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13話:幼神ミコット

「わらしべの力で交換できるのはお金に換算すると10倍の物までって言いましたよね? つまりお金に換算しないケースもあるって事でいいんですかね?」


 強い日差しを浴びながら、俺はやっと聞きたかった事を幼神に切り出せたのだった。


「なんじゃ。ニーたんの聞きたかったのはそんな事か。そうじゃのぉ金に例えたのは分かりやすく説明するためにあくまで一例として挙げただけじゃ」


 成程、それならばこのブラッシーこと青い便器ブラシにも活用方法はある。解決の糸口が少し見えた気がする。そして俺はもう一つ大事な事を確認する、幼神はあの時わらしべの力を「より価値のあるものに転生できる神の力」と言った、という事は


「……今のブラッシーよりも価値がないものには転生できない。って事でいいんですよね」


 ニヤリと笑う幼神。


「ま、その通りじゃの」


 これは非常に重要な事だ。このルールはすなわち一番最初に転生したものが高価である方が【願い】を叶える為に有効な手段とは限らない、という事を表している。


「ところでニーたんよ。お前はいつまでわしの事を『幼神』と呼ぶつもりじゃ?」

「え? あー…えっと。幼神様って呼び方嫌ですかね?」

「いやいや、ロリっぽくて悪くはないんじゃが、わしとニーたんの仲も今日で3日目じゃ。そろそろ名前で呼び合う時期に来とるんじゃないかのぉ?」


 少し膨れっ面で幼神は言う、どうやら自分は名前で呼んでいるのに俺が通称名で呼んでいることが不服らしい。ニーたんなんて呼び方は俺が頼んだわけではないのだが……まあそれはそれとして確かに幼神様という呼び方は少し長い。名前で呼んで言いというのであればそうしよう。


「あーそうですね。じゃあそうさせて貰います、えーと幼神様の名前は何て言うんですか?」

「ない」


 ないらしい。


「吾輩は神である。名前はまだない」


 本当にないらしい。


「ニーたんがわしに合う名前を考えてはくれんかのぉ?」

「はぁ、まあ別にいいですけど。幼神様はこの世に転生されたのが3回目って言ってましたよね確か。今までは何て呼ばれていたんですか?」

「前回はペドロスポポビッチワウリンカパブリンカユングベリリュングベリ神と呼ばれておったのぉ」

(どこの国に転生したんだ!?)

「そうですか。じゃあペドロさんで……」


ドォン!


 幼神が拳を振り下ろすと俺の横の地面に亀裂が入っていた。唖然とする俺。完全に俺を、いや俺の命たるブラッシーを狙っていた。


「ニーたんがわしに 合 う 名前を考えてくれんかのぉ?」


 相変わらずニコニコ笑う幼神。しかし表情とは裏腹に後ろで分けたツインテールが鬼の角のように垂直に逆立っている。

(返答をミスしたら殺される!?)

 今ここに命を懸けた命名式の火蓋が切って落とされたのである。


「はは、今のは冗談ですよ幼神様。ほんのクロアチアンジョークです」

「ほほぅ。ヨーロピアンじゃのぉ」


 まずは……何気ない会話から幼神の好みを聞き出す!


「ところで幼神様はご飯とパンはどっち派ですか?」

「? そうじゃのぉ。どちらかと言えばご飯かのぉ」


 よし。幼神は和風が好みだ。


「いやぁ、そうなんですか。俺もご飯派なんですよ。ちなみに最近子供につけるキラキラネームってどう思います?」

「親が想いを込めてつけた名前ならいいじゃろ。当て字の読み方を考えるのも面白いしのぉ」


 意外とDQNネームにも寛容だ。


「悟空とカカロットってどっちで呼んでました」

「悟空」


 名前は短い方が好き……と。


「なんじゃ? さっきから」

「いえいえ何でもないです、それより幼神様の名前なんですが……」


 幼神の好みの傾向は掴めた、導き出される解はこれしかない。


屁泥(ペドロ)でどうでしょうか?」 


チュドーン!!!!


 幼神の口から爆力魔波的な何かが飛び出し、目の前の地面が基礎工事の真っ最中のごとく大きな空洞を作り掘り起こされた。


「はわわ……」

「耳糞でも詰まっておるのかのぉ? ビューティーなわしに合う名前を考えてくれと言ったんじゃが暑さで頭でもやられたかのぉ? そうだとしたら大変じゃ、取りあえず今の光線で頭でも吹き飛ばしてスッキリさせとくかのぉ? なぁに心配はいらん、お前は今不死身状態じゃからちょっとバランスが悪くなるだけじゃ」


 波動砲のごとく幼神の口に光が集中して行く。そんな馬鹿な、死にはしなくても滅茶苦茶バランス悪くなるじゃねーか! 人間の顔はジャムおじさんに作っては貰えないんだぞ?そもそも顔が吹き飛んだら喋れなくなる、今後の会話はケツの穴から音を奏でる放屁発声法で行えとでも言うのか? 屁泥ペドロなだけに!

 もの凄い勢いで頭を回転させる俺。名前名前名前名前名前、神神神神神神、和風和風和風。


「ヒッ」

「ん? なんじゃ」

「ヒ……ヒミコとか……どうっすかね?」


 俺の口から出てきたのは神格化された邪馬台国女王の名前だった。それを聞いた幼神の口から光が離散して行く。


「ほぅ。まぁまぁかの」

「あ……そ、ですか」

「ただ過去の偉人と全く同じ名前というのも芸がないのぉ……ヒミコ、ミコ、ミコ、ミコト……うんそうじゃの。わしの事は今後ミコットと呼ぶが良い」


 幼神は満面の笑みでそう言った。


「呼び捨てでいいけぇの!」


 完全に魂が抜け落ちた俺はヨロヨロとその場に座り込んだ。幼神、いやミコットは相当その呼び方が気にいったのか何度も自分の名を口づさんでいる。

 お気に召してなによりです。しかしこれは本当に早いうちに決着をつけないと別の理由で殺されかねない。早期決着を新たに誓う俺なのであった。


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