11話:それから
帰りに母親と一緒に三羽ガラスに謝りに市内の県立病院へ向かった。
ケンちゃんと呼ばれた俺カッコいい系男子だけは母親が付き添っていたが後の二人は保護者らしき姿は見つからず病院の待合室で精密検査の順番を待っているところだった。
形式上一人一人に謝っていった俺だが三人とも目を合わせようとせずどこか震えているようだった。どうやら軽いトラウマになっているようだ。
(まあ仕返しでも考えられたら元に戻った時に大変だからな……このまま恐怖の対象になっておこう)
あとの事はお母さんがやっておくから、と母親は俺を先に帰してケンちゃん母となにやら話をしていた。双方ともにペコペコと謝っていた所をみると大事にはならなそうだ。
他の二人に関しても親に泣きついてどうこうしそうな感じではない、どちらかといえば今回俺にボコボコにされたことを「恥」と思っており頑なに理由すら話さないかもしれない。人を見た目で判断してはいけないがそういうタイプに見えた。
病院の外に出るとすっかり暗くなっており人の往来も疎らだ。随分長い一日に感じた、俺は疲れも感じにくくなっていたがそれでも精神的に今日は参った。悠長な事をしている場合ではないが俺は神社にも寄る元気もなく真っ直ぐ帰宅するのだった。
帰宅した俺をマンションのエレベーターホールで待っていたのは志野宮だった。そういえば志野宮と話をしている最中だったな、何の話してたんだっけ?ボーッと思い返す俺に志野宮は駆け寄って来る。
「おにぃ先輩!大丈夫ですか!?怪我とかしてないですか!?」
心配そうな顔で話しかけてくる。
「あ……ああまあ」
「良かったぁ~ビックリしましたよー。急に走って行っちゃったと思ったらあんな事になるから、絶対喧嘩とかしそうにないのに」
そりゃそうだ。殴り合いの喧嘩なんて小学生依頼だからな。
「俺もそう思ってた」
「なんですかそれー?」
少しだけ志野宮が笑う。
もしかしてずっとエレベーターホールで待っていてくれたのだろうか、律儀な奴だ。その場に居合わせた事もあり変な罪悪感もあるのかもしれない。
「停学になったから土日を挟んで五連休だ」
なんとなく気を使ってニヤリと笑う俺。
「いやいや、遊ぶ気満々じゃないですかー!?」
「当然」
「停学って自宅待機とかじゃないんですか?」
「知らん!」
やれやれと言った表情でこちらを見る志野宮。少し安心したような表情を浮かべてこちらを上目使いに見る。
「でも結構元気そうで安心しました」
「おぉ、安心しろ。別に普通だからな」
「……ちょっと気使ってます?」
あれ?いつもと何か違うのか俺?
「喋りがキョドってないですよ?」
「ぐっ……別にいいだろ」
「はい、別にいいです元気そうだし。でもあんまり危ない事したら駄目ですけんね」
心配しなくてももう喧嘩する予定はない。理由が理由なので仕方がなかったが俺は極力目立ちたくない。平穏な学校生活が送れればそれで良かったのだ。
「まあ、何にしても心配掛けたんなら悪かったな……」
聞こえるか聞こえないかの小さな声でボソッと呟く。
「あ、いえ心配はしましたけど私に謝らなくても、それに……」
両手でブンブンと否定のジェスチャーを行いながらこう続ける。
「それに結構カッコよかったですよ」
そう言って志野宮は恥ずかしそうに笑うとエレベーターの上へボタンをピコッと押して「どうぞご主人様~」とエスコートしてくれた。
「神! 神! 神ィーーーー!!!!」
「落ち着け彩」
家に帰ると家の愚昧が大変だった。内容をすでに母親から聞いていたようであり俺が玄関に到着するなり物凄い勢いで詰め寄ってきた。その眼差しはまさに神を崇めるがごとくである。
「ついに常闇の力を使ったんだね! 使者としては正しい行いとは言えないけど、でも友達の為だもんお兄ちゃんは間違ってないよ!」
しかし出てくる言葉は病的なアレだ。
「あぁそう、ありがとうな」
面倒くさいが下手に心配されるよりかはいいか? 等と思いつつ適当に相槌を打つ。
「普通は力を発現させるのに千の歳月を必要とするんだけどなー。やっぱりお兄ちゃんは使者の中でも特別なのかな? まさか……淵底の翼? 淵底の翼なの!?」
(なんだその羽ばたけそうにない翼は)
「無理に言わなくていいよお兄ちゃん! それは絶対に言ってはいけない事だもんね。でもこれからはあんまり常闇の力は使ちゃ駄目だよ。堕天に剥がれていっちゃうからね。
あっ! そうか! だから私がこの前クラスチェンジしたんだ? 愚者の理の通りだね!」
「お前の学校は6月にクラス替えがあるのか大変だな」
「大変なのはお兄ちゃんだよ。力の開放はお父さんにもお母さんにも言っちゃ駄目だよ、危険だからね!」
暗にこの話は二人の中で留めておいてねと言っている。妹は冷静だ。冷静に狂気だ。
その日の夜の食卓で親父からは「それでこそ男だ」的な事を言われた。自分の命を守るために防衛本能で戦うのが男なのだろうか。大学の推薦も、内申も絶望的になるくらいなら俺は男じゃなくてもいいのだが……と思いつつも適用に返事をしてその場をやり過ごす、母親は困った困ったという顔をして、妹は神をみるように俺を見ていた。そんないつもより活気ある夕食を終えた俺は色々あったせいもあり自分の部屋に戻った俺は泥のように眠るのだった。
翌朝目が覚めると朝の11時だった。すでに共働きの両親は会社へ彩も学校へ行っていた。今日も志野宮が彩を迎えに来ているはずだがチャイムの音にも気づかないほど爆睡していたようだ。俺は梅雨の湿気でベトベトになっていた体をシャワーで洗い流す。私服に着替えるとブラッシーをベッドの下から取り出し神並神社に向かうのだった。




