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第3話 ひつじ雲を捕まえて


今日もお空は良い天気。

太陽がちょうど真ん中くらいに昇った頃のことです。


「クルミちゃーん!開けてー!」


茶色い毛並みを持つ一匹のタヌキの子が赤い屋根の小さなお店の扉を叩いていました。


「クルミちゃん!クルミちゃんってばー!まだ寝てるの?!ねえ!」


タヌキの子は扉をドンドンと乱暴に叩きながら騒いでいます。

しかし、扉が開く気配はありません。


「もー!クルミちゃんは!」


タヌキの子は呆れたようにため息を吐いて言いました。

タヌキの子の名前はココ。

最近、クルミの魔法屋さんで働いています。


「ココくんも大変だねぇ」


ココが一生懸命扉を叩いていると、木々の隙間をすり抜けて白衣を着たネズミがやってきました。


「あっ先生!」


ココがネズミを見ながら言います。

ネズミはココを見てニコリと笑いました。

白衣を着たこのネズミは、森の東でお医者さんをしています。

だから、みんなから先生と呼ばれていました。


「クルミちゃん!お客さんだよー!開けてー!」


ココは再び扉を叩き始めます。

しばらくすると、ガチャリと扉が開きました。

中から一匹のキツネが出てきます。


「……おはよーございます」


眠たげに目を擦りながら出てきたのは金茶色の毛皮と黄金の目を持つキツネの女の子でした。

クルミの魔法屋さんの店主、クルミです。


「遅いよ!僕ずーっと扉叩いてたんだよ!」


ココが叫ぶように言います。

クルミは耳を寝かせながら、大きなあくびをしました。


「えいぎょーじかんはクルミの きぶんが のってから ひがくれるまでだょ」

「もう!寝ぼけないでよ!」


クルミの言葉にココはプンプンと怒ります。

クルミは特に気にした様子も見せず、大きく背伸びをしてからネズミのお医者さんに視線を向けました。


「いらっしゃいませー!なにか困ってるの?」


クルミが尋ねるとネズミのお医者さんは頷きます。


「ちょっとお薬の材料が足りなくてね。頼めるかな」


そう言ってネズミは一枚のメモ紙を取り出しました。

クルミがメモを受け取り、ココが横から覗き込みます。


「ほうほう」

「うわぁ、いっぱいだね」


クルミはメモを読みながら店の中に入っていきます。


「言うよー!」


そして、誰にともなくそう言うとメモを読みはじめました。


「歌う花。帽子付きのブドウ。笑わない茎。物差しになる葉っぱ」


クルミがメモを読むと引き出しに入った商品が自分から飛び出します。

そして、床に行儀よく並んでいきました。

クルミがすべてのメモを読みあげた頃。

床には、たくさんの商品が一列に並んでいました。


「あれ、一個足りない」


商品を袋に詰めながら、クルミが呟きます。


「何が足りないの?」


ココがクルミの持つ袋に大きな葉っぱを詰めながら尋ねました。

クルミはメモを見ながら、何か分かんないけど足りない。と呟きます。

今度はネズミが近づいてきました。


「ひつじ雲がないね」


そして、そう言ったのです。


「あー……残念」

「『残念』じゃないでしょ。ちゃんと用意しないと」


間の抜けた声で言うクルミに、ココは呆れたように言います。

ネズミのお医者さんは、そんな二匹を見てニコニコと笑います。


「じゃあ、とりあえずそれだけ貰って帰るよ。ひつじ雲は今度届けてくれるかな」

「はい、喜んでー!」


元気よくお返事をするクルミにネズミのお医者さんは 懐から取り出した袋を渡します。

中にはたくさんのお薬が入っています。

クルミが袋を受けとると、ネズミのお医者さんは帰ってしまいました。




.*+;゜*・+;゜*・+.゜*.


お医者さんが帰って、しばらくしてから。


「おでかけします!」


虫取網を持ったクルミがそう宣言しました。

頭には麦わら帽子をかぶり、肩からは大きな虫かごを下げています。


ココはお医者さんに貰ったお薬を棚に並べるのをやめ、クルミを振り返りました。

手に持ったお薬には『雷さんにおへそをとられても安心』『頭からお花が生えたとき用』などと書かれています。


「どこ行くの?」

「ひつじ雲捕まえてくる」

「ひつじ雲って生き物なの?」

「ううん、違うよ」


ココが尋ねると、クルミはそう答えました。

ココは首をかしげます。

生き物じゃないのに捕まえるなんて、どういう意味でしょう。

ココは頭がこんがらがってきました。


「よく分かんないけど僕も行くよ。クルミちゃんだけじゃ不安だからね」


ココはそう言ってお薬の入った袋をカウンターに置きます。

クルミは首をかしげながら、不安?と不思議そうに呟きました。


二匹はお店を出ると歩き始めます。

てこてこと二匹は進んでいきました。


どれくらい歩いたでしょう。

ココは、そういえば。と言いながらクルミに顔を向けます。


「ひつじ雲ってどこにあるの?」


そして、そう尋ねたのです。

クルミは森で一番大きい木のてっぺんよりも高い位置を指差すと


「お空にあるよ」


そう答えました。


ココはその答えにびっくりしました。

お空にあるものを捕まえるだなんて想像もつかないのですから。

魔法の絨毯や箒であれば飛んで捕まえることもできるかもしれません。

しかし、クルミが持っているのは虫取網と虫かご、それから麦わら帽子だけです。


「……どうやって捕まえるの?」


ココが呆れたように言います。

クルミは、うーん……と考え込みました。


「どうしよっか」

「……そんなことだろうと思ったよ」


ココはガックリしたように地面に座り込みます。

クルミはそんなココを見て、休憩する?と尋ねました。


「休憩じゃないよ……」


ココが疲れた声で言います。


「クルミお菓子持ってきた」

「ねえ、聞いて」


ココの言葉を無視してクルミはレジャーシートを広げ始めます。

そして、その上にお菓子を広げはじめました。

ココはため息を吐きながらクルミの隣に座ります。

クルミはそんなココを見て首をかしげると


「クルミお昼ご飯食べてない」


ハッとした顔で言うのでした。




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