Episode3 Yui’s Valentine
二人の少女を見送った後、私は謝りながら駆けてきた太一と合流した。どうも、私の乗っていた電車に直前で乗れなくて、それで遅れたらしい。まあ、遅刻に関しては私、強く言えないんだけどさ。過去一時間以上約束の時間に遅れた時のことを思い出して、少しほろ苦い気持ちになった。ま、あの時のことがなければ今こうして太一と付き合ってなかったのかもしれないんだし、それは結果オーライってことでっ。
今日はバレンタインデー。そして二月十四日は太一の誕生日である。去年は誕生日プレゼントだって言って本命チョコを渡したりなんかしたけど、今年はそんなことをする必要もなく、心置きなくバレンタインと誕生日を祝おうかな――なんて思っていたんだけど、太一がどうしても私と行きたい店があるからと、そこに向かうことになった。だから、太一へのバレンタイン兼誕プレはあらかじめ作って持ってきた。去年のリベンジとして、ハート型のチョコレート。去年はとてもハートとは思えないような歪な形になっちゃったけど、今年のはちゃーんとハート型になってるんだから。太一は進歩したなって褒めてくれるかな? へへへ。
太一にはどんな店か知らされてなかったけど、東口から駅を出て細い通りを抜けると、すぐに着いてしまった。その店は小さいながら洋風のお洒落な造りで、外観だけでも好きになれそう。看板には『Matterhom』と書かれていて、うん? この名前、どこかで――。
その引っかかりの正体は、思い出すまでもなく、中に入った瞬間に明らかになった。
「え……さっきのお姉さん?」
「あれっ、さっきの……美華ちゃんと芽依ちゃん、だっけ?」
ほー。そんな偶然がねえ。何だ、もうちょっと太一が早く来てれば四人で一緒に行けたんじゃん。
「痛っ、何だよ急に腕つねってきて。それで、あの二人は知り合いなのか?」
太一に問われて、改めて二人に向き直った。二人とももう買い物を済ませたらしく、棚の上には包まれた(ケーキかな?)商品が置いてあった。
「いや、知り合いっていうか……」
「ですね」
「あはは」
太一には怪訝そうな顔をされたけど、だって何とも言いようがないんだもん。ほとんど他人のようなものだけど、何となく知らない人とは言いづらいし。
「あっじゃあ私、この後部活あるんで、失礼します。芽依ちゃんと、えっと……」
「結衣よ」
「結衣さん。本当に助かりました。またどこかで会うことがあったら、その時はよろしくお願いします」
そう言うと、美華ちゃんはお下げを揺らしながら駆けていった。一見細くて運動なんてできなさそうなのに、その走りはとっても力強かった。部活って言ってたし、何か運動やってるのかな。
「じゃあ私も、そろそろ電車が出る時間なのでこれで」
「ええ。本当ありがとね、芽依ちゃん」
「いえいえ、それでは」
美華ちゃんとあまり体格の変わらない芽依ちゃんだけど、運動は……まあ、それはそれで可愛げがあるけど。頼りなく駆けていった芽依ちゃんを見てると、自然と自分が笑顔になっているのを感じた。
「それで、太一のお勧めはどれなのーっ?」
「あ、ああ。このチョコレートケーキなんだけどな――」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。今回の話、実は小説より先に妹がイラストを描き、それを元に書いたものになります。