1話
会社があるビルの近くの喫煙所でタバコに火を点けた。喫煙所には僕を含めて、スーツを着たサラリーマンが20人ほどいた。時刻は午前8時。通勤途中のサラリーマンが出社前に一息つく場所がここだった。
横浜駅近くには高層ビルが立ち並び、居酒屋、ラーメン屋などが忙しなく並んでいる。
僕が勤めている会社も横浜駅から徒歩5分と好立地な場所にある12階建ビルの3階にある。
タバコを吸い終わり最寄りのコンビニで昼食を買って会社へ向かった。
会社へ歩いていると、後ろからお馴染みの声が聞こえた。同期の鈴木君だ。
「おはよう〜。どうよ調子は?」
通勤途中に毎回会うので僕の調子くらい分かっているはずなのだが、彼は毎朝尋ねてくる。口ぐせというやつだ。
「ぼちぼちかな〜。昨日も5件試しは成立できたよ。」
試しというのは、僕の会社でいう条件に合う異性同士が試しに会うことだ。それが昨日5件成立した。
最終地点は勿論結婚だが、試しはそれの第1通過点である。簡単なようでこれが意外と難しいのだ。
「ぼちぼちってところか。俺の方はこの間のマダムがさ〜。」
なんて会話をしているうちに会社が入ってある第2島田ビルに着いていた。
オーナーね島田さんが保有する第2ビルというものなのだろうが、横浜駅近くには、この手の名前のビルが大量にある。地主というのは儲かるらしい。
エレベーターで3階に上がると、名村課長が机に座り、コーヒーブレイクしていた。
「おっはー鈴木。おっはー光村。」
名村課長は非常にノリが軽い。
今年で39歳になるのだが、その見た目は20代後半に見えるくらい若々しい。僕の頼れる上司だ。
「課長また貰ったんですかー?いい加減少しくらい分けてくださいよ。」
課長の左腕には高価そうなシルバー時計が輝いていた。うちの会社は結婚相談所なのだが、名村課長はその若々しい見た目もあってか、相談に来た女性から好かれる。腕時計は結婚が成立したお客様からの気持ちというものだ。腕時計が頻繁に変わるほど、課長はお客様の結婚成立数が多い。将来社長になるんじゃないかという噂はあながち間違ってはいないだろう。
「まあまあ良いじゃないか良いじゃないか。とりあえず10分後にミーティング始めるぞー。」
鈴木君と僕は自分のデスクに座り、一旦喫煙所に向かった。仕事モードに切り替えるために。