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「そういえば、トモコはどうやって大人たちを子供にしたの?」

 元の姿に戻ったさーやは自転車に乗りながらルリカに聞いた。

「……おそらく、『子供に戻って再教育されなさい』というような魔法を使ったのではないでしょうか」

「本当に姿が変わってしまうほど強力な魔法が使えるの?」

「想いが強ければ。ですからワタシはサーヤさんが魔法を受け止めたとき、本当に心配したんですよ」

「大丈夫だって、さーやの漫画やアニメに対する想いは、あの程度のことで失われるほどヤワじゃないんだから」

「そのようですね」


 後日、さーやの学校の図書室には漫画が置かれることになった。

 どうやら、さーやの放った魔法がその場にいた先生たちにも影響を与えてしまったみたい。

 ま、クラスメイトたちも喜んでるから、よかったんじゃないかな……。


 それから、加藤君のお母さんのことなんだけど……。

「ねえ、小山内さん」

「あ……お、おはよう。加藤君」

 授業参観の振替休日の翌日、登校するなり加藤君に話しかけられた。

 お父さんはロリータサーヤのことをさーやと見抜いていたけど、普通はありえないことらしいし、加藤君は気絶していたから覚えてはいないはず。

 それでも、少しだけ警戒してしまう。

 加藤君のお母さんは悪の妖精に乗っ取られてしまったし、何か影響があったのだろうか。


「小山内さんのお父さんて、漫画家って聞いたけど」

「あ、うん。でもそんなに有名じゃないし、知らないと思うよ」

 と言うより、小学四年生の男の子がお父さんの漫画を読んでいたら、それはさすがに問題だ。

 ジャンプとはわけが違う。

 その場合は、トモコじゃなくても取り上げるべきだと思う。

「ああ、ごめん。そういうつもりで聞いたんじゃないんだ」

 少しバツが悪そうに言って、加藤君が「実は……」と話を続けた。

「漫画家なら、面白い漫画をたくさん知っているかと思って」

「それは、お父さんなら詳しいと思うけど……別に漫画家かどうかは関係ないと思うよ」

「そうかな?」

「そんなことより、どうして漫画のことを知りたいの? 加藤君のお母さんて、ジャンプでさえ読むことに反対してたんじゃ……」

「そうだったんだけど、どうして小山内さんがそのことを知ってるの?」

 さすがに優等生は細かいところにも気がつく。

 何気なくさーやがポロッと漏らした言葉は、悪の妖精に乗っ取られた加藤君のお母さんとの戦いの時に得た情報だった。


「ええと……それはその……。ほら、加藤君のお母さんて教育ママだし、何となくそういうイメージ? みたいな」

 何か言うたびに墓穴を掘っているような気がする。

 加藤君のお母さんの悪口を言うつもりはないのに。

「……やっぱりね。何となくわかってはいたよ。この前の懇談会でも、何か小山内さんのお父さんと口論になったみたいだし」

 気を悪くするかと思ったら、加藤君は一人で納得していた。

 しかし、さーやの疑問はまったく解消されていなかった。

「ねえ、さーやの質問にも答えて欲しいんだけど」

「ああ、ごめん。もったいぶるつもりはなかったんだ。ただ、なんて言うか……僕もまだ混乱しているのかも知れない」


 話がまったく見えてこない。

 混乱するのはこっちの方だと言いたかったが、話の腰を折りたくなかったので黙って加藤君の言葉を待った。

「懇談会の時までは、確かに漫画が嫌いだったはずなんだ。それが、あの授業参観の日、学校から帰ってきたお母さんが漫画好きになってたんだ」

 考えてみれば、直接魔法を受けなかった周りの先生たちでさえ、影響があったのだ。

 サーヤの魔法を直接受け止めたトモコ――加藤君のお母さんに影響があって当然だったのだ。

「そ、そう」

「でもね、変なんだ。お母さんは昔から漫画が好きだったって言うんだ。ただ、おじいちゃん……お母さんのお父さんが漫画が嫌いで、怒られてから読まなくなっちゃったんだって」

「それって……」

 トモコが加藤君にお仕置きしていた姿が思い出される。

「変わる前のお母さんも同じだった。隠れて買った漫画を見つけられて怒られたんだ。僕ももしかしたら、お母さんみたいに漫画を嫌いになっていたのかも知れない」

 加藤君のお母さんはその負の感情が悪の妖精につけ込まれたのだとしたら、救えたのかな。


 結局、ルリカの言っていた通り。

 二次元世界はそれ自体に悪も善もない。

 ただ、それを見る人の感情によって、変わってしまうんだ。

 朝のチャイムが鳴る。

 まるでそのチャイムに合わせるように加藤君が聞いてきた。

「ところで、魔法オタク少女って知ってる?」

 ドキンと胸が高鳴る。

「な、何それ?」

 自分でもわかる程白々しく言葉を返すのが精一杯だった。

「いや、授業参観の日の午後のことなんだけど……そんな夢を見たような気がするんだ」

「へぇ~。それは……面白そうなタイトルだけど、さーやは聞いたことがないかな」

「そっか」

 加藤君が残念そうに言うと、ちょうど先生が教室に入ってきた。

 もちろんそこで話は終わり、加藤君は「今度詳しく漫画のこと教えてね」と言って席に戻った。

 さーやは加藤君がこの前のことについて詳しくは覚えていないようだったのでホッとした。

 一応、正体もばれていない様子だったし。

 ……て、あれ?

 さーやの正体ってばれたらいけないのだろうか?

 お約束的にはそうなんだろうけど、ルリカが言うにはそもそも普通は別人として認識されるみたいだし、気にすることはなかったのかな。


 ――とにかく、悪の妖精は動き出した。

 ちょっと不謹慎かも知れないけど、魔法オタク少女ロリータサーヤとして活躍できることに期待しか抱いていなかった。

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