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第一話 皆月 景(みなつき けい)

サスペンスものは始めてになります


デスゲームって、人間の本性や深層心理に迫るものがあって読んでいると自分の好きなキャラにどっぷりとハマってしまう僕です。


そんな、人間の良い部分、悪い部分を描きながら人ってこんな事も出来るのかって感じながら、自分にも言い聞かせるようにして書いていきたいです


よろしくお願いします

「あっ!? けいちゃん〜!」



そう私の名前を読んだのは親友の彩香だった。


「彩香。私、暇じゃないんだけど?」

「ごめんね〜。でも、こんな事、けいちゃんにしか頼めなくて……」

「どうしたのよ?」


彩香は中学時代からの友達で、いわゆる親友と言うものだ。

彩香の性格はのほほんとしていて、他人の言うことをホイホイと信じてしまう辺りが見ていて心配で話しかけたのがきっかけだった。


「あのね。ゆうくんが、億万長者になるから彩香と別れたいって言うの。理由を聞いても彩香には関係ないからって言って教えてくれないの。ねぇ、けいちゃん。私、ゆうくんと別れたくないの。お願いだから、ゆうくんと仲直り出来るようにして」


私はその理由を聞いて、ますますやる気が起きなくなってしまった。

結局、彩香はまた騙されただけだと思ったからだ。


「わかったわよ。でも、仲直り出来なくても、私は知らないわよ」

「ありがとう、けいちゃん!」


私は面倒臭い事を引き受けてしまったと内心で思いながらも、彩香の事を見捨てられなかった。


「それで、佑磨はどこにいるの?」

「ゆうくんなら近くのファミリーレストランにいるって」


彩香の彼氏の藤沢佑磨と言う男は私もよく知っている。何かと彩香が私を呼び出しては彼氏とのデートに付き合わせると言う事をやっていて、お互い下の名前で呼べる位の仲にはなっていたのだ。


「じゃあ、早く行くわよ。佑磨をぶん殴ってあげるから」

「だ、ダメだよ! けいちゃんの手が折れちゃうよ」


いやいや、彩香。あんた、どれだけ私をか弱いキャラにしてんのよ。


「あっ!? 待ってよ〜」

「はいはい。早くしないと置いてくわよ」




ファミリーレストランに入り、私と彩香は佑磨の向かい側に座っていた。

当然、彩香は何も言えず、ただ怯えるように私をちらちらと横目で見ていた。


(わかったから、そんなに私を見ないでよ)


私は面倒臭さと顔馴染みという事もあり、いきなり本題を持ち出した。


「佑磨。あんた、何で彩香に別れるなんて言ったのよ?」

「ははは、いきなりだな」

「私もそこまで暇じゃないんでね。ちゃんとした理由でないと殴るから」


私は佑磨の目の前で指の関節をぼきぼきっと鳴らした。


「彩香には言っただろ、億万長者になるからだっ……」


私は佑磨が言い終わる前に、バシッと頬を叩いた。


「っててて……」

「ちゃんとした理由じゃないと殴るって言ったでしょ」

「全く、景は昔から手が早いんだから。O.K! 俺もこれ以上殴られるのは勘弁だ。そこで、一つ俺とゲームをしないか?」

「ゲーム?」

「景が勝ったら、理由を教えるよ」

「面倒臭いのは嫌よ」

「簡単なゲームさ。道具も何もいらない。じゃんけんだ」

「あっ!? じゃんけんなら、私、強いよ〜」


彩香が得意げにそう言った。


「彩香。これは私が挑まれたゲームよ。だから、私がやる」

「そうだねぇ〜。けいちゃん頑張って〜」


彩香には悪いけど、じゃんけんを運で勝負するなんてそんな事するわけ無いじゃない。


「じゃあ、行くぞ、景」

「待った」

「なんだよ?」


佑磨は止められた事への疑問を抱いた。


「最初にもう一度確認させて。私が佑磨にじゃんけんで勝てば、彩香と別れる理由を話してくれる」

「そうだ」

「次にじゃんけんは通常のルールに乗っ取り、じゃんけんの掛け声で同時に手を出して勝敗を決める」


私は次から次へと常識的なルールを並べていった。


「けいちゃん、何でそんな事聞くの? じゃんけんなんだから、当たり前じゃない」

「彩香、ルールってなに?」


彩香は少し悩んだ後に答えた。


「じゃんけんのルールって、グーかチョキかパーのどれかを出して強い方が勝ちかな」

「そうね。じゃあ、じゃんけんでお互いが出す時に決める合図は?」

「それはもちろん、じゃんけん……ぽん! に決まってるよ」

「例えばそれ、その掛け声はどうしてじゃんけんなの?」

「どうしてって、みんながそうやってるから?」

「そう、みんながそうやってると言う先入観が暗黙のルールになってる。でも、例えば、掛け声がじゃんけんぽんじゃなかったら? 最初はグーで、最初からグーを出していたらパーを出した相手に負けてしまうわ。だから、これは彩香が思っているよりも大事な事なの」


それを聞いていた佑磨がくすくすと笑いながら私に言った。


「確かに景の言う事はもっともだ。そうした取り決めは勝負の前にはっきりさせておかなければいけない。条件は景が言った通りで構わない」

「そう。じゃあ、始めましょうか」


私は佑磨が掛け声をかける前に、自分の前にチョキを出した。


「なんの真似だよ? まだ、掛け声を掛けてないぞ?」

「佑磨は絶対にパーを出す。だから、私はチョキを出す」

「はっ? 何言ってるんだよ、景。俺がパーを出す? 負けるってわかってながらそんなの出すわけないだろ」

「そうだよ、けいちゃん。だって、ゆうくんがパーを出したら負けちゃうんだから、ゆうくんはグーを出してくるよ」


驚きの声を上げる二人を横目に、私は1人自身に満ちた表情をして、口元を緩めた。


「大丈夫。私が佑磨の手に魔法を掛けたから」

「魔法!? けいちゃん、魔法が使えるの!?」


私と彩香のやり取りの向かい側で、佑磨はじっと、私の目を見ていた。


(景の目は嘘をついているような目じゃない。勝てると言う自身が込められた目だ。だけど、人間に魔法なんて使えるわけがない。ましてや、他人の行動を操るなんて。

そもそも、景がチョキのまま勝負をするなんて、何で決めつける。俺がもしグーを出したら、景はチョキをパーに変えてくるかもしれない。

いや、だけど、景は俺が必ずパーを出すと言った。そもそも、これが俺を誘導する為の罠。

ならば、俺は最も負けない方法を取る)


「よし、勝負だ! じゃんけん……ぽん!!」


勝敗が決まった。

お互いに出したのは、私はグー、佑磨がチョキ。


「けいちゃんの勝ちだ!」

「グ、グー!? な、何でグーなんだよ!?」

「あら、そんなに不思議?」

「だって、最初に言ったチョキってのは、俺の手を誘導する為の心理作戦だろ?」

「そうだよ。ちなみに、佑磨が考えたのはこう。私がチョキのままだと、佑磨はグーを出せば勝てる。でも、私がそのグーを狙い打ちしてくるかもしれない。どちらかわからない佑磨は、確率、つまり理論に頼った。私がパーを出した場合とチョキの場合、どちらが来てもチョキを出しておけば負けはない。むしろ、半分の確率で佑磨が勝てる。なら、私はその佑磨のチョキを狙い打ちすればいい」


私の話を聞いた彩香と佑磨はぽかんとしていた。


「はは、ははは…、負けた、負けた! 俺の負けだ!」


佑磨は髪を手でくしゃくしゃっとして、笑いながら言った。


「じゃあ、約束ね。本当の理由を教えて」

「わかったよ。でも、ゲームをやったのは景だ。俺は景に話す」


そう言うと、佑磨は席を立った。


「明日の13時に、いつもの公園で」

「あっ、ちょっと!?」


佑磨は背中越しに手を振りながら、店を出て行った。

佑磨が出て行った後、私は彩香の肩を掴んで言った。


「大丈夫! 私が明日、佑磨の顔面に一発入れといてあげるから!」





私は佑磨に言われた通り、昔三人でよく遊んだ公園に来ていた。


「よう! 早いなぁ」

「女を待たせるなんて最低ね」

「まぁ、そう言うなよ。時間に遅れたわけじゃないじゃないか」


そんな風に笑いながら返してきた佑磨とのやり取りは、昔のままであった。


「ねぇ、佑磨。一体なんで、彩香にあんな事を言ったの?」


私がその質問をすると佑磨の表情が変わった。

そして、私の方に振り向いた。


「景。お前、億万長者になれる道具って知ってるか?」


いきなり、訳のわからないことを聞かれた。


「そんなものある訳ないじゃない。宝クジか何か?」


すると佑磨はおもむろに持ってきていたノートパソコンの画面を私に向けた。


「これだよ」


そこには胡散臭いデザインで、億万長者になれるゲームと書かれていた。


「まさか、あんたこれを鵜呑みにしてる訳じゃないでしょうね?」

「俺も初めは嘘だと思っていたさ。だけど、ネットで色々と調べてみて、それが本当らしいって事を知ったんだ。これを見てくれ」


そう言って、佑磨が開いた新しいネットのページには変な道具が映っていた。


「これが何なの?」

「こいつを付けてとあるゲームをして勝ち残ると億万長者になれるみたいなんだ」

「ゲーム?」

「あぁ。でも、どんなゲームなのかわからない。実際にネットでこのページを見てこの道具を使った奴がいたけど、使うと言う連絡の後は音信不通になったんだ」


佑磨は更にPCブラウザ内のページを進めた。


「これはある奴のブログだけど、パスが掛けられていて普通の奴は見れないが、先日パスを手に入れてアクセスしてみたんだ」


そこには夥しい数の文字が羅列されていた。

文頭はこうだ。


『億万長者への道!!

このページを見た貴方は億万長者になる権利を得ました。しかし、本当の億万長者になる為には、それなりの試練があります。


1:億万長者になりたい者同士でゲームをしてもらいます

2:ゲームの結果どの様な事が起きようとも、それに納得してもらいます

3:ゲームの内容は事前に教えません。皆さんはその場での対応力を含めた能力を競う為、公平な条件でのゲーム開始をします

4:以上の事を受け入れる方は、下記よりゲーム参加に必要な道具を入手して下さい』


そして、ページを下にスクロールしていくと、先ほど見た道具が映っていた。


「この道具が無いと参加は出来ないのね」


すると、佑磨はポケットの中から画面に映っている道具と同じ物を取り出した。


「実はもう申し込んだんだ。こいつが来たのはつい先日だ。そして、これがこの道具と一緒に入っていた」


そう言って、佑磨が出した紙には説明が書いてあった。


『これは装着者の情報を送る装置です。そして、この装置を装着してゲームを行ってもらいます。

ゲームの名前は「レンタルゲーム」』


「レンタルゲーム?」

「単純に考えると借り物競争みたいなものだが……」


何かを貸し借りするゲーム……

私の中ではゲームに対する不安要素が強くなっていった。


「説明にはこれだけか……」

「こんな情報じゃゲームの中身はわからないわ」

「一度試してみるか」


そう言って佑磨が道具を手に取った瞬間、私の背筋を何かが走った。

不安、焦燥、嫌悪、様々な負のオーラが一気に駆け抜けた気がした。


「待って!」

「なんだよ?」

「軽率過ぎるわ。わからない事が多過ぎる。それに、佑磨が初めに言った道具を使った人の話」

「それがどうかしたのか?」

「その人は道具を使った直後から連絡が取れなくなったって言ったわよね?」

「あぁ」

「これはあくまで仮定の話で、私の想像。その道具を使った人は、このレンタルゲームって言うのに参加した。そして、連絡が出来ない状態になった。連絡手段が断たれた。もしくは連絡が出来ない状態になった」


私はあくまで仮定で話をしていたが、想像でもこの先は考えたく無いし、口にしたくもない。

連絡が出来無い状態……つまりは死。


「景が今考えた事は俺も考えた。でも、もし億万長者になれる話が本当なら、それ位のリスクは当然だ。だって、億万長者だぜ! 俺たちが一生懸命汗水垂らして働いても稼げない大金だ」

「佑磨、あんたどこかおかしいよ。こんな事、普通な訳ない。そんな事やらないで彩香とよりを戻して元に戻りなさいよ」


私の言葉に佑磨はう〜んと悩んでいる素振りを見せたが、笑って言った。


「景、お前はさ自分が何で生きてるのか考えた事あるか?」

「はぁ?」


生きてる意味なんて考えた事がない。正確には考えないようにしていた。自分の存在価値は何なのかと考えれば考えるほど底なし沼にハマったように思考はループし続けるからだ。


「俺はさ自分が何故生まれて生きてるのか不思議に思うんだ。神様は何故俺をこの世に生み出したのか。そしてこのゲームに参加したら、俺の存在価値って少しは感じられるのかなって思ってさ」


佑磨は私と同じだ。何もない、何もないのだ。だから、何かを得ようとしている。


「そんな自分勝手な事に、危険かもしれないゲームに、彩香を巻き込めない」


なるほどね。ここでようやく私は本来の目的を達成した事になる。彩香に別れを切り出した理由はこれである。

私は納得と同時に佑磨に興味を持ち始めていた。そして、このゲームにも。


「そして、景。俺は昨日のファミレスで景とじゃんけんをした時に思ったんだ。景の力があれば何とかなるんじゃないかって。この道具は俺が付ける。景は俺のサポートで一緒にゲームに参加してくれないか?」


その言葉に私の心臓はドクン! っと、一つ大きく反応をした。

それは私の身体が答えを出していた。リスクとは反比例する様に気持ちは高揚していた。


「す、少し考えさせて」

「いきなりだからな。俺は明日これを使ってみるつもりだ。場所はこの場所。時間は同じだ。もし一緒に参加してくれるなら、明日ここに来てくれ」

「わ、わかった」


そう言って、佑磨は行ってしまった。



私は自室で今日の佑磨の言葉を思い出しながら、自分のパソコンで佑磨に聞いたパスワードを使い、例のブログにアクセスしていた。


「やっぱり、見れば見るほど怪しい。でも、何故だろう。怪しいはずなのに……」


私は何処かこのページに惹かれていた。

その理由はわからない。でも、私の中にあるのはあの時と同じもの。


その時の私の表情は自分で気付かないほど歪んでいた。

こんな気持ちはあの時以来だ。そう、私が起こした事故……いや、人殺しと言って問題無いだろう。


そして、私の手は無意識の内にその道具の申請をしていた。

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