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33話:エデンズエイト

 ワインガルトナーが白翼の勇者と呼ばれるのには理由があった。

 絹の村からの一件の後は魔者にのみその力を奮うようになる。そしてその後も多数の魔者から人々を救った事からワインガルトナーの名声はどんどん上がって行った。しかしその時点では他に類を見ない強力な使者という位置づけであった。


 彼を勇者たらしめたのは奇しくも彼の父親代わりであった神父を殺害した十字架魔者を彼自身が民衆の前で倒した事であった。十字架魔者は自由気ままなはぐれ魔者であり国の上層部ではその存在を認知していたが実害はさほど大きくは無かった為放っておかれた。

 理由は3つ。1つ目は十字架魔者は人を積極的に襲う事は少なく国の脅威レベルとしては低かった為。2つ目は根城を持たぬ魔者であり居場所の特定が困難であった為。そして最大の理由は魔王ザグレブの直接の支配は受けておらずその実力は魔王に迫るとも言われていた為だった。


 しかし今から約2ヵ月前、そんな放っておかれた十字架魔者を放っておけない事態になってしまった。十字架魔者は気ままに、本当にただ気ままに世界を征服しようと思いたったのだ。

 その気になった十字架魔者の力は凄まじく一夜にして3つの都市を壊滅させる程の力を持っていた。騎士団や魔道団、そして使者と呼ばれる力を持った戦士も十字架魔者討伐に当たったが造作もなく返り討ちにあうのであった。確たる目的もなくただただ街を蹂躙する十字架魔者を相手に各国々精鋭の使者を集め討伐に向かわせることなる。

 それが『エデンズエイト』であった。


 彼らは寄せ集めの集団ではあったが強い正義感とそれを実現させる力を持っており十字架魔者の進行を一夜食い止める事に成功する。しかしその代償は大きく『エデンズエイト』の一人であった世界最高の鍛冶屋と呼ばれたクラニツァールが命を落とす。それ以外の面々もたった1戦でその力のほとんどを使い尽くしとても2度目の進行を阻止できるだけの余力は残っていなかった。

 そんな中、一夜の攻防戦では目立たなかったワインガルトナーが一人十字架魔者を相手に戦いを挑んだ。初戦で目立たなかったのも無理はない。ワインガルトナーは白翼の羽を使ってはいなかったからだ。彼は疑問だったのだ。交わした言葉は少ないが旧知といえる十字架魔者が今回の行動を起こした理由が。


 一人十字架魔者の前に立ったワインガルトナーは疑問をそのまま口にする。


「何故貴方のような魔者がこのような事をするのか?」と。返答は素っ気ないものだった。


「お前には関係ない。慣れ慣れしいな誰だお前?」


 その言葉にワインガルトナーは酷く傷ついた。いわば十字架魔者の、彼の存在はワインガルトナーの人生にとっての分水嶺であった。彼の行動をきっかけに旅に出て、彼の発言をきっかけに自らの在り方について考えた。今の自分が形作っているほとんどがこの十字架魔者によるものなのだ。しかしその張本人は自分のこと等覚えていない、特別に思っていたのは自分だけで十字架魔者は以前交わした言葉通り自分に「興味がない」のだ。


 愚者の理を通った時認識はしていたはずだがもう一度深く強く再認識する。

自分は自分以外の者と分かりあう事はない。思いも想いも共有はできても共通する事はなくいつの時代もいつの世界も人は一人。寂しい事はない哀しい事も無いそれが真理。


 本来復讐の対象であるはずの魔者にファイナルイノセントワールド自分の存在意義を一任しファイナルイノセントワールド事もあろうにこの世界で唯一の理解者が彼であるとファイナルイノセントワールド錯覚してしまっている自分を恥じファイナルイノセントワールドファイナルイノセントワールドファイナルイノセントワールドファイナルイノセントワールド…………



 初 め て 憎 悪 を 糧 に フ ァ イ ナ ル イ ノ セ ン ト ワ ール ド を 発 動 さ せ る。



 森羅万象の全ての力が十字架魔者を殺したいというその一念だけに集約され白翼の羽が輝く。その瞬間闇夜は昼間の明るさとなり世界を照らす。その眩しき光と正反対の漆黒の光が十字架魔者を包み喰らい尽くした。

 ……こうして世界の脅威を救ったワインガルトナーは白翼の勇者と呼ばれ人々の希望の光となったのだった。


 

――――そして今、魔王ザグレブを前にワインガルトナーの白翼の羽は十字架魔者を葬った時と同じように憎悪の力を使い展開させるのだった。しかしその憎悪の根源とは当のワインガルトナーでさえ気づいていない、いや気づかないフリをして生きてきた彼の心そのものであった。


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