初登場は刺激が強い方が記憶に残る
「ちょっと、待って」
と、俺が焦りまくる間、ブロッサムが両手で摘んだスカートの裾を持ち上げながら、遠慮がちに片足をベッドに乗せた。
どうしよ、すっごいいい匂いがする。ふわってお花の匂いがする。こんなヤバい状況なのに、優しい気持ちで一杯になるようなすっごくいい匂い。
「デイジー、待ってって……」
ブロッサムは遠慮がちにデイジーへと振り返った。薄い茶色の髪は枝毛ひとつなく、毛先に綺麗なウェーブが掛かっている。
この子ってデイジーと双子なんだろ? いや、ないない。超似てない。
大体胸だけじゃなくて背丈もデイジーより随分大きいじゃんか。
「いいよ! デイジーが許可するから!」
おい、何言ってんだ、このクソガキ。
ブロッサムは眉を下げ、恐る恐る俺の腹の上に跨った。
見上げれば、露出の少ないワンピースに包まれた2つの大きな膨らみ。
その先の、あどけないけど整った顔。
本当に、お花みたいな女の子だと思った。
「はじめまして、アニキ。私、ブロッサムっていいます」
「よよよよ、よろしくね。アアアア、アニキじゃないわよ。キヨ。あ、あたし、キヨっていうの」
インディアンが仲間に合図するかのようなどもり具合で、俺はどうにか自己紹介を済ませた。
ああ、さようなら、中原キヨシ。こんにちは、女の子のキヨ。
「はい、よろしくお願いしますっ」
ニコッと。ブロッサムが微笑む。
か、かわいいー。
すべてを吹き飛ばすような、優しい風が心に吹いてくる。
「これで仲良しだー」
デイジーは満足気だ。
で、でも。あの、デイジー先輩、これって何のプレイですか?
ロリ巨乳のめちゃくちゃ可愛い女の子に跨がられて、しかも俺は女装で女言葉強要とか。
もう一回言うけど、これ、何のプレイ?
「キヨさんって。身体、硬いんですね」
ブロッサムの真っ白な手が俺の胸の辺りを遠慮がちにそっと触った。
「むおっ」
思わず鼻息とともにおかしな声が飛び出した。
童貞がいい匂いのする年下の巨乳美女に胸を触られている。しかも弱く。この微妙な感じがヤバい。やらしい。
こんな時どうすればいいって?
正解はわからない。わからないけど、今、俺は必死こいてチンパンジーの交尾を妄想している。
絶対にやらしい事を考えるではないぞ、俺。あ、いや、チンパンジーの交尾もやらしい事なんだけどさ。
いいか、ここをキャンプ地にしてはいけないんだ。テントなんて張ったら絶対えらい事になるぞ。っていうかどっちかというとえろい事?
「すごいでしょ、アニキって、ネリアよりおっぱいないんだ」
あくまで君はアニキって呼ぶんだね、デイジー君。
っていうか男を知らないで生きてきた癖に何で「アニキ」って単語を知ってるんだよ。
やめろよ、俺、男だってバレたらあのティッシュ箱に殺されんだぞ。
「ほんとですねー。デイジーよりもぺったんこですー」
さわさわっと、ブロッサムが俺の胸を服越しに撫でてくる。
「むふぉおおお」
だからそれやめて、ほんとやめて。
しかも覗きこむように俺の胸を見てるから、その豊満なお胸が今にも俺の身体にくっつきそう。
っていうかあんなに遠かった女子のパンツが、今布一枚で俺と触れ合ってる訳だよな。
それってあり得ない位すごいじゃん。
触れ合った彼女のお尻と太腿はワンピース越しでも柔らかいのが分かって、俺は思わず顔を隠してニヤつきそうになるのを必死で耐えていた。
「あ、あれ? な、なんか硬いのがお尻に当たってるような……」
ブロッサムが不思議そうに首を傾げる。
やめてええええええ!!
心が叫びだしそうになった時、
「何やってるの!」
と、鈴の鳴るような声がした。
サッと部屋に入ってきたのは見覚えのある顔。
「ベルちゃん……!」
ベルちゃんは、昨日の優しそうな顔を一切見せず、鬼のような形相でブロッサムを睨んでいた。
デイジーには見向きもしない。
「あなた、何をしているの」
「あ、あの、これは事故で……」
「あなたに聞いてない」
ベルちゃんは俺に視線だけを向け、ピシャリと言い放つ。あれ、なんか昨日のベルちゃんと印象が全然違う。
「ブロッサム、降りなさい」
氷のような冷たい声で、ベルちゃんはずんずんとこっちへと近寄り、ブロッサムの腕を掴む。
「痛っ」
ブロッサムは痛みで顔を歪め、引きずられるようにして無理やりベッドから降ろされた。
「やめてよベル。ブロッサム、痛がってるじゃん!」
デイジーがベルに懇願するようにしてすがりつく。
「やめないわ。ブロッサム。わかってる? 客人様にこんな事をするのは規律違反。あなたは拷問部屋行きよ」
「っ、どうして!」
デイジーが息を呑む。ブロッサムは泣きそうな顔でデイジーを見て、それでも「仕方ないね」と言いたげに笑っていた。
「それはあなたがよくわかってるはず」
そう言って、ベルはずんずんとブロッサムを引きずるようにして部屋から去って行こうとする。
「待って!」
デイジーがそれを追いかける。
俺も、それに従ってベッドから降りてずれたカツラに気をつけながら背中を追いかけた。