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 小学校のクラスにはヒエラルキーがある。大人たちはスクールカーストとか呼んでいるけど、意味はほとんど同じだ。


 クラスで一番体育が得意な子は一番上。


 その次は勉強ができる子。


 その次は話が面白い子。


 その次は格好いい子。


 クラスによっては順番が違ったりもするけど、今あげた子たちは間違いなくどのクラスでもヒエラルキーの上にいる。


 不思議なことに、可愛い子は上には行けない。


 だって、可愛いだけで男子にちやほやされるような女子はハブられるから。


 ただし、一つだけ例外がある。


 可愛い子が大多数の普通の女子を従えるだけの力があれば、ハブられることはなく女子からも一目置かれる存在になれる。


 その力は、もちろんケンカが強いとかそういうことじゃない。


 まあ、強気な性格は無関係ではないけど。


 彼女にはその力があった。


 でも、彼女は体育が得意ではなかった。


 勉強は得意どころか普通以下。はっきり言ってしまえばいつもテストの点は悪かった。


 話が面白いかどうか、それはわからない。周りの女子たちは楽しんでいるように見えたけど、実際どう思っているかなんてわからないし。


 もちろん男の子じゃないから格好いいわけでもない。


 彼女が唯一誇れるのは、小学生にしては化粧が上手く地味で特徴のない自分の顔をそれなりに可愛らしく見せる技術だけだった。


 これだけじゃ、人気者にはなれない。


 可愛く見せるだけしかできない彼女がヒエラルキーのトップに立てたのは、彼女が読者モデルをやっていたからだった。


 小学生用とはいえファッション雑誌の読者モデル。


 これにはそれだけで他の条件全てを超える程の力があった。


 雑誌がどれほど売れているのかは知らない。


 彼女のクラスだってその雑誌を買っているのはごく一部だけだった。


 流行に敏感でファッションに興味がある子だけが買っている。


 正直に言えば、彼女は買っていなかった。


 今では毎月見本として送られてくるので買う必要はない。


 ファッションに興味があるのは彼女の母親で、読者モデルの話も自分からではなく母親に無理矢理やらされたのだ。


 しかし、そのことであまり目立たなかった彼女が一気にクラスの頂点へ上ることとなった。


 それから彼女はそういうものに興味を持つようになった。


 本当に自分が何を好きだったのか、それはもうどうでもいいことだった。


 だって、彼女の好きなものは彼女をクラスの頂点へ連れて行ってはくれなかった。


 面白かったかも知れないし、楽しかったかも知れない。


 でも、役には立たなかった。


 彼女はその時まで気がつかなかったのだ。


 ヒエラルキーには隠された条件があったことを。


 ヒエラルキーの上へ行くにはほとんどが才能による力が必要だった。


 体育も、勉強も、外見も、話術も。


 大人たちは無責任に努力をすれば上手くなるって言うけど、本当はわかっているんだ。


 できる人たちは最初から上手いって。


 そして、そのできる人たちも努力をする。


 つまり凡人がどんなにがんばったってスタート地点が違うんだから追いつくことはない。


 努力をしたら追いつけるのは、才能のある人がみんな『ウサギとカメ』に出てくるウサギでなければならない。


 そんな都合のいい話はこの世界にはないんだ。


 だから本来なら、彼女はヒエラルキーの頂点には立てなかった。


 それを成し遂げたことで気付かされたのだ。


 才能によらない隠された条件。


 それは流行に敏感で詳しいと言うこと。


 ファッションとか音楽とか芸能人とか。


 とにかくテレビとかネットで話題になっている新しいものをいち早く知っていることがステータスになる。


 多少の努力は必要だけど、才能による力に比べたらよっぽど簡単だった。


 女子たちの多くがそういう話をしているのは、きっとみんな心のどこかでわかっているんだ。


 流行に詳しいと言うだけでヒエラルキーの上でいられるなら、それが一番楽だって。


 読者モデルというのは、それそのものが流行の最先端として祭り上げられる存在だった。


 彼女こそがこのクラスの頂点であり、それを脅かすことができるのは才能に恵まれた子だけ。


 それほど優秀な子はこのクラスでは一人くらいしかいない。


 学級委員の加藤正義君。


 彼だけが自分より上に行って良い子だった。


 だけど、授業参観の後から妙なヤツが目立つようになってきた。




「ねえ、心愛(ここあ)ちゃん。最近あいつ調子乗ってない?」




 友達……というよりはどちらかというとただの取り巻きでしかないクラスメイトが言ってきた。


 他にも取り巻きは何人もいて、心愛の座る席を囲む。


 そのみんなが同じように面白くなさそうな顔をしてあるクラスメイトをチラチラ見ていた。




「そうよ、何か勘違いしてるみたい」


「キモオタのくせに……」


「加藤君も、加藤君よ。あんなの相手にしなければいいのに」




 取り巻きの子たちが批難しているのは、このクラスのヒエラルキーの一番下に存在する女子。


 アニメやゲーム好きを公にしてはばからない――いわゆるオタクである。


 オタクはそれだけでたとえ他の全ての条件を満たしていたとしてもヒエラルキーの下へ追いやってしまうマイナス要因だった。


 例外はないはずだった。


 彼女以外にもオタクはいるが、もちろんみんなそのことを隠してヒエラルキーが下がらないようにひっそりと趣味を楽しんでいる。


 それどころか、中にはヒエラルキーの上の人たちに取り入ってオタクを批判して、自分がオタクであることを隠そうとまでする。


 にもかかわらず、彼女だけは違った。


 誰もが彼女がオタクだって知っている。


 むしろ、彼女自身がそれを誇りにすらしているかのようだった。


 それだけでも気に障るというのに、最近は彼女の行動が目に余るようになってきた。


 授業参観が終わってから、このクラスのヒエラルキートップであり、この学校全体にとってもトップクラスである、学級委員の加藤君が彼女とよく一緒に話をしているのだ。


 それも、どちらかというと彼女から近づいているのではなく、加藤君の方から。


 たぶん、色目を使って取り入ったに違いない。


 あれだけの容姿を持っていたら、普通の男子くらいコロッと騙せそうだし。




「……そうね、そろそろ自分の置かれてる立場を教えてあげなきゃイケナイかもね」




 心愛は立ち上がって彼女――小山内紗亜弥の席へと向かった。


 取り巻きの中でも、とりわけ心愛を心酔している二人だけ従えて。




「ねぇ。加藤君、何の話をしてるの?」


「え? ああ、小山内さんに魔法少女について教えてもらってたんだ」


「な……」




 あまりのことに言葉を失ってしまった。


 あろうことかヒエラルキーのトップである加藤君をオタクへ引き込もうと画策していたのだ。




「加藤君て、プリキュアのことも知らないんだよ? 笑っちゃうよねー」




 無邪気に笑いかける小山内に、言いようのない苛つきを覚えたが、無視して加藤君の腕を掴んだ。


 このままこんな奴と話をさせてはいけない。


 守らなければ。




「アニメなんてキモイオタクの見るものよ。そんなくだらない話よりも私たちともっと面白い話をしよーよ」


「おめーらの話だってくだらねー話しバッカじゃねーか。ファッションが何だとか、芸能人がどうとか」




 加藤君を連れて行こうとしたら、運動神経だけでクラスのヒエラルキーの上に存在する等々力亮が割って入ってきた。




「何よ、馬鹿には理解できないだけじゃない」


「はぁ!? ケンカ売ってんのか?」


「ちょっと二人とも、僕の前でそういうことはやめて欲しいな」




 一触即発になりそうだった心愛たちと等々力を、加藤君が止めた。


 他の誰でもない、加藤君にそう言われてしまったら引き下がるしかない。




「ってゆーかさ、プリキュアなんて小学四年生にもなってまだ見てるのか?」




 馬鹿なくせにいいことを言う。


 思わぬ援護が来たので、心愛はそのまま黙っていることにした。




「そうよ、何か文句でもあるの」


「あんなの見てるのは、せいぜい一年生くらいまでだろ」


「フフン、甘いよ等々力。さーやのお父さんなんか今年で三十歳になるけど、一緒に見てるんだから」




 得意げな顔をしてそう言った小山内に、等々力は少し引いていた。


 もちろん心愛も心愛の取り巻きも汚物を見るような目を向けている。


 しかし、加藤君だけは感心しているような気がした。




「小山内、それ……自慢になってねーぞ」


「そう? さーやたちの中では十分自慢だよ。何しろリアルタイムで全シリーズ見てるんだから。ずるいよね。さーやなんか最初のシリーズが始まったときは生まれてさえいなかったんだから」




 さすがの等々力も、返す言葉を失っていた。




「小山内さん、そのプリキュアって、面白いの?」




 微妙な空気が流れる中、加藤君がそう言った。




「魔法少女のことが知りたいなら、是非見ておくべきアニメだよ。ただし、今からシリーズ全部見ようと思ったら相当時間かかると思うけど」




 これ以上、加藤君をオタクに毒されるわけにはいかない。


 仕方がないけど、心愛は小山内に言うことにした。


 本当は、オタクと言葉を交わすことさえ気持ち悪くて嫌だけど。




「小山内さあ、あんたがどんな趣味持ってても構わないけどさ、加藤君を巻き込まないでくれる」


「え?」


「そうよ、キモイオタクのくせに」


「調子乗ってんじゃねーよ。オタクが」




 取り巻きたちが援護する。


 小山内はそれでやっと自分の置かれた立場がわかったのか、少しうつむいた。


 少しだけ気が晴れた心愛たちは、そのまま加藤君を連れて席を戻ろうとした。


 その時――。




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 はっきりと力強く言った小山内の言葉は、教室内に響いた。


 その言葉に、心愛の心も揺れ動かされる程の力を感じた。


 加藤君を掴んでいた手が力をなくして彼を解放する。


 すると、彼はそのまま小山内の席へと戻り心愛たちに言った。




「悪いけど、僕は小山内さんに巻き込まれたわけじゃないんだ。僕から彼女に教えてもらってる立場だし、君たちの批難には偏見しかない。小山内さんの言っていることの方が筋は通ってると思う」


「ま、そりゃそーだ。第一、ブスのお前らが小山内のことをキモイとか言っても説得力がねーよ」




 男子のヒエラルキー一位と二位を味方に付けた小山内にこれ以上表立って敵対するのは得策じゃなかった。




「フン、体育馬鹿のあんたに言われたくないわよ」


「何だと?」


「だから、二人ともケンカは――」




 再び加藤君が仲裁に入ったとき、チャイムが鳴ってこの話は終わった。


 小山内とのことは有耶無耶になったものの、心愛は敗北感でいっぱいだった。


 それでも心愛は強気でいられた。


 普通なら、加藤君と等々力を相手にしてしまったら分が悪くなるところだが、読者モデルという肩書きはそれすらも上回る力だった。


 だから、最初はあまり気乗りのしなかった読者モデルの仕事にも、最近はプライドを持つようになっていた。


 これだけは……いや、これだけが心愛の支え。


 手を抜いて台無しにしてはいけない。


 そして、今週末の日曜日、久しぶりにその仕事がある。




 場所はサンシャイン。


 文化会館の四階、展示ホールBで撮影会が行われる。


 小規模のファッションショーみたいなこともするみたいで、撮影専用のスタジオではなかった。


 いつもは寝坊してばかりで心愛が学校へ行くときもまだベッドの中に入っている母も、仕事の日だけは早起きだった。


 一時間もかけて入念に化粧をしている。


 そういう心愛も同じように化粧に時間をかけていた。


 学校へ行くときは時間がないから十五分くらいで終わらせているけど、今日は大事な仕事の日なので倍は時間をかけた。


 先生は小学生から化粧はしない方が良いって注意するけど、言うことを聞くわけにはいかなかった。


 化粧をしなかったらとても人前に出られる顔ではない。


 自分のことだからよくわかっている。


 地味でこれといって特徴のない顔。


 素顔だったら、誰も心愛が読者モデルだと信じてはもらえないだろう。


 でも、だからこそある意味では化粧映えのする顔でもあった。


 可愛らしさはヒエラルキーと関係ない。


 ただ、読者モデルとしてヒエラルキーのトップに立つには、説得力としての可愛らしさは必要だった。




 撮影会の会場に着くなり、心愛はスタッフから衣装を渡された。


 赤いロングTシャツに、サスペンダーのついた黒のフレアスカート。黒のニーハイ。


 心愛はそれに着替えると、すぐにそれに合った化粧へ手直しをした。他の子たちはメイクさんや親に頼っているけど、心愛は全て自分でできた。


 下地は出来上がっているからそんなに時間はかからない。


 何より、心愛の唯一と言っていい特技は化粧の質と速さだった。


 準備が終わり、会場へと向かう。


 母は、心愛が読者モデルをしている雑誌のスタッフと一緒にどこかへ行ってしまった。


 いつものことなので、いちいち母のことを気にしても仕方がない。


 心愛には心愛の仕事があった。


 どういう意味があってこんな小さなファッションショーをあまり華やかとは言えないこういう場所でやるのかわからないけど、とにかく読者モデルの仕事だからいつものようにこなす。


 その後はプロのカメラマンによる撮影会だった。




「可愛いね~心愛ちゃん。いいよ。その表情」




 一枚シャッターを切るごとに表情を変え、ポーズを変える。


 さすがに撮影はもう慣れたもので、自分を可愛らしく見せるコツは掴んでいた。


 一通り撮影が終わる頃には母も会場に来ていた。


 だけど、あまり心愛のことを見てはいなかった。


 心愛を読者モデルにしたのは母なのに、興味がないのだ。


 わかっている。


 あの人は読者モデルをしている娘、と言う肩書きが欲しいだけ。


 でもそのことについて怒るつもりはなかった。


 だって、心愛も似たようなものだったから。


 私服に着替えて、会場を後にする。


 連絡通路を抜けると、妙な熱気に包まれていた。


 アニメか何かのキャラクターのようなものが描かれた紙袋のようなものを持ったいわゆるオタクのような人たちで溢れかえっている。




「あ、お母さん!」




 そう叫んだのが遅かったのか、人波に巻き込まれて母とはぐれてしまった。


 探すにしてもこれだけの人がいてはそう簡単に見つかりそうもない。


 心愛が落ち着いていられたのは、隣の会場にはまだ心愛たち読者モデルを撮影したスタッフがいるから何とかなると思っていたからだった。


 人波に流されるまま、それでもなるべく空いている方へと向かうと、そこには本物のプリキュアが――。


 って、そんなはずはない。


 もちろんそれはコスプレをしている人だった。


 小山内にはああいったものの、心愛も小さい頃はプリキュアを見ていた。


 だから少しだけワクワクしてしまう。


 そこはどうやらコスプレをしている人とそれを撮影する人たちが集まっている場所だった。


 素人の、しかもキモイオタクにカメラを向けられるなんて、ついさっきまでプロのカメラマンに撮影されていた心愛からしたらとても理解できる世界ではなかった。


 ……でも、何だろう……。


 この妙な違和感。


 コスプレしてる人もそれを撮影しているオタクも、皆楽しそうだった。


 撮影用に笑顔を作っている心愛だからこそ、そこにいる人たちが心から楽しそうにしているのがわかった。


 見下していたはずなのに、なぜだか自分が見下されているような気分になる。


 逃げるようにして出口に向かう。


 しかし、その出口を塞ぐように多くのオタクがコスプレしている人を囲んで撮影していた。


 心愛はかき分けるようにして進むと、その輪の中に飛び込んでしまった。




「あれ? 源内(げんない)さん」




 聞き覚えのある声に、心愛の体は固まった。




「どうしたの? さーやちゃん。お友達?」


「違うわ! ただ、クラスが一緒なだけよ」




 反射的にそう言い返して顔を上げると、プリキュアのコスプレをした小山内と同じようにプリキュアのコスプレをした美女がいた。


 切れ長の瞳、長いまつげ。あごのラインは奇跡のように整っていて、白く透き通るような肌が顔のパーツ一つ一つの美しさを際だたせていた。


 化粧が上手いからこそ心愛にはわかった。


 この美女はほとんど化粧をしていない。


 すっぴんでも十分人前に出られる顔を持っているのだ。


 ……小山内と同じように。




「ところで、源内さんは何してるの? あんなこと言ってたのに、もしかして興味があったりするの?」




 無邪気な笑顔を向ける小山内に、心愛は正気を取り戻した。




「そんなわけないでしょ。私は隣の会場で読者モデルの仕事をしていたのよ」


「だったら、どうしてここへ?」


「帰ろうとしたらこのキモイ連中に巻き込まれたのよ!」




 見るからに不細工でファッションなんか欠片も気を遣っていない、いかにもなオタクたちを前に虫酸が走っていたので、心愛は思ったままを口にした。


 少し騒ついているけど、オタクと読者モデルでは学校だけじゃなくて社会でもヒエラルキーが違うはずだから構わなかった。


 どうせ気の弱そうな連中がいくら集まったって読者モデルの威光には敵わないはず。


 しかし――。




「……キモイのはお前の方だろ……」


「そうだ……小学生のくせに化粧を塗りたくったような顔しやがって……」


「失せろブス」




 口々にそういって非難の目を心愛へ向けてきた。




「な、何なのよ……」


「待って、みんな」




 心愛に詰め寄ろうとするオタクたちを制して、小山内が心愛に向き合った。




「源内さん。ここは好きなことを共有する場なの。あなたがオタクを嫌うのは別に構わないけど、ここでは場違いだわ」


「うるさいわね! わかってるわよ!」




 小山内に助けられたことに感謝する気はない。


 むしろ、こんな奴に助けられたことで、プライドが傷つけられていた。


 それを隠すかのようにわざと怒鳴りつけて出口へ向かう。




「それじゃ、撮影を再開しようか」


「ちょっと待って、ここだと出口塞いじゃうみたいだから、場所変えようよ」




 やっと出口に辿り着いた心愛が振り返ると、オタクの一団を引き連れて小山内たちが多くの方へと向かうのが見えた。


 すると、急に心愛の手が引っ張られた。




「ったく、迷子になってるんじゃねーよ」




 心愛よりもさらに機嫌の悪そうな母が心愛の手を掴んでいた。




 せっかく読者モデルの仕事があった日だというのに、気分は最悪だった。


 家に帰るなり机に鞄を叩きつけ、ふてくされるようにベッドへ倒れた。


 ……胸の中がムカムカする。


 羨ましくなんかない。


 あんな連中に囲まれたって、気持ち悪いだけ。


 それなのに、どうしてこんなにイライラさせられるのだろう。


 ……本当は気付いている。


 認めたくないだけ。


 小山内は自分の魅力だけで多くの人の心を掴んでいる。


 母のコネで読者モデルになり、その肩書きだけで人気者になっている心愛とは違う。


 許せない。


 オタクなんて連中がいるから、あんなやつがもてはやされる。




「オタクなんてみんないなくなっちゃえばいいのよ!」





 ――まったく、その通りだな。





「へ? だ、誰?」




 辺りを見回しても誰もいない。


 それなのに、人の気配のようなものは感じられる。




「俺が誰だろうが、そんなことは関係ないだろう? それよりも重要なのは、オタクが邪魔だってことじゃないのか?」




 奇妙な声なのに親近感を覚えたのは、その声が心愛と同じような考えを持っていたからだろう。




「……あなたもそう思うの?」


「ああ、オタクは存在自体が邪魔でしかない。テレビで見たことあるだろう? オタクはロリコンで犯罪者だ。そんな連中は滅ぼさなければならない」


「でも、そんなことはできるはずないわ……」




 ヒエラルキーでは上のはずの心愛のファッションショーにはほとんど人はいなかった。


 それに対してオタクのイベントにはあれだけ多くの人が参加して、みんな楽しそうにしていた。


 心愛のクラスにだって、公にしているのは小山内だけだけど、本当はもっとたくさんオタクがいるって知っている。


 オタクに対する世間の印象が悪いからひっそりとしているけど、実際にはオタクの数は多い。




「どうやら、ただ流行に流されているだけの馬鹿じゃないようだな。確かにお前の思っている通り、この国のオタクの数は多い」


「そうでしょう。私一人が何をしたところで、オタクを滅ぼすことはできないわ」


「お前一人ではな――」


「それって、どういう意味」


「俺にはオタクを滅ぼすための力がある。俺と同化して、共にオタクを滅ぼさないか?」


「あなた、一体何者なの?」




 ――二次元世界を滅ぼすものさ――

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