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ささやかな物語

甘い香り

作者: 優悠


 あんなにもうるさく感じていた蝉の鳴き声はいつの間にか聞こえなくなっていてどこか少し寂しさを感じていた。

 冬がくれば、早く夏が来ないかな、なんて言っていたのに、夏になったらなったであまりの暑さと蝉の大合唱にうんざりして日が経てば経つほど、早く冬になってくれないかな、なんてぐちぐちとぼやいて、気付いたら長く感じていた夏はすでに終わっていた。

 陽が落ちるのが早くなることに、あぁもうすぐ冬が来るんだな。と実感して、もっと花火をやりたかったな、海に行きたかったな、今年はスイカ食べれなかったな、もっといっぱい外に出ればよかったな、なんてやり残したことを後悔する。

 それでもどこからか風に吹かれて運ばれてくる金木犀の香りが鼻先をくすぐり、そんな思いはまるで氷のようにすっと解けていくんだ。

 夏が終わった。そしてこれから冬がやってくる。

 夏には夏にしかできないことが、冬には冬にしかできないことがあるんだ。

 例えば寒さを口実に大好きな貴方に抱きついたり、ね。

 寒さを口実にしなくてもいつだって甘えればいいのに、なんて貴方はいうけど、

 そんなこと言ったって、私はそんなに素直になれないんだから仕方がないじゃない。

 私たちを包む風は少しだけひんやりと冷たくて、それはまるで仕方がないな、と風が背中を押してくれているような気がしてクスリと笑いながらあなたの腕の中に入る。

 金木犀の甘い香りとあなたの香りはどこか似ていて、私はそっと目を閉じた。


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