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7話:異変

「おはようございます。おにぃ先輩!」


 翌朝、志野宮いつものように彩を迎えに来る。最近では見慣れた光景だ。


「……おー。おはよう」


 イケメン先輩の件を何も聞いていないバツの悪さもあり、少し顔を背ける。


「?」


 志野宮はきょとんとした顔で俺を見ている。

(顔を背けるのはいつもの事なんだからそんなに見るな。責められてるみたいだろ!)


「おはよっ! 美羽ちゃん。待たせてごめんねー」


 バタバタとこれまたいつものように携帯片手に彩が部屋から出てくる。これ以上ないという明るい笑顔で。……これ以上ない明るい笑顔に見えるような顔で……

そんな風に感じるのは昨日の事があったからなのだろうか?


「「じゃあ行ってきまーす」」


 声を揃えて二人はいつものようにワイワイ何かを話しながら出て行った。なんだろうか、この違和感は。

(そういえば……彩と朝食一緒に食べたのって随分前だな)


 杞憂であって欲しいと願いつつ、目の前の大問題に目を向け直す。コーヒーブレイクを早めに切り上げ神並神社へと向かった。


 もしかしたら今日も志野宮が神社近くで待っているのではないか――とも思ったが、今日はそのまま登校したようだ。イケメン先輩の件はこちらからのアクション待ち、といった所なのだろうか。

 昨日とはうって変わっての晴天だ。少し肌寒い風も心地よい。だが……何か気持ち悪い。いや、普通に気持ち悪いのだ。頭がクラクラする。神社に近づけば近づくほど気分が悪くなる。

(なんだこれ……貧血?いや、これはマジで……洒落にならん)


――――ドタッ


 神社の入り口に着くか着かないかの場所で頭から倒れる俺。元々人通りの少ない場所という事もあり救急車を呼んでくれそうな人影すらない。今の俺の状態では救急車を呼ばれても困るのだが、そんな事を考える思考回路すら失われてきた。


「あ……これマジでやばいわ……」


 遠くなる意識の中でポニツインテールの髪がゆらゆら揺れているのが目に映った。



――――「……あっ……れ」

 何をしたわけでもなく俺は意識を取り戻した。時計を見ると30分程倒れていたようだ。気分も悪くない、というか普通だ。なんだったんだ一体?


「危うく死ぬところじゃったのぉ」


 顔を上げると幼神が呆れた表情でこちらを見ている。手には俺のベッドの下に置いてあったはずの青い便器ブラシを持っていた


「あ……幼神様。ども……」

「ども、じゃないけんのぉ。お前、自分の半身でもあるブラッシーを家に置いてくるとは何事じゃ」


 どうやら俺の半身はブラッシーと命名されたようだ。


「いや、学校に持って行くわけにはいかないでしょう? 落としたりしたら危ないし」


 はぁっ……と大きなため息をついて幼神は続ける。


「ブラッシーはお前の転生物じゃ。あまり離れすぎると生体リンクが切れてそのままあの世へ転生してしまうぞ。普通に考えればわかるじゃろ。ふ つ う に!」


 そんな神のルールなんて知る由もない。幼神は怒っているが怒りたいのはこっちだ。


「ん? なんじゃその目は?」

「いえ……別に」

「言いたいことがあるんじゃったらハッキリと言えばいいじゃろ。金玉ついとるんか?」


 ちょっとカチンと来た。


「……そう言う大事な事は教えといて貰わないと困るんですけどね!」


 少し声を荒げて言う。


「大事な事? あぁ、ブラッシー見つける為にお前の部屋へ忍び込んだ時に見つけたマニアックなエッチ本の事かの?」


 は?


「ご丁寧にブラッシーと共にベッドの下に置いてあったが故に、置き場所を忘れてしまっているのではないかと気を利かせ【母の愛】で机の上に置いておいた事かの?」


 はい?


「いや、褒めておるんじゃよ。インターネットがここまで普及すると画像も動画も無料で取り放題の見放題。そんな中であえて金を出しリスクを背負って雑誌という危険な紙媒体での所持を選んだお前の勇気に!」

(う、嬉しくない……だが、まだだ、まだ慌てるな)

「ざ、残念だったな幼神。基本的には俺の部屋に親が勝手に入る事はない。無言の不可侵条約を家庭内で結んでいるからこその選択だ。多少隠し忘れてもすぐに足がつくことはない。そういうロジックがある事を理解して貰おうか」


 勝ち誇った俺を見て不敵に笑う幼神


「ふっ、いつからお前の机の上にエロ本を置いたと錯覚していた。机は机でも……」

「ま、まさか……リビング……だと!?」


ニヤリ。

幼神の白い歯が零れる。


「それは本当に大事な事だぁぁぁ!!!!」


 一足飛びに自宅に向けて走り出す。金を払ってまで買う必要があるのか?と人は笑うだろう。世界はデジタル化の波に勝つ事はできないのだろう。

だが、だがそれでもエロ本は……


「エロ本は……男の浪漫なんだぁぁぁぁ……」


 泣きながら一心不乱に全力疾走した俺は、この日めでたく1000Mの自己ベストを更新したのだった。


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