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「なんか、思ってたのと違う」

「は? 何がです?」


 夏休みが終わり、二学期が始まってから早二週間。

 さーやはまだ一度も魔法オタク少女ロリータサーヤとして活動していなかった。


「悪の妖精は? いったいどこにいるの?」

「それがわかるなら、苦労はしませんよ」


 さーやは納得できない表情のまま、ランドセルを用意した。

 机に貼ってある今日の時間割を見る。

 算数……国語……音楽……生活……体育……。

 教科書とノート、それとペンケースを入れる。


「さーや、そろそろ学校に行く時間じゃないか?」

 お父さんが心配してさーやの部屋に入ってきた。

「お父さん、レディーの部屋に入るときはノックしなきゃだよ」

「んー、だったらそれなりの反応をしてくれねーと。恥じらうとか、怒るとか」

「それってどのみちお父さんには効果ないよね。恥じらえば萌えそうだし、怒ってもツンデレ萌えしそうだし」

「そうか、確かに」

 朗らかにお父さんは笑っていた。


「あの、それ以上お話していると、本当に遅刻してしまいますよ」

「おおう、さすが常識人のルリカ。ナイスツッコミ」

「人ではないですが……」

 ルリカとお父さんが漫才をやっている横で、さーやはランドセルを背負い体操着の入った袋を持った。

「ルリカ。行くよ」


 さーやが変身するためにはルリカがいないといけないので、ルリカとはほとんどいつも一緒にいなければならなかった。

 とはいえもちろんこのまま学校へ連れて行くわけではない。

 傍目にはただのドールにしか見えないルリカを学校へ連れて行ったら、確実に先生に取り上げられてしまう。

 ま、そうなっても動けるルリカにとってはあまり意味のないことだけど、つまらないことでさーやまで怒られたくはない。


「はい。それでは、ワタシはこちらから後を追いかけますので」


 ルリカはそう言って、一軒家の二階にある、さーやの部屋の窓を開けて空へ向かって飛んだ。

 妖精の力で、空を飛ぶことくらいはできるらしい。

 もっとも、それは小山内家に居候するようになってから取り戻した力らしいけど。

 ルリカが言うには、この三次元世界に来た当初は命が消えるかも知れないほど力を失っていたみたい。

 それが、なぜかさーやの家に来てからは、段々力を取り戻してるんだって。

 きっとさーやとお父さんが二次元世界を本気で好きだからじゃないかなと思ってる。


「お父さん、行ってきまーす」

「おう」

 

さーやはルリカの出ていった窓を閉めて、自分も家から飛び出すようにして出た。

 そして、登校班の集合場所になっている、公園の入り口に向かった。

 そこには六年生の班長さんと、さーやの親友が先に待っていた。


「おはようございます」

「おはよ」

 班長さんは“ハヤテのごとく!”のコミックスを片手に、ぶっきらぼうに返事をした。


 今日は、放課後にクラブ活動がある日なので、クラブに関係あるものだったら学校に持っていってもいい日だった。

 つまり、班長さんは漫画クラブに所属しているってことなんだけど。

 クラブを決めるときに漫画クラブに入ろうかなとお父さんに相談したら、純粋に漫画を楽しみたいならやめておいた方がいいと言われたので、今年は裁縫クラブに入っている。コスプレ衣装を作るときに役に立てばいいかなと思って。


「おはよう、翔華(しょうか)ちゃん」

「お、おはよう……」

 消え入りそうな声で、親友……ってゆーか、唯一といっていいほどの友達である秋葉(あきは)翔華ちゃんがあいさつした。

 トレードマークの三つ編みが揺れる。

 お父さん曰く、こんな純情そうな女の子は天然記念物だって。

 ――ちなみに、翔華ちゃんは漫画クラブに入っている。

 さーやと同じ……ううん、ある意味ではさーや以上に漫画やアニメが好きだから。


「ねぇ、紗亜弥ちゃん。『執事学園』ってゲーム知ってる?」

「ああ、うん。お父さんに買ってもらった」

「お姉ちゃんがそれに出てくる主人公と執事のカップリング漫画描いてるんだけど……」


 翔華ちゃんのお姉ちゃんは中学一年生で、いわゆる腐女子。

 翔華ちゃんもその影響を受けているけど、両親はさーやのお父さんと違って普通の人だし、翔華ちゃんが買える漫画やアニメのグッズやゲームはそんなに多くはない。

 話題になってる作品や新しい作品に触れる機会はさーやより少ない。

 腐女子としてはさーやの環境の方が羨ましいのかも知れないけど、翔華ちゃんはまだ後戻りができるところにいると思う。

 だから、さーややお父さんのように深入りさせてもいいのかな、とも思うけど、見たいと思ってるなら見せてあげたくなるんだよね。


「よかったら見に来る? でも、それってパソコンのゲームだし、全部見ようと思ったら結構時間かかると思うよ」

「……紗亜弥ちゃんが迷惑でなければ、見せて欲しいな」

「翔華ちゃんだったら、毎日泊まりに来ても迷惑じゃないよ」

「あ、ありがとう」

「ほら、そこの四年生。みんな集まったからそろそろ行くよ」

「あ、はーい」

 すでにさっき読んでいたコミックスをランドセルにしまった班長さんが、学校に向かって歩き出しながら呼びかけた。

 さーやは翔華ちゃんと手を繫いで、班長さんの後を追った。


 五時間目の体育が終わった後、さーやは翔華ちゃんと一緒にそそくさと教室に戻った。

 早く帰れば三時には遊べる。

 だけど、今日はいつもの帰りの会と違って、すぐには終わらなかった。

 明日の授業で必要な物と宿題が改めて連絡されて、それで終わるはずだったのに先生が一枚のプリントを配った。

 そのプリントには【授業参観のお知らせ】と書かれていた。

 プリントがあれば改めて話をしなくてもわかるのに、先生はプリントに書かれていることをそのまま読んだ。

 内容は来週の日曜日に授業参加が行われる。ということ。

 聞きながらそんなことはプリントを見ればわかるよ、と心の中で思っていたけど、口には出さなかった。

 ……興味がなかった理由はそれだけじゃないけど。

 授業参観は、さーやには関係のない行事だった。

 あまり売れてはいないけど、お父さんは一応漫画家で締め切り前は平日も日曜も関係なく仕事してる。

 さーやが手伝ってあげられたらよかったんだけど、さーやの絵じゃ邪魔にしかならない。

 一応お父さんにこのプリントは見せる。

 でも、きっとお父さんは参加できない。

 さーやはそれでいいと思ってる。

 お父さんは一人でさーやの面倒を見てくれてるから。

 お父さんの仕事がなくなったら、さーやも困る。

 だから、さーやより仕事の方を優先してくれた方がうれしいんだ。

 ……お母さんは、想像もできない。

 さーやが知ってるのは、さーやが赤ちゃんの時にお父さんと三人で写ってる写真だけ。

 お母さんのことは、さーやは何も覚えていなかった。

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