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 ルリカが言った言葉を思わず繰り返してしまう。

 それくらい衝撃的な発言だった。

「ま……魔法少女?」


 瞳からキラキラしたものが溢れそうなくらいキラキラする。


 ――うれしい、とか。喜ばしい、とか。楽しい、とか。


 知ってる言葉では表しきれないほど、心がワクワクした。

 そんなさーやの表情とは真逆、深刻さの増した表情でルリカは返事をした。


「は、はい」

「それって、なのはとかどれみみたいに変身するってこと?」

「ええ、まあ……」

「それって最高じゃない!」

 言いながらさーやはルリカの両手を持ってくるくると回った。

 あまりに感動的なことを言ってくれるものだから、はしゃがずにはいられなかった。


「ちょ……あの……さーやさん! これは非常に大事なお話なんです!」

 ヒステリックにルリカが叫んでも、さーやは勢いが付きすぎてさらに数回その場で回っていた。

 さーやとの一方的なダンスが終わると、ルリカは今までとはまた違う心配そうな表情をさせていた。


「いいですか? 悪の妖精は人間と同化……二次元に悪意を持っている人間に取り憑くことによってこの世界で使える強い力を得るのです。それに対抗するには、さーやさんとワタシが心を一つにさせて、同じように強い力を得なければなりません」

「うん、うん」

 激しく首を縦に振って、真面目に聞いていることをアピールするさーや。

 ルリカはさらに心配そうな顔をさせて、ため息をついてからもう一度同じことを言った。


「……その、この世界で使える強い力というのが――いわゆる“魔法”なのです」

「魔法キターーーーーーーーーーーーーー!!」

 町内にまで響きそうな声でさーやは叫んだ。

「す、すみません。やっぱり他の適任者を探します」

「どうして?」

 さーやはうろたえるわけでもなく、挑戦的な瞳をルリカに向けた。


「さーやさんには素質と勇気はありますが、センスにかなりの問題があります」

「ふーん。でもさあ……、ルリカに他の人を探してる時間はあるの?」

「――う……」

「まず妖精のことを信じてくれる人がいるのかなぁ? 普通の大人は信じてくれないよ、きっと。もし万が一信じてくれる人がいたとしても、ドールがいきなり話しかけたら普通の人は逃げちゃうんじゃないかなぁ。それでも話を聞いてくれる人がいたとして、一緒に戦って欲しいって言って、いいよって答えてくれる人がいるかなぁ」

「…………」


 さーやの言葉に、ルリカは反論しなかった。

「さーや以上に二次元の世界を好きな人はいないよ。いない人を探してる間に、悪の妖精がこの世界の人間を支配しちゃうんじゃない?」

 それだけは、絶対に自信があった。

 だからどんなに嫌な言い方をしても、ルリカはさーやから離れるわけないと思った。

 ルリカだって、本当にさーや以外の人に協力を頼むつもりなんてないと思う。

 まだ会って間もないけど、それくらいはわかる。

 ルリカはもうさーやの友達だから。


「……それを言われると弱いです。確かに、さーやさん以上の人材は世界中を探しても簡単には見つけられないでしょう。それに、時間をかけている場合でもありません」

「うんうん、そうでしょ?」

 さーやはしたり顔で腕を組み、頷いた。

「さーやさん、もう一度だけ忠告しますが、これは遊びではないのです。ですから、もし危ないと思ったら逃げてください。ワタシは、あなたを犠牲にしたくはありませんから」

「もう、しつこいよ、ルリカ」

 心配してくれているその気持ちはありがたいけど、いい加減聞き飽きた。

 それよりももっと聞きたいことがあるのに。

「わ、わかりました。それでは、さっそく力の使い方を教えます」

「待ってました! で、さーやはどうすればいいの?」

「……本当に大丈夫なのかな……」

「ル~リ~カ、これ以上はさーやも待てないよ」

「は、はい。ではまず、ワタシと同じように二次元世界を守りたいと強く思ってください」

「それって要は、漫画やアニメが大好きだと思えばいいの?」

「そ、そうですね。きっと似たようなことだと思います」



 ――二次元世界、だーい好き!!


 さーやが心の中で叫んだその時、ルリカの瞳とさーやの瞳が交差した。


 ――キラキラリーン。


 二人の瞳の輝きが光と音を放って重なり合う。

 すると、そこにフリルで装飾された真っ白なパラソルが現れた。

 さーやは思わずそれを摑む。


「さーやさん、そのパラソルを開いて頭に浮かんだ呪文を唱えるのです!」


 パラソルを持つ手が勝手に動く。

 まるでそのパラソルが意思を持った生き物のように。

 それでも、さーやはルリカが叫んだことをやるために、まずパラソルを開いた。

 開かれたパラソルがさーやの全身を正面から隠すように手が勝手に動く。

 それと同時に、一つの言葉が頭の中を支配した。


「{モエモエ(・・・・)スウィート(・・・・・)ロリロリター(・・・・・・)}」


 普段出したことのないような甲高い声に、自分でも驚く。

 パラソルはさーやの言葉に反応し、クルクル回る。

 パラソルが軌跡を描いた部分に光が舞い降りて――。


 ――頭には白いヘッドドレス。


 ――肩には白いケープ。


 ――全身は真っ白なフリフリのドレス。


 ――袖口は姫袖に真っ赤なリボン。


 ――胸にも大きなピンクのリボン。


 ――スカートの中はパニエにドロワーズ。


 ――足を包み込むのはエナメル製の真っ白なシューズ。



 ――まるでショートケーキのお姫様のよう――。


 甘ロリファッションに包まれたさーやは、パラソルを肩にかけてポーズを取った。


「す、すごい……。さすがです、さーやさん。いきなり成功ですよ」

「……これが魔法少女?」

 自分のことを見ながら、そうつぶやいた。

「そうです! 強い力を感じます! これなら、どんな悪の妖精が相手でも、きっと負けません!」

 さっきまでの心配はどこへ行ったのか、ルリカはさーや以上に喜んでいた。


「ちなみに、名前とかあるの?」

「いえ、それは……さーやさんが考えればいいと思いますよ」

「そっか、ルリカにも名前はなかったもんね……」

 さーやはもう一度窓に映る自分の全身を見て、パラソルを肩にかけて変身した時のポーズを取った。


「二次元世界の守護天使――魔法オタク少女ロリータサーヤ!! あなたの萌え心、守ります!!」


 ルリカはまるでどこかのお笑い芸人のように、きれいにずっこけていた。

「な、何なんですかそのふざけた名前は!?」

「――え? 大まじめに考えたんだけど、何か?」

 事も無げに言ったサーヤに、ルリカは心底後悔したような顔をしていた。


 サーヤはパラソルを開いたまま、部屋の真ん中でモデルよろしくターンをした。

 ふわりとスカートが舞う。

 どこからどう見ても甘ロリ系のファッションにしか見えない。

 でもまあ、漫画やアニメに登場する魔法少女の衣装だって似たようなものだっけ。

 それに――。

「……うん、気に入ったよ。この衣装」

「……それはよかったですね。でも、それは衣装ではなくて、サーヤさんが魔法を使うための正式なマジカルドレスですから」

「ふーん」

「サーヤさんを悪の妖精の魔法から守る大切なものなんですよ」

「そんなたいそうなものに見えないけどなぁ。サーヤが作ってるコスプレ衣装とたいして変わらないような……」

 さーやは言いながら袖口を引っ張ったり、胸元のリボンを引っ張ったりしてみた。


「サ、サーヤさん! な、なんてことをするんですか!?」

「大丈夫だって、魔法の服ならこんなことで破けたりはしないよ」

「そういう問題ではありません!」

「あ、そーだ。せっかくだからお父さんに写真撮ってもらお」

「……――はい?」

 やや間があってからルリカは声を裏返した。

「お父さーん!」

「ちょ、ちょっとサーヤさ――」

 もはやサーヤにはルリカの声は聞こえていなかった。


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