21話:二人の魔道王
俺達はついにトランシルヴァニア帝国に侵入した。フランクフルターが命がけで切り開いてくれた魔王ザグレブへ続く道を一歩一歩進む。しかし苦楽を共にした戦友の死、そして裏切りを経て皆の表情は一様に険しかった。
トランシルヴァニア帝国は魔者の巣窟であり普通の人間は一人もいなかった。下級の魔者達の群れがこちらを見ているが襲ってくる気配はない。レベルの違いを感じ取っているのかそれとも……
「嫌な気配がするな」
口を開いたのは若き魔道王クロコップだった。
「雑魚とは言ってもこの数だ、今の疲弊した俺達にとって戦闘を避けられるのはありがたいが……」
「だからこそ襲ってこないのが不気味、という事だな」
瞬神の騎士長シューケルも同様の疑念を抱えていた。俺達は超越の四魔者との2連戦で心身ともに疲れ切っている、叩くなら今だろう。しかし一向にその気配は魔者達から感じられない。まるで誰かからの指示を忠実に守っているように……。
「見えました! あれが魔王ザグレブの居城です!」
臆病者だが時として勇敢なレコが指さすその先には禍々しい異形を象った魔王の城がそびえ立っていた。
「ワインガルトナーの行方も気になる、ヤコヴに捕らわれたままこの居城の方向へ飛んでいったように見えたが……」
そういってクロコップが城の扉に手を掛けようとしたその時。
「!?」
ドォォォォォン!!
爆発系の呪文が俺達に襲い掛かる。
「「うわぁぁぁぁ」」
魔王ザグレブの居城に入る直前で俺達は爆炎に包まれながら四方へ飛ばされる。
「ほほほ、そこまでじゃ」
目の前に黒いフードを被った老人が立っていた。古びた杖を携え、歳は若くみても70歳は超えている、しかし風貌とはおおよそ想像がつかないほど圧倒的な風格を纏っていた。
「な!? 貴方は!」
驚愕するクロコップ。
「ほほほ、クロコップや。お前が嫌っとった回復魔法をしっかり勉強しておればもう少し道中楽じゃったろうにな」
「ガレシック老子!? まさか貴方は死んだはずでは……」
うろたえるクロコップ。ここまで動揺するクロコップは初めて見るかもしれない。
「くっ……なんだ、随分なご挨拶をしてくれたこのご老人と知り合いなのかクロコップ」
シューケルが問う。
「老子は……ガレシック老子は俺の師だ、そして前魔道王でもある」
「!?」
「ほほほ、前、とな。わしがいなくなったお蔭で若き魔道王等と言われ、人々からもてはやされいい気になっておったお前こそ魔道王の名に相応しくないとおもうがのぉ」
「ぐっ! しかし貴方は、貴方は確かにあの魔晄炉爆発事件の時俺を庇って……」
クロコップが途中まで言い掛けて言葉を止め目を背ける。
「そう、確かにわしはあの時死んだ。しかし蘇ったのじゃ、魔王ザグレブ様の力によっての」
「そ……そんな、あれ程、あれ程憎んでいた魔王の力を借りてまで生きる事を選んだというのですか? 貴方ほどの人が!?」
「ほほほ、歳を取らん体とはいいもんじゃぞ。ああ、それとな。魔道王の名はもういらんからそのままお前にくれてやるわい。わしの今の名前は超越の四魔者ガレシックじゃ!」




