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30話:風中想④

 結論から言うとワインガルトナーは絹の生産で栄えた小さな村を襲った魔者と生き残った村の人間全てを自らの手で殺めた。目撃者は誰もおらず、ワインガルトナー本人が語る事も無かった為、村を壊滅させた魔者を一掃した使者として称えられる事になる。


 重要なのはワインガルトナーがその結論に至った胸中である。赤頭巾の少女魔者との出会いがそのきっかけになった事は言うまでもないが彼は魔者と人と自分に平等を求めた。その無垢とも言える純粋さは狂気となった。

 

 その村をたまたま訪れたワインガルトナーは魔者に襲われる人々を目にする。鳥魔者に襲われている村の親子を前に咄嗟に短剣を手にし魔者に立ち向かう。そして初めて魔者を倒すことに、殺すことに成功する。泣きながらお礼を言う親子。しかしワインガルトナーの耳にはその言葉は入ってこなかった。初めての魔者との死闘を終えた彼の目に飛び込んできたのは複数人で子供と思える小さな魔者に向かって斧を振り下ろす村人の姿だったからだ。

 この村人達も村を壊された怒り、家族を奪われた悲しみ、その復讐心を自分達でも手におえる小さな魔者相手にぶつけていたに過ぎなかった。しかしワインガルトナーは一足飛びに近づくと持っていた短剣で村人達の首を刎ねた。

 ポトリと転げ落ちる苦悶の表情を浮かべた村人の生首を一瞥し、ふと我に返る。そして自分の犯してしまった事を認識すると後悔の念で絶叫し自らの喉を短剣で突いた。


 こうして数分の内に魔者と人と自分に死という不変の平等原則を突き付けた彼は愚者の理を真に理解する者、導かれし者として生まれ変わる。そして白翼の羽を、森羅万象により全ての生を平等に扱う力ファイナルイノセントワールドを使用し村に残った魔者を人を全てを天へと原点回帰させたのであった。


 その後、ワインガルトナーがファイナルイノセントワールドを人に使った事はない。しかしその理由を知っているのは彼と……




「ラララ―♪ どうやら随分と長い夢を見ていたようですね。なあに絹の村の出来事は貴方を勇者へと押し上げた賞賛たる事なのですからそのまま胸にしまっていればいればいいんですよ」


 エウロスの結界の外からヤコヴがワインガルトナーに話しかける。


「……ヤコヴ」


 風を統べる吟遊詩人ヤコヴ、彼は元々エデンズエイトの中でも何を考えているか分からない新参者であった。


「ラララ―♪ 貴方のファイナルイノセントワールドは安息の結果を強制する力。つまりはあの村に居た人達も魔者も最高の安息は死だったというだけですよ。貴方に罪はない、まあ首を刎ねられた村人達は可哀想でしたけどね。」

「……お前……何者だ?」


 ワインガルトナーは単純な疑問を口にする。シューケル達の先遣隊が来るまでの間に絹の村の生き物は全滅したはず、生き残りは一人としているはずがなかった。


「ラララ―♪ 私もファイナルイノセントワールドの光を浴びていましたよ。しかしね、私の安息の結果は死ではなく貴方の行く末を見守る事だったようですねぇ。いやね、気になってずっと後を付けていたんですよ。偽善者の末路が一体どうなるかをね」


 そういうとヤコヴはひらりと赤い頭巾を風に乗せて放り投げた。


「お前……あの時の!?」


 ヤコヴは微笑を浮かべて続ける。


「私と貴方は似たもの同士。さあもうすぐ貴方の仲間が魔王ザグレブのいるこの最上階まで上がってきますよ。もっとも貴方にとって本当の仲間は彼らなのかは疑わしいものですがね」


 そういってヤコヴが視線をやった闇の奥の玉座で魔王ザグレブと呼ばれる大型の人型魔者がこの日を待ちわびたかのように蠢いていた。


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