17話:白翼の勇者ワインガルトナー
「この戦いが終わったら俺、結婚するんだ」
ロケットに入れた幼馴染の写真を見せながら瞬神の騎士長シューケルは微笑んだ。
「じゃあ、この戦い。負けるわけにはいかないな」
若き魔道王クロコップがぽんっと肩を叩く。
「わし達なら必ず勝てる。そうだろ皆!」
鉄壁の盾フランクフルターがいつものように皆を鼓舞する。
「魔王ザグレブからこの世界を救えるのは僕たちしか……僕たちしかいないんだ!」
臆病者だが時として勇敢なレコが己を奮い立たせる。
「ラララー♪ 私が後世に伝えましょう。貴方達の戦いを」
風を統べる吟遊詩人ヤコヴが音楽を奏でる。
「へへへっ。あっしは儲けにならない事はしない主義だったんですがね、まあここまで来たんだ付き合いやすよ」
港町の商人ズッペーがどこか嬉しそうに開きなおる。
「皆、思いは一つだな。さあ! いざ行くぞ決戦の地へ!」
総司令を兼ねる白翼の勇者ワインガルトナーが号令を出すと皆が一斉に船に乗り込む。
魔王ザグレブがいるトランシルヴァニア帝国に向かうには、これだけの戦士達を持ってしても容易な事はない。魔の海と呼ばれるザドルガ海峡を越えなくてはならないからだ。
「私はまだ君を信じた訳ではない。だが君の力は確かだ……嘘でもいい。力を貸すといってくれないか」
白翼の勇者ワインガルトナーが海上で黒仮面を被った俺に話しかけてきた。断る理由はない、当然力は貸すつもりだ。俺は大きく頷いた。
「ありがとう。いつか君の仮面の下の素顔を見せてくれ……さぁ来るぞ!」
ザドルガ海峡が魔の海と呼ばれる理由。それは魔王ザグレブが海に放った魔者達が非常に強力だからであった。
魔者……本来、人が等しく持っているはずの愚者の理から著しく外れてしまった命。理から外れてしまった者は人ならざる者へと変わってしまう。元に戻す方法はなく死ぬまで永久に苦しみ続けるのだ。
「来たぞぉ! ピラニア魔者だ!」
鉄壁の盾フランクフルターが叫ぶ。自身の最大の武器である聖盾アテナオリンポスを展開させて船全体に結界を張る。
「俺に任せろ。サブマリンエクスプロージョン!」
若き魔道王クロコップが呪文を唱えるとあたり海の表面があっという間に蒸発した。
「ラララ―♪ 流石魔道王。船を傷つけぬようにレベル8の魔法を操るとは」
風を統べる吟遊詩人ヤコヴをも驚愕させる呪文の威力と……精度!
「(み、皆さん、す、すごい……僕も足手まといになりたくない。早く、早くクラスチェンジできるようにならなくては……)」
臆病者だが時として勇敢なレコは仲間の活躍に悔しそうに唇を噛む。
「レコ君。これを使いなさい」
港町の商人ズッペーがレコに布に包まれた大剣を渡す。
「これは!?」
「王剣ヴォィヴォディナです。世界最高の鍛冶屋クラニツァール最後の一振りでさぁ」
「そんな……これが王剣ヴォィヴォディナ!? でもこれは……」
「クラニツァールの旦那の忘れ形見でさぁ。あんたに使ってほしい……そう言ってましたわ」
「ぼ、僕に!? じゃあクラニツァールさんは本当にもう!?」
港町の商人ズッペーは静かに頷く。
「うわぁぁぁ! クラニツァールさーん!!!!」
臆病者だが時として勇敢なレコが向かってくるピラニア魔者に向けて王剣ヴォィヴォディナを振り下ろすと海面ごとピラニア魔者群を一層した。
「ふっ……負けてはおれんな」
瞬神の騎士長シューケルは自慢のレイピア、ブルームーンを海面に向ける。
「イージス・アンリミテッド!」
出た。これが地上最速と言われるレイピアの超高速連撃。ピラニア魔者達は穴だらけだ。
「流石だな、シューケル」
白翼の勇者ワインガルトナーがシューケルを褒め称える。
「ワインガルトナー。この戦いが終わったら……あの日の決着、必ずつけるぞ」
「ふっ……」
白翼の勇者ワインガルトナーと瞬神の騎士長シューケルはお互いあの日の約束を確認しあうと戦場に目を向け直す。
「私も負けてはおれんな……」
白翼の勇者ワインガルトナーはそう呟くと何かを唱え始めた。
「こ、これは!?」
「おぉ……出るぞ!」
「ラララ―♪ これが導かれし者の必殺……!!」
「ファイナルイノセントワールド!!!!」
白翼の勇者ワインガルトナーの背中から光の羽が出現し超時空空間が形成される。愚者の理を完全に理解した者のみが発現させる事ができる森羅万象の力そのものだ。ピラニア魔者達は光を浴びた順に安らかな顔で天へと昇天して行った。
「ふぅ……君の出番はまだ先かな」
光の羽を収めた白翼の勇者ワインガルトナーは俺を見ながらそう言って笑う。
「さぁ! 一気にザドルガ海峡を越えるぞ!!」
白翼の勇者ワインガルトナーの号令のもと、俺たちは一路、魔王ザグレブが待つトランシルヴァニア帝国に向かうのであった。




