3 心の記憶と思い 2
その時は突然来た。
大学の講義が終わって家に帰ろうとしていた時に『相談したいことがあるんだけど今日飲みに行かないか』と彼から連絡があった。
私はすぐに『了解!!いつものところで!』と返事を送って、急いで家に帰った。
彼に会うときは彼に少しでも好印象をもってもらいたくておしゃれに力をいれる。これは恋する女の子なら誰でも同じだと思う。
おしゃれしていつものお店に行くと彼はもう来ていた。
お店に入っていつものように料理と飲み物を頼んで、食べながら彼の相談事を聞いていた。いつもは大学の講義の事やバイト先の事や友人の恋の事とかの相談や話だったけどその日は違って彼の恋愛についての相談だった。
私はあなたから私の友人のことが好きで、どうしたら付き合えるだろうかということ。そして彼女に恋人がいるのかなどを相談された。
相談されたとき私は彼が何を言っているのかを一瞬理解できなかった。そして理解した瞬間持っていたコップを落としそうになった。
彼が私のことを信頼して自分のことを相談してくれることはとてもうれしかった。でも相談された内容があなたの恋愛相談なんて。
私は彼の質問に対して、彼女に彼氏はいないことや彼が気になっていることを全て答えた。そして彼女にそれとなくあなたに好意を持っているのかを聞いてみるという約束などをしてその日の飲み会は終わった。
気付いたら家の玄関に立っていた。会話したところまでは覚えているが別れてからどうやって帰ってきたのかをまったく覚えていない。
気付くと頬に涙がつたっていた。もう想いを隠す必要ないよねと思った瞬間涙があふれてきてたまらない。
あなたと一緒にいたくて想いに気付かれないように心をうまく隠す癖がついてしまったことで、彼からの友人への恋心や相談を受けている時は気付かれないように「良い友人」を演じた。
きっと半年前の私ならあなたの恋愛相談を聞いた瞬間にその場で泣いていたかもしれないけど成長したことで彼の前では泣くこともなく、応援しているかのように演じることができた。
私って本当に成長したんだな。そしてその成長が今の自分の心の荷になってしまっている。
せっかく仲良くなれて、今度こそ頑張るぞって決めてたのに今度は告白する前に二回目の恋が終わった。
彼に幸せになってほしいという思いと友人と付き合ってほしくないという思いが心の中でまわっている。
「友人に聞いてみる」と言ったが友達にまだ聞いてないが5人で遊んでいる時の彼女の雰囲気ならたぶん彼に気があるのだと思う。
昔からそういった勘は外したことがない。今までその勘に助けられてきたが今回はその勘が自分の首を絞めることになるだろうという未来への想いがさらに私の心に痛みを与える。
私はどうしてこんなにも恋に恵まれないのだろう・・・・。
あなたが好きになった子がせめて私の友人じゃなくて知らない人なら、まだ私の恋がかなう可能性を信じることができるのに・・・。
彼女はおしとやかなタイプでかつ優しくて大抵の人に好かれるタイプの私の自慢の友人。
だから彼女を好きになった彼は人を見る目があるし、彼は明るくて優しいタイプだからお似合いだと思う。
そんなことを思う一方で私はそれが悔しいなと思った。彼につりあえるようになりたくて、いろんなことを頑張ってきた自分が意味のない存在に思えてきてしまう。
そして彼女のことをうらやましいと考えてしまう自分が嫌になる。
今日一日は思いっきり泣いて明日には彼の友人としてそして彼女の友人として二人の幸せのために、そして自分のために応援すると決めた。
2人に幸せになってほしいという思いは本心だし、今まで頑張ってきた自分が無意味な存在ではないことを確認するために応援する。
そして彼への恋心で自分がこれ以上傷つかないようにするために二度と鍵が開かないように「恋心」に何重にも鍵をかけて奥底に封印して、「恋」という概念を自分の中から追い出した。
そうすることで2人のキューピットになっても心が痛むことはなかった。
2人は徐々に距離を詰めていきついに付き合い始めた。
私と2人の関係というと相変わらず彼とはたまに悩み相談をのり、彼女とも親友としてそして相談にものる関係が続いている。ただ彼とは2人で飲みに行くことはなくなり、昼間に彼の友人も一緒になって相談されたり会うようになった。
彼も彼女も別に2人で飲んでも構わないと言ってくれたが私はそれを断った。自分に関係のない恋愛相談にのることは出来ていたが、この時すでに私の心から「恋」という概念は消えていた。それでも無意識に2人きりになることを避けていた。
彼への想いが友人としてへと変わっていたが、恋心へと変わってしまうかもしれない機会は全て避けることで自分の心を守ることができた。
それからも関係は変わることはなく私は2人の友人として毎日すごしていた。
ただ4年生になり、卒業研究と就活で半年ほど2人と会えていなかった。
-現実-
ふっと目の前が明るくなった。
『どうですか?あなたの恋は終わっていないことを思い出しましたか』頭の中に聞こえてきた。
思い出したからといって彼への想いは終わったし、もし私に彼への恋心が残っていたとしても彼には彼女がいて私の恋は実ることはないことははっきりとしていると思う。
『彼と彼女はあなたと会えなくなってからしばらくたったころに別れていますよ。だから彼は今彼女はいませんよ。』
・・・え!?あの2人別れたの!!?理由は?それに2人とも大丈夫なの?
『理由はまあ置いといて2人は元気に生活されていますよ。だから気にせず初恋の続きをはじめてくださいね。もう心に鍵をかける必要はありませんよ。頑張ってくださいね。後、湖の向こう南側に街があるのでそこに向かうといいですよ。』
頭の中に聞こえてきていた声が聞こえなくった。
・・・・。2人が元気に生活しているのは良いけど、そもそも自分の心に鍵なんてもうかけてないし、初恋もきれいに終わってるんですけど・・・。誰か知らないけど人の話聞いてないな。
とりあえずここにいても仕方ないから言われたとおりに街を目指しますか。
彼のことも心配だしね。
-声の主-
『精神面が成長した代償として恋心にあまりにも長い間鍵をかけてしまっていたことで恋という概念を思い出すことができなくなっている。どうかこの世界でそして冒険であなたの恋心の鍵が解けることを祈っていますよ。そしてあなたが幸せになることを祈っていますよ。・・・私の愛し子』