Episode2 Mei’s Valentine
今日は二月十四日、バレンタインデー。本当は家でゆっくり央芽と過ごす予定だったんだけど、急に親戚の法事が入ってしまったため、昨日泣く泣く地元、愛知県豊橋市まで帰ってきていた。一晩実家に泊まって、これから央芽のいるアパートまで帰るところ。帰るっていっても静岡県浜松市だから、浜松駅から距離があるといっても、せいぜい二時間ほどしかかからない。でも流石に帰ってからチョコを作るのは厳しいから、駅前にあるマッターホーンっていう洋菓子店でチョコレートケーキでも買っていこうかなと思っていた、そんな矢先だった。ショートカットの美人なお姉さんと、二つ結びのおさげがよく似合う女の子の二人に呼び止められたのは。
「じゃあ美華さんは巴高生なんですか」
「はい。芽依さんは?」
「私は浜松の方の、三北高ってわかります?」
「すみません、わかんないです」
どうやら美華さんは私も行くつもりだったマッターホーンの場所がわからずあの美人なお姉さんに訊いて、お姉さんもわからず私に訊いた。ということらしい。全くの他人である三人がこうして集まるなんて、何かの縁でもあったのかな。美華さんも私と同じ高校一年ということで、店に向かいながら主に学校のことで話が弾んだ。私が県外の高校に進学してしまったばかりにどうしてもここ最近の地元のことには疎かったので、こっちの高校の話はとても新鮮だった。美華ちゃんが剣道部に入っていると聞いて、私と変わんないんじゃないかと思うほどのその細い腕のどこに竹刀を振る力があるのかと、不思議でならなかった。
そんなことを話しているうちに、店へと着いた。東口を出て少し歩けば着くんだけど、美華さんはどうやら駅内のビルをずっと回っていたらしくて、そりゃあ見つからんわなって笑ってた。その笑みにはどこか惹きつけられるようなものがあって、多分今まで会ったどの女の子よりも魅力的だと思う。
「じゃあそれぞれ選びましょうか。私はチョコケーキだからっと」
「あれっ、芽依さんもチョコケーキだったんですか? 実は私もチョコケーキ買うんですよ」
「えっ、そこまで一緒だったなんて。すごいですねえ」
私は自分と央芽の分なので四切れほどしか買わなかったけど、美華さんは一ホール丸ごと買っていた。少し驚いたけど、あんまり他人の事情に首を突っ込むのもよくないよね。うん。
そうして二人して会計をしている最中、店の扉が開いて、ひと組のカップルが入ってきた。その女性の方を見たとき、私も、多分美華さんも驚きで固まってしまった。
「え……さっきのお姉さん?」
「あれっ、さっきの……美華ちゃんと芽依ちゃん、だっけ?」