベントが起きるというのがお決まりなんだが」
「ふぉっふぉっふぉ・・・」
突然、どこからともなく声が聞こえてきた。
「後ろじゃよ」
振り返ると、白髪で白いひげを生やした、白い衣の老人が立っていた。
「あんたは誰だ」
「わしは、いわゆる"神様"じゃよ」
自称神様のビジュアルが典型的過ぎて、何の疑問も無かった。
「それで、"神様"が俺に何の用だ」
「うむ。君はもう、わかっているかもしれないが、ここは異世界なのじゃ。
君らの世界から見れば、の話じゃがの」
「そうみたいだな。それで、俺は元の世界で死んだのか?」
「お主は死んでから、こちらに来たのではない。生きたまま、召喚されたのじゃ」
「いわゆる"転生"でなく"転移"ってやつだな。それで、誰が何のために、俺をここへ呼んだんだ?」
「無論、お主には勇者として、この世界の魔王と戦ってもらう」
「魔王を倒せば、元の世界に戻れるのか」
「まあ、そういうことじゃな」
異世界系の物語には、このように神様的な存在とのやりとりがあるのがお決まりである。
できれば老人ではなくて、麗しい女神様だと嬉しかったのだが。
「それで、俺にチート能力を何かくれるんだよな?」
「ち、ちいとのうりょく?」
「ほら、異世界から来る奴ってのは、たいてい何かしらの特殊な能力とか魔法とか、神様からもらうってのがお約束だろ?」
「ああ、そうじゃった、そうじゃった。お主に渡すものがあったのじゃ」
そう言って老人は、宝箱・・・のような箱をくれた。
真ん中に鍵穴のようなものがある。
「じいさん、これは鍵がかかってるみたいだぞ。鍵は無いのか」
「残念ながら、鍵はお主自身で見つけねばならん」
「どこにある?」
「それは言えないのう。ただし、ヒントを教えてあげよう。鍵は必ずしも、鍵ではないのじゃよ」
「は?」
老人は意味不明なヒントを言うと、箱の前に屈んだ。
そしてどこからか取り出したロープを箱の両端に結んだ。
「これで持ち運びやすくなったじゃろ」
「いやいや、こんなの持ち歩かないって」
「ん?欲しくないのか、チカラを」
「いや、欲しいよ」
言われるままに、俺は箱をショルダーバッグのように肩から吊り下げた。
「うむ。それではチュートリアルを始める」
いったいどうなるのか自分にもわからない