第4話 八雲 塔矢(やくも とうや)
「さっき、マニュアルを読んだ時に時計型の機械に検索機能があるって書いてあったけど、それを使ってみたら?」
その時、ガサガサっと近くの茂みが音を立てて揺れた。
「誰だ!?」
私と佑磨は警戒態勢を取った。
しかし、そこから出てきたのは、私達と同い年位の男性だった。
「あっ? 何だ、お前ら?」
男は攻撃的な態度で私達をじっと見た。そして、佑磨の腕に巻いてある機械を見るとニヤッと笑った。
「お前らも参加者か」
「!?」
私と佑磨は咄嗟にその男との距離を取った。
もし、この男が佑磨の貸したモノの借主なら最大のピンチになったからだ。
しかし、男は何か腕時計型の機械で確認すると先ほどまでの攻撃的な態度がなくなった。
「そんなに警戒するなよ。お前らは俺の標的じゃない」
「どういう事? そんな風に言われて直ぐに信じると思うの?」
すると、男はキョトンとした表情で言った。
「まじか? お前ら、まだゲームを始めたばかりの初心者だな」
「いや、もしかしたらお前より経験をしてるかもしれないぞ」
「く……あはははは!」
男は佑磨の言葉を聞いて笑い始めた。
そして、腕時計型の機械を指で指した。
「カマを掛けるにしてもタイミングと相手を考えろよ。それにこうやって訳のわからない奴が対峙してるのにウォッチを使わないなんて、素人だと自分で言ってるようなもんだ」
この男はレンタルゲームのプレイヤーで、どうやら経験者みたいだ。なら、この男から情報を引き出せるだけ引き出した方がいい。
「確かに貴方が言うように私達はこのゲームを始めたばかりの素人よ」
「ほう。素人が一丁前に契約者を作ってるのか」
「悪いかよ」
佑磨は無愛想に一言言った。
「おっと、気を悪くしたか? 悪い悪い、そんなつもりじゃないんだ。このゲームは契約者が入れば色んな意味で有利になるからな」
やっぱり、この男、今の私達が敵に回すのはリスクがあり過ぎるわ。
そこで、私は一つ男に提案する事にした。
「ねぇ、貴方の標的が私達じゃないなら、私達と組まない?」
「はっ? 馬鹿か? 何でそんなメリットの無い提案を受けないといけないんだ。俺はごめんだね」
当然、誰もがこう言うだろう。それは承知の上、そして想定内。
「メリットならあるわ。貴方はこのゲームをまだ理解していない私達に初戦の手助けをする。その代わり、貴方が困った時は、私が貴方の契約者となる」
「お前が?」
「さっき、自分で言っていたでしょ? 契約者がいると色々と有利になるって」
「お、おい、景!?」
佑磨が私の腕を掴み男に聞こえないように距離を置いた。
「何を言ってるんだ! そんな、景を犠牲にする様な事が出来るか!」
「落ち着きなさいよ。私は犠牲になるつもりなんてさらさら無いわ。今の私達に最も必要な事は何? このゲームに勝つ事よ。でも、ゲームの中身がわからない私達はこの時点でかなり不利になっている。それはわかるわよね?」
「もちろんだ。そして、その不利な部分をあいつを使ってなんとかしようって事だろう」
「そう。それに、私が裏切り者になっても、私は痛くもかゆくも無い。そして、佑磨にも影響はない」
それを聞いた佑磨は少し考えた後、首を横に振った。
「やっぱり、ダメだ!」
「あんたね。遊びでやってんじゃないのよ!? これは生きる為なの!」
佑磨は私の押しに渋々首を縦に振った。
そして、私達が男の所に戻ると、男はニコリと笑った。
「さっきの提案を呑もう! あんたが俺の契約者になって、俺はあんた達を助ける。それでいいな」
私は男の言葉に頷いた。
「じゃあ、早速、契約者を解除してもらおうか」
「どうすればいいんだ?」
「簡単だ。契約した主人に触れて、解約を宣言すればいい」
「それでいいの?」
「あぁ、そうだ」
「この方法なら、確かに何時でも解約は契約者自身の判断で出来るわね」
そして、私は佑磨の腕に触れた。
「私、皆月景は藤沢佑磨との契約をか……」
「止めろ!!」
「えっ!?」
その声に私は途中で言葉を切ってしまった。
男はその声に聞き覚えがあるらしく、怒りを露わにし、そのままの態勢で声をあげた。
「塔矢ぁ!!」
そして、男は振り返ると同時にウォッチを構えた。同時に塔矢と呼ばれた声の主も同じ様にウォッチを構えた。
その瞬間、男は塔矢に向かって真っ直ぐに走っていった。
その手にはいつの間にか刃渡り10cm程のナイフが握られていた。
男はナイフで塔矢に斬りかかるが、塔矢は身のこなしでそれを避けていった。
「ナイフは俺に通用し無いぞ!」
「ちっ! なら、こいつはどうだ!?」
その瞬間、男の足下から煙が立ち登り、たちまち辺りを覆ってしまった。
「煙幕!? ーーッ!?」
暫くして煙が晴れていくと、そこには手足を縛られて身動きが出来なくなった塔矢がいた。
「どうだ!? こいつは最近手に入れたアイテムでな。仕込みをしておくと、指定した相手を自動追尾で捕まえる代物さ!」
「なるほどな。お前らしいアイテムだ」
塔矢は身動きのできない状態から、辛うじて動く指でウォッチに触れた。
その瞬間、塔矢を縛っていた縄が切り刻まれた。
「なっ!?」
「新しいアイテムを持ってるのはお前だけじゃないって事さ」
男はそれを見て一つ舌打ちを入れながら、塔矢との距離をとり、そのまま消えてしまった。
瞬間、公園内を静寂が包み込んだ。
まるで先ほどまでの事が嘘のように。
「あんた達、大丈夫か?」
「わ、私達は何ともないわ。それより、さっきのはなに?」
「あぁ、あれはウォッチに収納したアイテムを取り出して使ったんだよ」
「アイテム? それって、最初から支給されているものなの?」
「最初に説明がなかったか? ゲームに勝つとアイテムが貰えるって」
私と佑磨は、お互いに目を合わせて確認をしていた。
「まぁ、いいや。あんた達も勝ったらアイテムを貰えるよ。それは実際に体験した方が早いだろう」
塔矢の言葉に頷きながら、私は気になっていた事を聞いた。
「ねぇ、さっきの奴は何なの?」
「あいつは、月島 隼人って言って、このゲーム内では新人のプレイヤーを獲物にする奴さ。あいつの手口は言葉巧みに相手の発言を誘導して、相手から契約者を奪ったりするんだ。まだ、あんた達はわからないだろうけど、このゲームでの契約者って、かなり重要なポジションなんだよ。それだけに何かしらの取引の対象になる事だってあ、る。例えば、手に入れたアイテムと契約者の交換とかね」
「ってことは、私次第で佑磨のゲーム状況が有利にも不利にもなりかね無いのか」
「そうなるな」
まだまだ、私はゲームを知らなすぎる。やっぱり、先ずは情報収集が先決か。
そんな事を考えていた私達に塔矢は言った。
「なぁ、お前らその様子じゃ組む相手もまだ見つかっていないんだろ? なら、俺と組まないか?」
塔矢の突然の提案は魅力十分なものだった。私は佑磨にアイコンタクトを送り、佑磨はそれに小さく頷いた。
「良いけど、こちらも殺し合いのゲームで初めて会った人と組むにはリスクは考える。だから、一つだけ条件を言わせて」
「なんだ?」
「貴方の名前を教えて」
「そう言えば、まだ言ってなかったな。俺は八雲 塔矢」
名前を聞いた私達は塔矢と握手をして、お互いの利害の為に組む事になった。
私達は塔矢に言われるまま、公園から場所を移動して、ファミレスにいた。
「なんだ? お前達は食べないのか?」
私達のテーブルには、メシ! メシ! メシ! が、所狭しと並んでいた。
それに圧巻とされていた私達を尻目に塔矢は、ガツガツと料理を口に運んでいた。
「あ、あんた良く食うな」
「なんだよ、あんたなんてよそよそしい言い方するなよ。塔矢で言いよ」
「なら、俺の事は佑磨で」
「私は景でいいよ」
そう言った後、暫くは塔矢が料理を食べる音だけが響いていた。
「さて、じゃあ、腹も膨らんだし本題に行くか。ちょっと、移動するぜ」
街が見渡せる岡の上。
空は既に赤みがかり今日の終わりを告げようとしていた
「お前らが巻き込まれたこのゲームは所詮人殺しのゲームだ。人間同士が騙し合い、殺し続ける。俺もあいつも騙されて一度は地獄を見てきた。お前らに人を陥れる覚悟はあるか?」
塔矢の突然の言葉は確信を付いていたと思う。でも、私には信じられなかった。それはまだゲームを知らない事が一番関係あるかもしれない。まだ、信じられないのだ。
「まぁ、答えられないよな。普通の奴は……いずれ、答えをくれればいい。じゃあ、ウォッチの説明をしていくぞ。ウォッチには幾つかの機能が付いている。もう、景や佑磨が知っている契約機能。それから人を探せる機能」
そう言って、私達は塔矢に色々と機能の説明をしてくれた。
「最後に俺からのアドバイスだ。このゲーム内で自分以外の奴を信じるな。勿論、それが仲間でもだ」
「それは塔矢の事も信じるなってこと?」
「そうだ。俺だって、お前らを騙そうとしてるのかもしれないぞ。自分意外は全てが敵だ」
「わかったわ、肝に命じておくよ」