アバンチュールラプソディ①
天使(久石さん)が申込書に記入中の為、僕は一旦自分のデスクに戻ることにした。「今日はマンガみたいな日だなミッチー。ミクルンから天使なんて素晴らしいな。」名村課長はパソコンのキーボードを叩きながら言った。鈴木くんもまた、課長と同様にキーボードを叩いていた。眉間にシワが寄っている。何故だろう。「あの子やっぱりどこかで見た気がするんだよな〜。どこだっけな〜。」彼のパソコン画面には風俗嬢特集のページが映し出されていた。職業は当たっているため記憶力は良いんだろう。あの子が働いているお店でも利用したのだろうか。僕は利用したことはないが、そんな人が会社にやってきたらさぞ動揺するのは容易に想像できた。
天使(久石さん)の方を見ると、記入が終わったようだった。
意外に早かったな。「お疲れ様でした。それでは目を通させていただきます。」希望年収300万くらい。求める第一条件[優しくて強い男性]その他の項目においても、天使は庶民にとてま優しいらしく、求める条件は非常に低かった。「失礼ですが天使..いや久石様。勤めている私が言うのもなんですが、やはりあなたくらい綺麗であれば引くて数多じゃないんですか?求める条件も非常に低いですし。」風俗業界に詳しいわけではない。自分が担当したお客様の中にも風俗嬢の子はいたが、求める条件はこんなに低くなかった。ただ、精神的な拠り所を求めているという共通事項はあったが。
天使を見ると、一瞬美しすぎる故に眩しくて見えない状態だったが、眩しさがなくなると、表情は暗かった。「職業は書いた通りです。よくある話で借金返済の為に働くことになって。働き始めて5年くらいになります。借金はだいぶ前に返済済みなんですが...」求める年収が低い理由は納得した。5年も働いていれば、この容姿だから相当人気だったはずだ。返済に時間はほとんどかからなかったのだろう。そうすると風俗嬢をやめない理由としては、ホストハマりでもしたのだろうか?いや、性の天使なのか。天使の抱擁か。性神か。
「私の人気が予想以上に高くて。この業界で有名になってしまったんです。私としては貯金も充分すぎるくらい貯まりましたし、早くこの業界から身を引きたいのですが...」
状況はなんとなく察した。この話の続きはおそらく会社が辞めさせてくれなくて〜の類いだろう。どんな業界でも会社のパワハラはあるだろうことは分かる。名村課長に関して言えばおそらく「オッケー!お疲れ様!」と簡単に辞めさせてくれるだろう。それはそれで寂しい気もするが。
「なかなか辞めさせてもらえず、しかも会社にストーカーがいるんです。一時期は毎日大量のLINEが来たりして本当に困っていて...」
彼女が差し出したスマートフォンの画面には、ある男から999の通知が来ていた。おそらく最大表示が999なだけであって、実際にはそれ以上メッセージが届いているのだろう。内容は聞かないがこの通知数で異常な事は誰にでも分かる。分からないのは当の本人だけだ。しかし何故だろう。LINEにはブロック機能があったはずだ。
「本当に気持ち悪くて、最初すぐにブロックしたんです。そしたらストーキングに変わって...LINE通知は証拠のため保存してあるんです。もちろん警察にも相談しました。ストーカーの男は警察に捕まって解決しましたが、その一件以降夜道を歩くのが恐ろしくなってしまって...」
なるほど、それで優しさと強さを兼ね備えたナイトを求めたのか。自分には程遠い存在だな。天使の難問を村人その1レベルの僕が解決できるだろうか。会社の窓から空を眺めた。今日も空は曇っている。天使の輝きを消すほどに。




