18話:超越の四魔者
無事トランシルヴァニア帝国近くの港についた俺達に待っていたのは熱烈な歓迎であった。
「勇者様―!」
「待ってたぞー!」
「キャー! シューケル様―!」
「可愛い! レコくーん!」
意外だ。トランシルヴァニア帝国管轄である港町で歓迎されると思っていなかった。
今回トランシルヴァニア帝国に乗り込んだ戦士は8人
白翼の勇者ワインガルトナー
瞬神の騎士長シューケル
若き魔道王クロコップ
鉄壁の盾フランクフルター
臆病者だが時として勇敢なレコ
風を統べる吟遊詩人ヤコヴ
港町の商人ズッペー
そして黒仮面に黒の衣を纏った俺である。
俺たちは使者と呼ばれており強力な力を秘めている。過去幾人もの使者が魔王ザグレブに挑んだ。俺たちは第何陣かは分からないが少なくとも20を超えるパーティーが魔王へ挑み、そして灰と化していった。しかし今回は違う。導かれし者、白翼の勇者ワインガルトナーを始めとして各国の精鋭が奇跡的に集まったのだ。
今回のパーティーで駄目であれば魔王討伐は不可能だろう、そう言われるほどの期待を込められている俺たちパーティーは人々から『エデンズエイト』と呼ばれていた。
魔王相手に雑兵はいないも同じ、無駄な犠牲者は出さないという事で一致しており、今回は必要最小限の人数で乗り込んできた。『エデンズエイト』以外で航海に参加したのは船を動かしてくれた船員だけでありその船員もこの港町で別れる予定だ。
「おかしいでさぁ……」
港町の商人ズッペーが口を開く
「あっしは何度かこの港町とも交易を行ってまさぁが、普段はもっと寂れている印象なのでまさぁが……」
港町の商人ズッペーに取り扱えない物はなし。商人ズッペーはあらゆる商品への知識の深さと顔の広さで世界一の商人へと成り上がった。自身の格闘スキルも高くトンファーハンマーと呼ばれる2トンの重量を要するトンファーを振り回せるのは世界広しといえどもズッペーくらいのものだろう。
「私ぃ、フランクフルター様のファンなんです」
色気ムンムンの赤いワンピースを来た若い女が鉄壁の盾フランクフルターに話しかける。
「がはは、わしのファンとな貴公も物好きな女子じゃな」
「聖盾アテナオリンポス見せてほしいなぁ~」
「いやいや、これは女子供が触るようなものではない」
「え~いいじゃないですか~」
そう言って鉄壁の盾フランクフルターの腰に手を回すワンピースの女。
「この瘴気……まさか!? その女から離れろフランクフルター!」
ザクッ……
「ぐふっ……」
白翼の勇者ワインガルトナーの声よりも一足早くワンピースの女が持った短剣は鉄壁の盾フランクフルターの脇腹を貫いていた。
「「フランクフルター!」」
女は蝉の脱皮のように背中が突き破れ大蛇のような魔者が姿を現した。周りの景色も一辺し人っ子一人いない寂れた廃墟へと早変わりするのであった。
「馬鹿な! 町全体を変えてしまう程の魔力だと!? こいつの魔力……クロコップ以上とでも言うのか?」
驚きを隠せない瞬神の騎士長シューケル。
「いや、これは魔力ではない。この大蛇の魔者からは魔力は全く感じない。しかし魔力を感じないからこそ普通ではないな、この女はまさか……」
冷静に魔道王クロコップが分析する。
「ひゃっはははは! その通りさ。私は魔王ザグレブ様に仕える超越の四魔者の一人メデューサ魔者様さ!」
「!?」
「メデューサ魔者……まさか本当にいやすとは、古い文献で読んだことがありますねぇ、彼女の目を見たものは幻惑に囚われてしまう……と」
港町の商人ズッペーの言葉に瞬神の騎士長シューケルが反応する。
「くっ! 我々が港に着いた時にはすでに幻惑に掛かっていたというのか?」
「そうでさぁ、恐らくあっし達が船で港に着く前からずっとこっちを見てたんでしょうよ」
目いいな。
「さぁ! もうお前たちは私の幻惑から逃れるすべはない! 全員ここで死にな!」
メデューサ魔者が目を大きく見開いて全員を威嚇する。確かに全員が幻惑に掛かっているこの状況で俺たちに勝ち目は……ない。
「やれやれ、仕方ありやせんね」
そういうと港町の商人ズッペーが前に出てトンファーハンマーを構える。
「あっ、フランクフルターの旦那、この薬草使ってください。いやなに、これは商品じゃなくてね。あっしのかみさんが庭で作った自家製の薬草なんですが、これがよく効くんでさぁ」
そう言うとポイッと薬草を鉄壁の盾フランクフルターに放り投げ、またメデューサ魔者の方に構えを取る。
「ま……まさか……ズッペーさん!?」
「レコ君。君はまだ若い、必ずこの戦いでも生き残るんでさぁよ」
「い、嫌だ……ズッペーさん! ズッペーさぁぁぁぁぁん!!」
「レコ君、あの時、悪徳商人と言われて商人会から追われた私を庇ってくれてありがとう。皆さんもお元気で!」
トンファーハンマーを交差させると七色の光が迸る。
「トンファーハンマーレクイエム!!」
七色の巨大化したトンファーをメデューサ魔者へ打ち放つ。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
眩い光と共にメデューサ魔者は断末魔の叫び声をあげて消滅した。そしてまたズッペーも渾身の一撃を放った後、光と共に砕け散ったのであった。
残された俺たちは自分たちの不甲斐なさを悔いつつ、ふと空を見上げる。
そこには恰幅が良くどこか胡散臭い笑顔が似合う港町の商人ズッペーによく似た雲が俺達を後押しするように流れていた。




