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5話:GOD

――――時間にすると数分の出来事だったのだろうか。空模様は神社に来た時とほとんど変わっておらず雲間から差し込む光が神々しい。


「……夢?」


 仰向けに倒れていた俺は日の光の眩しさ耐え切れずムクリと起き上がる。胸に手をやるが特に変わりはない。いや正確に言うと違和感はあったがこの時は気づかなかった。


「やっと起きたか。ずいぶん寝坊助じゃのぉ」

 変な髪の少女が。先ほど俺の心臓を傘で一突きした少女が待ちくたびれたようにこちらを見ていた。

 夢……のはずだ。だが俺は滅茶苦茶ビビっている。先ほど夢とはいえ俺を殺そうとした少女が目の前にいればそりゃあビビるに決まっていた。


「……」

「なんじゃ?随分警戒されとるのぉ」

「……ここで何してるの?」


 恐る恐る訪ねる。


「わしか? わしは呼ばれたから来ただけじゃ。お前の妹にのぉ」

「……彩の知り合いか?」

「いや。知り合いとは言えんのぉ。わしはよく知っとるけどのぉ」


 爺臭い広島弁を喋りながらケタケタ笑う少女。なんかちょっとムカついてきたな。口の聞き方も知らんガキには少し大人の怖さを教えてやるか。


「お前の髪型変だな」


 唐突に精一杯の悪口を吐いた次の瞬間


「ぐぎゃあああああぁぁぁぁ!!!!!!」


 胸のあたりが凄まじい激痛に襲われる。まるで心臓が握りつぶされているようだ。


「ごめんなさい、しようの」

「ぐぎゃああぁ!! ごめんなさい!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」


 意味も分からず謝る俺。すると胸の痛みは不思議と引いていった。


「はあ、はあ。なんだ今の!?」


 胸に手をあてて痛みの正体を探ろうとすると先ほどの違和感の正体に気づく。


「? あれ」


……俺、心臓動いてなくね?

サーっと血の気が引いてパニックに陥る。

(えっ?? さっきのは現実?? じゃあここはどこ?? まさか死の世界? 

異世界に転生して人生リスタート状態?? いやいやじゃあ目の前のこいつは可愛い顔した殺人鬼?? なにこれなにこれ超怖い! いやこれは夢だ夢だ夢だ夢夢夢夢だあああ!!)


「これっ!」


 変な言葉使いの変な髪の少女が黒い傘で俺の頭を叩く。


「まあ急な事で無理ないのぉ。頭の悪そうなお前に端的に説明してやるけん耳の穴かっぽじってよーく聞いとれよ」


 コホンと咳払いをして手に持った一本の細長い藁を俺に見せつけながら変な言葉使いの変な髪の盗人少女が口を開く。


「1つ。お前は死んではおらん。お前の心臓はこの藁に交換、いや転生しとるだけじゃ」

「2つ。わしはこう見えてもわらしべ神。神の中の神、いわゆるGODじゃ。」

「3つ。この神社にわしを呼び出したのはお前の妹じゃ。お前の妹の切なる願いを叶える為にこうしてここにおる。」

「4つ。この傘は気に入った返さん」


――――4つ目だけどうでも良かった。いや正確には2つ目も3つ目も驚きはしたが、まだ聞き流せた。だが……


「はああぁぁ!!? えっその藁!? その藁が俺の心臓なの?」

「そうじゃ。ギュッ!」

「ぐはっ!」


 再び胸に激痛が走る。


「ほれ、こうして軽く握っただけで地獄のような痛みじゃろ」

「いやいや、別に握らなくていいですから。事象の証明を行ってくれるのはありがたいんですが、当の本人が理解する前に死んじゃいますから!」


 疑う余地すらない。現に俺の心臓は動いてないし藁を握られると胸に激痛が走る。現実逃避は簡単だが今すぐこの残酷な現実を受け入れないと……死ぬ。


「理解が早いのぉ。普通は意味も分からず泣き崩れるか逃げ出すかなんじゃが、流石は血の繋がった兄妹といったところかのぉ」


 クスクス笑いながら神と名乗る少女は話す。


「はぁはぁ……ちょっと神様に質問があるんですけどいいですかねぇ?」

「なんじゃ?」

「その、どうやったら僕の心臓を元に戻して頂けるんでしょうか……」


 パニックに陥りながらも俺は一番大事で最も質問したい事を問う。色々な疑問点や腑に落ちない事もあるが今のこの状況を打破するのが先決だ。


「そうじゃのぉ。わしも神として職務を全うしただけで元に戻るかどうかはお前が職務を全うできるかどうかじゃけぇのぉ」

「……いや、話が見えてこないんですが」

「神というのはのぉ。等しく人を救う為に信仰し造られるものなんじゃ。わしもこの世に転生されるのは3度目かのぉ。じゃがわしに人を救う力というのはそもそもないんじゃ。願いを叶える為に手を差し伸べる事、わしに出来る事は、神に出来る事はそのくらいなんじゃ」

「いや、ですから話が」


 ギュッ!


「ぐぎゃぁ!」


 またも藁になってしまった俺の心臓を軽く握り、悶え苦しむ俺を尻目に淡々と少女は話を続ける。


「話は最後まで聞け。そもそもわしがここにおるのはお前の妹が飽きもせず毎朝毎晩ここで強い祈りを捧げておったからに他ならん。神としてはあそこまで無垢な【願い】をされては手を差し伸べんわけにはいかん。という話じゃ」

「お、俺は妹のお蔭でこんな素敵な体験ができているんですね……わぁ……ほんとに妹には感謝だなぁ……はは」


 なんか良く分からんがとにかく彩の野郎ぉぉぉ!!


「後はわしの力じゃが……うーんそうじゃのぉ……」


 少し考えてから幼神は手に持っていた藁を俺に差し出す。


「えっ……あっ。返してくれるんすか?」

「まあ、そのまま持っておいても良いが、先ほど言ったように転移ではなく転生じゃ。今はまだ心臓と藁がリンクしているに過ぎんが時がくれば身も心も完全にその藁に移って行くじゃろうのぉ」

「は? え? じゃあこれどうしたら……」

「いいからそれを持ってそこのアレと、ほれ交換してもらって来い」


 幼神が指を指したのは神社に隣接した小さな公園の便所で掃除をしているおばちゃんだった。


「えっと。これと、ナニを交換するんですか?」

「今おばちゃんがゴシゴシしてるアレじゃ」

「アレって……アレですか……」


 便所の小便器内を青い便器ブラシでゴシゴシ掃除しているおばちゃんが角度的にしっかり目に入る。

 こいつは俺のマイハートを便器ブラシと交換しろというのか?? 狂ってる……しかし今は言う事を聞く以外に特に対案がある訳でもない。しぶしぶ藁を受け取って公園便所に近づく。


 藁がドクンドクンと脈打っている。

(なんか気持ち悪ぃ……でも俺の心臓なんだよな。なんか泣けてくる)

しかしそもそも大事な商売道具たる便器ブラシと交換なんかしてくれるのだろうか? いくらなんでもパッと見、ただの藁だ。頭のおかしい奴と一笑されて終わりでは?

 そんな事を考えつつおばちゃんに話しかける。

「あのぉ。すいません。この藁とですね、その便器ブラシを交換してもらえませんか?」


――――パァ!――――


 眩しい光があたりを包む。俺はびっくりして尻餅をつきそうになった。しかし同じ光を浴びたはずのおばちゃんは俺の手から藁を受け取ると自分が持っていた便器ブラシを差し出し、そして何事もなかったかのように違う便器ブラシを取り出して業務に戻ったのだった。

(今の光はなんだったんだ一体?)

無言でブラシを受け取ると理由はすぐに判明した。


ドクンドクン……

えっ、これって……


「神ィぃぃぃぃぃぃ!!!! 俺の心臓が便器ブラシになっちゃったんですけどぉぉ!!!!」


 大急ぎで境内に戻り幼神に詰め寄る。


「今実践してもらった通りじゃ。わしの力はわらしべの力。より価値あるものに転生できる神の力じゃ!」


 えっへんと誇らしそうに幼神は言う。


「あ、いや、そうなんですか。まあ神の力はいいんですけどね。つまりは一体どういう事かやっぱり良く分からないんですが……」

「仕方ないのぉ。頭の悪そうなお前に端的に説明してやるけん耳の穴かっぽじってよーく聞いとれよ!」

「はぁ……」

「1つ。わらしべの転生は3回まで」

「2つ。より価値ある物に転生と言っても限度はある。人間の金で言うと大よそ10倍額くらいかの」

「3つ。わしが呼び出された理由である【願い】を叶えることで転生の輪廻は消滅する」


「以上じゃ!」


 ドヤ顔を決める幼神


「ちなみに一番最初に転生できるものに限界はないぞ。なんといっても人の命に価値はつけられんからのぉ」


 人の心臓に傘を突き立てたお前がそれを言うか?


「つまり最初に転生したのが某新国○競技場とかじゃったら、まあ2回目の転生も大概なんにでもなれるからのぉ、あっという間に億万長者も夢ではない。【願い】を叶えるには財力、権力を必要とすることが多いからのぉ。つまりは初回に換わる物が重要なのじゃ!キリッ」


 決め顔の幼神は何かとんでもない事を言っているような気がした。つまりは元に戻る方法は輪廻を断ち切ればよい訳で、ひいては妹の願いとやらを叶えればよいらしい。ここでちょっと整理してみよう。

 転生は3回。


心臓⇒藁〈1回〉⇒便器ブラシ〈2回〉(500円程度)⇒5000円相当の品〈3回〉    


 うん。詰んでるな。


「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! もう詰んでるじゃないですかぁぁぁぁ!!!!」

「まあ落着け落着け。それは【願い】によるじゃろ」

「……!!」


 確かにそうだ。何もビルゲ○ツの願いを叶えるわけではない。我が妹の願いを叶えるだけの話なのだ。中学2年生の願いなど知れている。好きなバンドのライブに行きたいとか。ブランドの物の小物が欲しいとか。

(……いや、多分違うな。妹の願いは多分今日、志野宮と話した池先輩の――――)


「……ちなみに幼神様は知っているんですか?彩の、妹の願いを」

「くくっ、幼神とはよく言うのぉ。これでもお前より遥かに年上のはずなんじゃけどのぉ」


 幼神が不敵に笑う。


「で、知っているんですか?」

「当然じゃ。わしがここに呼び出された理由がソレなのじゃからのぉ」

「その【願い】教えてもらえませんか?」

「ま、いいけどのぉ」


 聞かなくてもなんとなく願いは分かっている。しかし変に妹に探りをいれるよりもこの方が確実だ。もうただの色恋ではなく俺の命が掛かっている。石橋を叩いて渡るにこしたことはない。

(一度妹の恋を成就させ、心臓を取り戻したら……即別れさせる!! 兄として!!)

 悪いな志野宮、事情が変わった。少しの間協力はしてやれねぇ!


「お前の妹の【願い】は……」


ゴクッ。


「世界征服」


………………あれ? これやっぱり詰んでね??


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