39話:神代彩
先日不思議な夢を見ました。
私が世界を救ってお兄ちゃんが私を救う夢。
私とお兄ちゃんは最近になって子供の時みたいに沢山話すようになってたからそのせいなのかな? 夢の中でお兄ちゃんは私の味方で居てくれることを宣言してくれていたけれど、そんな事聞かなくても私は知っています。子供の頃もあまり話さなかった時期もそして今もお兄ちゃんはずっと私の味方でいてくれています。最もそれに気づいたのも最近の話なんですけどね。
当然お父さんもお母さんも優しいけれど多分生まれてから一番長い時間を一緒に過ごしているのはお兄ちゃん。私の趣味……というか私の中ではもう一つの立派な世界なんですが人にはあまり言えないネオ地球の話を、それでもやっぱりお兄ちゃんに正直に吐露できたのは嫌がられても気持ち悪がられてもきっと離れないでいてくれると思ったから。
少し距離があったのはやはり思春期のせいでしょうか。思えばお兄ちゃんが私とあまり遊んでくれなくなったのは中学生に上がった頃からでした。小学生だった私は構ってくれなくなった兄を不満に思っていましたが自分が中学生になってみると理由が分かりました。自分の周りの世界に気を使っていたんだなって。妹と一緒にいるのが恥ずかしい、兄と一緒に遊ぶのはちょっと変。そんな周囲の目を気にしながら生きるようになって周りの意見に合わせて合わせて……ホント世界ってつまんないなーって思います。
でも違っていたんですね。つまんないのは私でそんな世界を変えられるのも私でした。そんな事を考えさせられた長くて素敵な夢でした。だから私は世界を変えようと思います。自分が自分らしく生きる世界に。
「あれ? あーちゃん?」
「おはよ……美羽ちゃん」
「先に行ったんじゃなかったの? もしかして何か忘れ物? 一緒に取りに帰ろうか?」
「ううん。そうじゃないの。美羽ちゃんに話したいことがあって途中で待ってた。」
心臓が張り裂けそうだ。今までも友達に自分の頭の中の世界を話した事あった。でも大体話してからは距離置かれたり、友達自体を辞められたりした。私があんまりにも自分の世界の中で熱くなっちゃうから皆引いてるんだろうなって思う。普通に過ごしてればいいんだろうなって思う。でも私は私の好きな人にはちゃんと自分の事知ってもらいたい!
「あの…あのね美羽ちゃん……私……」
……でも美羽ちゃんは私が広島に越してきてからの初めての友達。ううん、広島では唯一の友達。だから本当の私を受け入れて貰えなかったら一人ぼっちになっちゃう……
それなら……それなら別に今のままでも……
『お兄ちゃんが泣き言を聞いてやるから――――』
(!!!!)
夢の中のお兄ちゃんの言葉が頭をよぎった。ここで勇気を出さないと私は一生美羽ちゃんと友達になれない!
「あのね! 美羽ちゃ……」
「私もあーちゃんに話さなきゃいけない事があるの」
「え? な、何かな?」
「あ、いやいや。あーちゃんの話の途中だからあーちゃんからどうぞ」
通学路途中の神並神社の前で長い沈黙が続く。美羽ちゃんが私に話したい事ってなんだろう。でも私も話さなきゃ私の事知って貰う為に。私が言葉を発しようとすると美羽ちゃんが口を開く。
「ごめん……私ズルいね。もしかしたら一緒の話なのかもって思ったから。じゃあやっぱり私から言うね。ちゃんと話してあーちゃんと本当の友達になりたいから」
本当の友達……。美羽ちゃんもそうなりたいって思っててくれた……嬉しい。私は人目もはばからず泣き出してしまった。
「えっ? ええ!? あーちゃんどうしたの?」
「ごめん、ごめん美羽ちゃん。本当の……本当の友達になりたいって……私嬉しくて」
「……あーちゃん」
美羽ちゃんも泣きながら私を抱きしめて来る。そして夢の中のお兄ちゃんと同じようにそっと頭を撫でてくれた。私は絞り出すような声で答える。
「美羽ちゃんは今も大事な友達だよ。でも私は美羽ちゃんとなんでも話せる親友になりたい」
「うん……私もあーちゃんと親友になりたい」
梅雨空の雲間から差し込む光が眩しい。勇気出して良かったよ……お兄ちゃん。
「……ちなみに美羽ちゃんが聞きたかったことって何?」
「あ……あの……池先輩の事……なんだけど……ちょっと気になってて」
「池先輩!? もしかして美羽ちゃんってやっぱり!」
「あ…え…その……バレてたのかな。うん、実は私池先輩の事……」
「やっぱり美羽ちゃんって超越の四魔者だったんだね!」
「えっ?」
「そっか~。袂を別ったとはいえ元主様の事はやっぱり気になるよね~。ちなみに私的にはエウロスの結界があそこまで強力な力を持っているのはヤコヴ自身も愚者の理を会得しているからだと思ってるんだけどそこら辺はどうなのかな?」
「えっ? えっ?」
「ヤコヴはワインガルトナーと同じ悩みを持っていた訳だからね~。人と魔者との間で揺れ動く心が魔王ザグレブの元から去った理由だと思うんだよね~。あっでもでも~ずっと少女の恰好をしながら林檎を配っているのは自らが殺めてしまった同族である魔者に対しての贖罪っていうの? 何かそういう深い意図があるように感じるんだよねー、あえて魔者でなく人に奉仕しているあたりいかにも愚者ってますってアピールというか。あ、そうだ! 今度赤い頭巾プレゼントするからそれ付けて一緒に登校しようよ!!」
「えっ!? えぇぇぇぇぇぇっっ!!?」
こうして私の新しい世界は幕を開けた。美羽ちゃんに話さなきゃいけない事が多すぎて時間が足りないよ。世界はこんなにも簡単にこんなにも夢のように広がっていくものなんだなぁ~と思う14歳の夏前の出来事なのでした♪




