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31話:淵底の翼

 俺はパラディンとなったレコと共に魔王城の頂上を目指していた。螺旋状に続く階段をひたすら走る。この城内にいる現在の生存者は俺を含めて5人。


 白翼の勇者ワインガルトナー

 臆病者だが時として勇敢なレコ

 風を統べる吟遊詩人ヤコヴ

 魔王ザグレブ

 そして淵底の翼と呼ばれる俺である。



 今更だが当然俺は魔王を倒す事なんてどうでもいい。何故ならばここは妹の心の世界。いや妹の闇の世界と言った方が適切か、とにもかくにも妹の心の内なのだ。そして今現在の俺はその心そのものである。


 わらしべの力を使って2度目の転生に成功した俺は漆黒の仮面と衣を身に纏い、出発の船着き場で目を覚ました。妹の心の中で具現化されていた俺はいつか聞いた妹の言葉通り淵底の翼という使者としてまさに魔王の元へ出発するという場面だったのだ。

 これは淵底の翼という使者が俺をモチーフとしていた為、1キャラクターとして転生してしまったようなのだ。しかし俺は転生した直後は大きく動揺したもののすぐに状況を理解する事ができた。何故なら淵底の翼という使者に俺自身が色濃く反映されてはいるものの、あくまで転生したのは妹の心その物である為、世界の情勢、各々の思考、それらが全てあらかじめ知っていたかのように手に取る様に分かったからだ。夢の中で「これは夢だ」と認識した後の間隔に酷似していた。違うのは勝手に覚めてはくれない悪夢という事だろうか。


 つまり白翼の勇者ワインガルトナーの悲しき過去も、臆病者だが時として勇敢なレコが秘めた力を持っていることも、瞬神の騎士長シューケルが先ほど散って行った事も、風を統べる吟遊詩人ヤコヴが実は魔者だった事も、俺は全てを「知っている」のだ。


 しかしそれは現在の状況が同時多発的に神の目線として情報共有されるだけでこの戦いの行く末がどうなるか、そして肝心の妹の正体が分からない。

 あえて断言するが今の生き残りの中に確実に妹は「いる」。

 俺のモチーフがいるくらいだ。あの妹が自分を登場人物化していないとは思えない。そう言う意味でも当初から怪しいと思っていたメンバーは現在も全員残っている。


 まず第一に怪しいのが風を統べる吟遊詩人ヤコヴ。

 理由は単純でこいつの思考は全く情報として入ってこないからだ。過去に超越の四魔者であったということはワインガルトナーとの会話の中でついさっき得た情報だが、それ以外の心の内は全く読めない。風を統べる吟遊詩人ヤコヴが彩で妹の心にプロテクトが掛かっているとするのであれば最も怪しむべきはこいつである。


 次に怪しいのが魔王ザグレブ。

 これも理由は単純で妹の【願い】は世界征服だ。魔王ザグレブの目的と一致する。また魔王の情報は現在何も持っていない為、案外容姿からして彩そのものである可能性すらある。それならば話は早い。俺は魔王ザグレブに加担して世界を滅ぼせば万事は解決するのだ。


 次が白翼の勇者ワインガルトナーと臆病者だが時として勇敢なレコの二人だ。

 白翼の勇者ワインガルトナーはそもそもこの物語? の主人公たる人物だ。基本的に空想や漫画の世界では主人公に自己投影するもので当然彩がメインキャラクターである所のワインガルトナーであっても何の不思議もない。

 臆病者だが時として勇敢なレコも同じ事が言えてコイツは主人公の二世ポジションに位置されているおいしい役だ。ついさっきクラスチェンジなんて事をやってくれたばかりだし彩の発言からも一致する所は多い、可能性は十分にある。


 そして最後の大穴が俺こと淵底の翼だ。

俺は俺の意識として淵底の翼だと認識しているがそもそもそれが錯覚かもしれない。自分が実は犯人でした……なんてミステリー小説とかでありがちのパターンだ。可能性は低いが一応そこまで考慮に入れたうえで最終決戦をどう対処すべきかを考えなくてはいけない。

 

 現状と自分のやるべき事を整理しながら螺旋階段を登りきると開けた大広間に辿り着く。階数で言えば50階は登って来ただろうか、天井は吹き抜けになっており上空から風が吹き込んでくる。


「ここが……魔王ザグレブの間か」


 レコが呟く。


「ラララ―♪ よくここまで来ましたね、お二人とも」


 フロアの片隅からヤコヴが歌うように話しかけてくる、傍らにはエウロスの結界に捕らわれたままのワインガルトナーの姿もあった。


「二人とも。だがよくぞここまで辿り着いてくれた」


 ワインガルトナーが結界の中から声を発する。


「ワインガルトナーさん! でも……シューケルさんやクロコップさんは」

「そうか……シューケル……クロコップ……すまない」


 ワインガルトナーはその場から目を背ける。それを見たレコはヤコヴに食って掛かった。


「くっ! ヤコヴさん。ずっと仲間だと思っていたのに!」

「ラララー♪ レコさん、あまり会話を楽しんでいる暇はないですよ。ここは魔王の大広間。貴方達が安穏としていられる時間は一縷としてありません。そうですよね魔王ザグレブ!」


 そういって大広間の奥の闇に目をやるヤコヴ。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………………………………………

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………………………………………


 奥の台座から地響きを立てて巨大な魔者が立ち上がる。


「こ、これは!?」


 ドスン! ドスン! ドスン! と大きな足音を立てながらその巨大な魔者は目を光らせ近づいて来る。戦慄するレコ。そして闇の奥から魔者の王たる魔王ザグレブがついにその巨大な姿を俺達の前に現した。

 彫の深い顔立ちとチリチリになったドレッド頭。その姿は圧倒的な全国区の風格を携えていた。そして俺達を鋭い眼光で睨みつけると静かに口を開いた。


「うぃすうぃす」


 ……こ、これがま、魔王?


「Oh! こんな所まで殺されに来るとはpoorな奴等よ! 後悔しても遅い。Meがfangの餌食となるがよいわ!!」

「……って池先輩やないか~~~~~~い!!!!!!」


 ちょっと古い髭男爵風の突っ込みが大広間に響き渡る。思えばこの世界に来て俺が初めて発した言葉がこれであった。


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