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Episode1 Mika's Valentine

 二月中旬。まだ冬の気配が色濃く残っていて、私の地元、愛知県豊橋市では海から吹き付ける突風がとても強い。風が必要以上に冷気を運んでくるものだから、太平洋側だというのにとても寒い。太平洋側故の超乾燥のおかげで、雪はほとんど降らないんだけど。

 今日は十四日の土曜日。こんな季節に部活なんてしたくないんだけど、そうもいかないもので、午後から練習がある。あ、私の部活っていうのは剣道部。こんな季節に裸足になるなんて、本当ヤになっちゃう。私の所属する巴高校剣道部は、私たち一年が入部するまでは部員が二人しかいないという、廃部寸前の状態だったんだけど、今はそんなことを忘れさせるほどの賑やかさ。ある意味、悪い意味で。この間だって優奈は武道場で堂々とあんなことを……。でも皆剣道の実力は折り紙つきで、正直あの中では私が一番弱いんじゃないかって思う。そんな皆のことが何だかんだ好きだから、今日はこうして皆のチョコを買っていこうと、早めに豊橋駅まで出てきたのだが――。


「もう、どこにあるのよ。姫乃の言ってた“マッターホーン”ってお店は」

 小柄で少し無愛想な、返し技の冴える友達が絶賛していた、マッターホーンというお店のチョコレートケーキ。それを買っていくつもりなんだけど、肝心のお店が見つからない。おかしいなあ、駅ビルはほとんど回ったはずなんだけど。

 これ以上歩き回っても埒が明かないし、それにこれ以上まごついてたら部活に間に合わなくなっちゃう。ここは道行く人に聞くしかないなあ。でも誰にしよう。洋菓子店だし、やっぱ女性の方がいいら。その方が私も話しやすいし。えっと、誰かそういうの知ってそうな、話しかけやすそうな女性は――。あっ、あのショートカットが似合う美人なお姉さんとか良さそう。


「すみません。この辺りでマッターホーンっていう洋菓子店があるって聞いたんですけど、どこにあるか教えていただけないでしょうか?」

 こちらに振り返ったお姉さんは、私とほとんど背の高さは変わらないのに、とてもキラキラした雰囲気で、何というか私よりも大きく見えた。特別派手な化粧をしているわけでもないのに。こういうのを本当の美人っていうのかな。姫乃とかが何年か経つと、こういう風になるのかな。

 お姉さんはしばらく顎に手を当てて天を仰いでいたけど、困ったように目を細めて手を合わせた。

「ごめんねえ、力になってあげたいところなんだけど、私普段こっちの方には来ないし、わかんないや。どっかで聞いたことある店名だと思ったんだけどねえ」

 そういった仕草は口調は見た目の落ち着いた雰囲気とは打って変わって可愛らしくて、女の私でさえも思わずドキッとしてしまった。普段もっと過激な目に合っているというのに、不思議なものだ。

「そうですか。わざわざ失礼しました」

 素敵な人だったけど、知らないならしょうがない。他を当たるしかないなあと思った矢先――。


「ねえねえ、あなたマッターホーンってお店知らない?」

 お姉さん、たまたま通りすがった赤の他人に声かけちゃったよ。自分のことでもないのに、何だか申し訳ない。呼び止められた高校生くらいの女の子は一瞬呆然としていたが、すぐその顔が微笑みに変わった。うわあ、大人っぽい表情。肩まで伸びる髪は滑らかそうで、お姉さんにも劣らない美人。こんなレベル高い女の人、中々お目に掛かれないよ。まあ、うちの剣道部の人らも何だかんだレベル高いけど。あの人たちから変態性を抜けば、完璧な女性になるんだけどなあ。

「知ってますよ。というか丁度今から行くとこですし。よかったら案内しましょうか?」

「それは助かるわあ。あっ私じゃなくてこの子ね。えっと――」

「美華。平野美華です。すみません、よろしくお願いします」

 美人二人に囲まれて尻込みしてるわけにもいかず、女の子に挨拶した。女の子の優しい微笑みの破壊力が凄くて、同性だけど思わず惚れそうになった。


「月野芽依です。じゃあ、さっそく行きましょうか」


マッターホーンというのは、地元の人の大抵が全国チェーンだと勘違いするであろう洋菓子店です。作中書いたのはその本店になります。

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