22話:魔道決戦
「メテオバニッシャー!」
超越の四魔者ガレシックはいきなりレベル9の魔法で先制してきた。俺達めがけて小型の隕石が飛んでくる。いや、飛んできているはずなのだが目視する事はできない。以前クロコップがボクサー魔者との戦いで一度だけ見せた起死回生の魔法をいとも容易く使いこなすガレシック。見えない無数の隕石が襲い掛かる
「皆ぁ! この中に隠れるんだ! グラングラビディ!」
クロコップがそう唱えると超重力の渦が出来上がり地面に大きな穴が開く、俺達は大急ぎでその中に飛び込む。
ヒュゥゥゥゥ……ドォン! ドォン! ドォン! ドォン!
ヒュゥゥゥゥ……ドォン! ドォン! ドォン! ドォン!
ヒュゥゥゥゥ……ドォン! ドォン! ドォン! ドォン!
ヒュゥゥゥゥ……ドォン! ドォン! ドォン! ドォン!
「くそっ! 何故ガレシック老子が!」
隕石と地面が衝突する爆音の中、クロコップは一人爪を噛む。無理もない、師と仰いだ人が人ならざるものとなって自分を殺そうとしているのだ。魔道を極めたと言ってもまだクロコップも20代前半の若者。精神的動揺はこちらにも見て取れた。
地面から跳ね上がった土がどんどん穴の中に入って来る。このままここに居ても窒息死は免れないだろう。
「ぼ、僕が戦います!」
そう言って立ち上がったのはレコだった。震える足を抑えながら王剣ヴォィヴォディナを鞘から抜く。
「無理をするなレコ。俺が……このブルームーンで仕留める。いいな? クロコップ」
「……」
「クロコップ!」
クロコップは決意を固めた表情で答える。
「すまないシューケル。俺に……やらせてくれないか?」
「ク、クロコップ……しかしお前、大丈夫なのか? 魔者に堕ちたとはいえ昔の師をお前は討つことができるのか?」
クロコップは笑顔で答える。
「問題ないさ。俺は元々あの爺さん嫌いだったんだ。俺のやる事なす事何にでも駄目出しはしてくるし修行中は何度杖で小突かれたか数えきれねぇ。本当に嫌味な爺さんだったよ……だから俺に、やらせてくれ」
「……分かった。死ぬなよクロコップ」
「誰に言ってるんだシューケル。俺は魔道王だぜ?」
「ふっ、クロコップ。口調が昔に戻っているぞ。」
「おっと、いけねぇ魔道士たるもの常に冷静で威厳を持って立ち振る舞え。これもあの爺さんから教わった事だったな……」
そう言うとクロコップは呪文を唱え一人空へ上がって行った。
「俺とワインガルトナーはクロコップが魔道王と呼ばれる前からの付き合いでな。よく修行の厳しさを笑いながら俺達に話していたよ……」
シューケルは不安そうに呟くと空へ昇って行くクロコップを見つめるのだった。
「相変わらず空中歩行魔法は苦手そうじゃの」
膝元まで伸びた長い髭を触りながら超越の四魔者ガレシックは言う。
「ご存知の通り派手好きなんでね」
クロコップもニヤリと笑う。
(ガレシック老子相手に小細工は通用しない。いきなり全開でいくぜ!)
「聖なる紋章よ数多の光を書き記せ数多の記憶を呼び覚ませ、聖たる光は無形にして無法。我が敵に造形の鉄槌を下せ! ホーリーガジェット!!」
立方体の聖なる光の無数の造形物が超越の四魔者ガレシックを強襲する。
「ほほほ、レベル9の魔法をここまで体得しておるか。少しは成長したのぉ……じゃが」
ガレシックは両手を広げてこう叫ぶ。
「バリヤー!!」
ガレシックを囲うように張られたバリヤーによってクロコップ渾身のホーリーガジェットはガレシックの髭一本にすら届くことはなかった。
「馬鹿な!? バリヤー!? たかだかレベル2の魔法で俺のホーリーガジェットを防いだというのか?」
驚愕するクロコップ。
「いつも言っておるじゃろうクロコップ。魔法は使い方じゃ。ホーリーガジェットは相手に当てることで初めて威力を発揮する魔法じゃ。しかしバリヤーをホーリーガジェットの造形物と同じ形で張ってやればわしに届く前にホレ、光が散ってしまうわい」
「そ、そんな。バリヤーの形をあの無数のホーリーガジェットの造形物それぞれに併せて相殺したというのか!?」
「バリエーションが足らんのぉクロコップ。お手本を見せてやろう」
そう言うとガレシックは杖をクロコップに向ける。
「アークフレア」
そう唱えると巨大な舟を象った魔力の集合体が造りあげられた。
「ほれ、これがアートというもんじゃ」
ガレシックが杖を振ると舟はクロコップに突進して来た。
「くそぉぉぉぉ! サブマリンエクスプロージョン!」
ドォォォォォォン!!!!
ブスブスと焦げ臭い匂いを放ちながらクロコップが地面に叩きつけられる。
「ほほほ、そうお前はそれしかできんよのぉ。攻撃魔法を攻撃魔法で相殺させるリスクも分からない男が魔道王とは聞いて呆れるわい」
超越の四魔者にして前魔道王ガレシックはそう言って笑うのだった。




