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男の娘が異世界の女騎士団を全員攻略とか無理ゲーだろ  作者: 矢御あやせ
Ⅰ はじまりの鐘が鳴る―ベル√―
3/8

世界観説明を聞いただけで攻略完了してしまった件

「あ、あのさ、ベルちゃん」


俺はベルちゃんの豊満な胸から目を反らして床に目線を這わす。

男女が二人でボロのベッドに腰掛けるとかなんつーシュチュエーション。

ドキドキする。嫌でも隣のかわいい女の子を意識しちゃうって。


「ここって何するとこなの?」


とりあえず話題だ、話題。

落ち着くためにもこの世界の事をちゃんと知っとかないと。


「……騎士団の宿舎だよ」


相変わらずベルちゃんの顔は真っ赤だ。


「騎士団? ベルちゃん達って騎士なの?」


ベルちゃんはコクン、と頷く。


「うん……さっきのみんなは国家騎士団だよ。カーネリア様が団長をしてるの」


ひえー、団長って。

あの露出狂ド貧乳、そんなに偉かったのかよ。っていうかデイジーはまだ子供じゃん。


「ベルちゃんは魔法が使えちゃったりするの?」


ベルちゃんは少し俯きながら頷く。


「……うん。魔導師だから」


魔導師か。だからあんな杖持ってたんだ。


「すげー! 魔法使えるとかすげーよ、ベルちゃん」


ベルちゃんは不思議そうな顔をする。あ、この世界じゃきっと魔法は当たり前なんだな。


「そんな事ないよ……。魔法が使えたって、戦争の道具になるだけだもん」

「戦争?」


思わぬ単語に、俺は思わず息を呑んだ。


「うん、この大陸には6つの国があって、それぞれが常に戦争をしてるの。一年で一番強かった国にだけ、神様が巫女様に男の子を宿してくれるんだ」

「なんだそれ」


てことは、この女の子達は国の命運を懸けて戦ったりしてんのかよ。こんな若いのに? 子供もいるのに?


「この国はなかなか戦争に勝てないから、男の子は滅多に生まれないの。今は最後の男の人が死んじゃったから、男の子は一人も居ない」


だからデイジーは俺をあんな風に見てたのか。


「じゃあ人口がいつまでも増えないじゃん」

「そうだね……きっとこのままじゃこの国、滅んじゃう」


男の子が生まれなければ人口が増えない。人口が増えなければ戦争をしても、兵士や労働人口が少なくなって国家として衰退していく。


バカ高校生の俺にだってそれ位わかる。


「何のために戦ってるか、時々わからなくなるんだ」


ベルちゃんは小さな声で言う。きっと騎士団長のネリアさんにそんな事聞かれたら大変な事になるんだと思う。

その本音を、ベルちゃんは今、俺に話してくれている。


「ベルちゃんは、戦争、嫌いなの?」


ベルちゃんは曖昧に頷く。


「私、戦うの、あんまり好きじゃないんだ。だけど、戦わないと、この国、滅びちゃうから」


彼女は握った拳を小さく震わせていた。


「戦争、してるだけでもどんどん仲間が死んでくの。相手の国の人達も、同じ」


声が詰まって涙声になっていく。

説明よりも、その今にも壊れてしまいそうな弱々しい声が俺にこの国の現実を教えてくれる。


「ごめんね、この世界に来たばっかりのキヨくんにこんな事話しちゃって」


ベルちゃんの目は少し潤んでいる。


「そんな事ないよ。話してくれてありがと」


俺、頼られてるのかも。それってすっげー嬉しいじゃん。

元の世界? 楽しみとか風呂のバブチーノと夕飯の5年ぶりのカニとようやく買った龍が如くの最新作ぐらいだよ、テスト終わったらやるつもりだったやつ。


うわあああ! 帰りてーーー!!!


「あの、キヨくんって本当に男の人なんだよね」

「ああ、そうだよ」


だが、ふと目に入った鏡に映った姿を見て自信が無くなった。

ちがうから、ちゃんと男の子だから。スカートの中は立派な男の証があるから。戸籍の上でも男性だから。何なら住民票取ってこようか? あーくそ、ここ異世界よー!


「キヨくんの手、握っていいかな……」

「え」


ベルちゃんは俺に手を重ねる。そそそそそ、そんな俺みたいな童貞の手なんか握ったらダメだよ! ででで、でも考えろ。ここでドラクエなんて言うんだ、主人公は。

なんもしゃべんねーよ!!!!


やべー、ドキドキがとまんねー!


「だだ、だめだよベルちゃん」


俺はその手を解く。

ベルちゃんは悲しそうな目で俺を見ていた。


「あ、あの……ごめんね、キヨくん……ごめんなさい」


俺は首を振ってそっと笑いかける。

一度離した手を、ベルちゃんの手に重ねた。


「こういう時はこうするんだ」

「え」

「男がリードするんだよ、こういうのって」


ひんやりとした手。ベルちゃんは恥ずかしそうに俺から視線を逸らしてる。

ゆっくりと流れる優しい時間。

何を言えばわからずに「あ、あのっえっと」と漏らすベルちゃんはすごくかわいい。

ふんわりと香る石鹸の香りが、俺をドキリとさせる。


「手が冷たい人って優しいんだよ」


ベルちゃんは俺の方を見る。相変わらず顔は真っ赤で、眉尻が下がっており、何を言えばいいかわからないという感じだ。


「ベルちゃんは優しいんだね」


彼女は目を反らす。


「そんな事、ないよ」


ベルちゃんの手をぎゅっと握りしめる。

彼女はハッとして「あ、あの」と声を漏らす。

とっても柔らかい手だった。


「嫌かな?」


ベルちゃんはふるふると何度も首を横に振っている。


「ちがうの、キヨくん。あの……私ね、”れんあい”ってするのが夢だったの」


ベルちゃんが片方の手も俺の手に重ねる。豊満な胸が俺の腕に当たった。

なにこれ、柔らかっ!!!


「神様がお怒りになられて男の子をくださらなくなる前は、女の子は男の人を自由に好きになって、触ったり、愛を囁いたりとか、できたんだって。それって凄い事だよね」

「すすす、凄くないよ」


どちらかというと凄い事になってるのは俺の下半身ね。

やばあ、おっぱいやば、すっごい柔らかい。やっばー。


「それは、誰にでも、する権利があるんだよ」


かっこいい事を言った体だけど下半身の状態がバレたら一発退場モノだった。

必死で太腿の位置を調整してどうにか誤魔化せないか試みてみる。


「ベベベ、ベルちゃん、俺と恋愛、しようよ」


その言い方は、まるで変質者のようだった。





リーン、ゴーンと。遠くで鐘の鳴る音がした。


きっと、宿舎の外には教会があるに違いない。



「おめでとうなんだ! ベルルート、攻略完了なんだ!」

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