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16話:2度目の転生

 時計の針は深夜2時を回っていた。随分と寝てしまっていたようだ。最近やけに思考がぼやけて眠気がするのは転生が近いせいなのだろうか。俺は誰もいない居間で冷蔵庫から麦茶を取り出すとゴクゴクと一気に飲み干した。心なしか水分すら自分の中に入ってこないような、そんな奇妙な感覚であった。


(転生までもう本当に時間がなさそうだな。取りあえず1度彩に試してみるか……? でもこんな時間だしな)


 妹の部屋の方向を眺めながらそのままドスンとソファーに寝っころがりもう一度自分の考えを整理する。


 世界征服とは基本悪である。自分の考えを世界に押し付けそれを強要させる、それが世界征服の根源であると俺は考えている。それが例えば世界から争いを無くしたいから世界を征服したいとか、地球を滅びの一途から救うためには世界を征服するしかない、とか、仮にそんな最もらしい理由をつけても自分の意見を相手に押し付ける事が善であるはずがないからだ。

 世界征服を願う心は悪であり邪心であり汚い心……だと思う。つまりは汚いブラッシーをより汚いものへと転生させ、最終的には彩の邪心へ転生させてしまえば世界征服を目論む心自体を浄化できるのではないか。少し無理矢理な理屈な気もするが「世界征服」よりはよほど現実的だ。

 ただし彩の汚い心というのは目に見えるものではない。【願い】になるくらいなので相当の想いなのだろうが、案外意外と大したことはなく直接ブラッシーから転生できる可能性もある。というか下手に2度目の転生で彩の邪心より汚いものに転生してしまったらゲームオーバーなのだから先に1度はチャレンジしておくべきだろう。


「あれ……お兄ちゃん。まだ起きてたの?」


 ソファーからのけ反って後ろを見るとパジャマ姿の彩が立っていた。目をこすりながら彩が俺と同じように冷蔵庫に手を伸ばす。


「今日夕飯食べてないでしょ? 駄目だよー? 大きくなれないよ~?」


 あくびをしながら言葉を続ける。その後も何かムニャムニャと言っていたがよく聞き取れなかった。言葉が耳に入ってこないのは彩が寝起きで言葉がはっきりしていないせいもある、が、それ以上に俺の決意が今固まったからである。

(遅いか早いかの違いだ。どうせなら早い方がいいに決まってる!)


「彩! ちょっとここで待ってろ」


 そういうと俺は居間を飛び出し自分の部屋のベッド下からブラッシーを取り出す。

(お別れだなブラッシー……)

 少しの間とはいえ共に生きた半身との別れの時に感傷的になったが即座に反転し居間に戻る。


「はぁ、はぁ……彩……」

「えっ? あ、何?」

「はぁはぁはぁ……彩! 彩! 彩!」

「ひっ! な、なにかな?」


 真夜中に息を切らし便器ブラシを携えながら妹の名を大声で連呼する兄。

 110番待ったなしのこの状況。俺はブラッシーを天高く掲げ叫ぶ!


「俺の便器ブラシとお前の心を交換してくれぇぇぇぇぇぇ!!!!」


――――パァ!――――

(えっ……マジで!? 成功した……のか!?)


 1度目の時より遥かに大きく明るく目を開けていられないほどの眩い光が居間全体を包み込む。


「おおおおぉぉぉぉぉぉ!!?」


――――――――――


――――――――――


――――――――――やっと目が慣れてあたりの光景を見渡せたのはそれから随分時間が経ってからの事だった。


 そして自分の状況を理解するにはそれ以上の時間を要することになるのであった。

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