「ダルコミートの小窟①」
正式サービス開始から、5時間近く経過しようとしていた。
ファーストクエストにおいて最重要になるダンジョン、ダルコミートの小窟。
チラホラではあるが、プレイヤーパーティーの出入りも見られている。
小窟の入り口付近。
その中でもひときわ大所帯のパーティーが集まり、待機していた。
先刻、始まりの村落において
エレパーティーでのダンジョン攻略を宣言していた緑髪の男も、その輪の中心にいる。
「ひー、ふー、みー、よー、…
全部で3パーティー、9人か…。
ひとまず即席の呼びかけにしては集まった方かねえ、
できればもう1パーティー位いてくれたら有難かったんだけどもなあ~」
「何を言うか!他でもない、この私がいるのだぞ!!」
魔法使いらしき男が、憤慨した様子で声をかける。
栗色のオールバックの毛先がカールした、球根の様な髪型、血の気のない色白の肌、
男の風貌は異彩を放っている。
「あ、えーと…そうだったな、頼りにしてるぜ…えー…と、誰だっけ?」
「ぬううう!この我に二度名を尋ねるか!無礼千万!!
…まあいい。よく覚えておくといい、
我の名はキジョウ!後にグランドクエストをクリアし、覇者となる男よ!!
ぬほほほほほ!!」
「キジョウ様万歳!!」
「キジョウ様万歳!!」
「ハハハ…」
緑髪の男は、明らかに感情の入っていない愛想笑いを浮かべると、
すばやく仲間の中へ行き、声を殺し密談する。
「おいっ!
何だあの気味悪い魔法使い三人PTは!?
いくら人手不足だからっつって、一体誰が呼んできた!」
「誰も呼んでないっすよ!いつの間にか勝手についてきてたんすよ!
でも、仕方ないんじゃないすか…
あれを外したら2パーティーになちゃいますよ…」
「ぐぬ…………
ま、まあ、それもそうだな…いないよりはましか…」
緑髪の男は人の輪の中央へ立ち、改めて話を始める。
「えー、ゴホン!とりあえずみんな、集まってくれてありがとう、
申し遅れたが俺の名はジェイ。冒険者見習いだ。
短い間かもしれんがよろしく頼むぜ!
そうだな…、とりあえずはじめに、簡単にメンバーをまとめるか。
俺のツレは仲間内から5人。前衛3人、魔法使い1人、ヒーラー1人。
ひとまず、その中からオレを除いた4人で1パーティー目だ。
「よろしくーっす」
「それと…PT募集から来てくれた魔法使いが一人、あ、名前いいか?」
「……です…」
「んんん?よく聞こえないな。もう一度いいか?」
「……です…」
前髪ですっぽりと目を覆い隠している、黒髪おかっぱ頭の少年プレイヤー。
ぼそぼそと話すが、何を言っているのかは全く聞き取れない。
ジェイはステータスのプレイヤーネームに視線をやる。
「えー、……ソイル君だそうだ。よろしく。
そしてもう一人、こちらもPT募集から来てくれた、」
「サクラです。ヒーラー見習いです。
まだ全然弱いですけど、頑張ります!」
朱色セミロングヘアーの、明るく快活そうな少女だ。
両手でガッツポーズをしてみせる。
「うう…
灼熱の砂漠でオアシスに出会ったような感動で、おじさん涙が…」
「…???」
「ソイル君とサクラちゃんは、俺とパーティーを組んでもらう。
これで2パーティー目が完成だな」
ジェイが手際よくパーティー編成をまとめる。
「そしてオオトリ、
この我こそがキジョウだ!諸君らよりすでにワンランク上の魔法使いよ!
大いに、頼りにするがよい!!」
「ああ、熱砂が再び…」
「何か申したか?」
「いえ、何も」
「はじめに諸君らに言っておくが、全指揮はこのキジョウが取る。
我の指示に違わぬよう、各々気を付けるがよ…
「おーい、よかった、間に合ったみたいだな」
ジェイの大所帯に、一組のパーティーが近づいてきた。
「お!君は、村落にいた少年じゃないか!」
「どうも。まだメンバー入れるかな?」
ケイズがジェイに話しかける。
「ああ!大歓迎さ!
ちょうどあと1パーティ欲しかったところでな。正直助かる」
「あ、俺ケイズです。呼び捨てで構わない。で、こいつが」
「ザリアだ」
「ん??その名、どこかで聞き覚えが…
…ま、いいか!よろしくな。俺はジェイ。こっちも気兼ねはいらないぜ!
お?そっちもパーティー増えてるじゃないか」
「まあ、あの後色々あって…。
そっちのヒーラーがフェルローデ、で…
「俺ァガルヴァだ!よろしくな!
エギドラルだかキングギドラだかなんだか知らねえが、
まあ、俺がちょちょいと片づけてやんよ!」
ガルヴァは宙へ向け、連撃を威勢よく放ってみせる。
「…ひとまずこの四人だ。よろしく」
「ああ、こちらこそ!」
ケイズとジェイが握手を交わす。
ジェイはケイズの耳もとで小さく話した。
「お、おい…。あのヒーラー…すげぇべっぴんだが、
気のせいか、ずっとえらい形相でお前の事睨んでねえか?」
「ハハ…いや、ああいう顔なんだ、…たぶん」
◆
時は少しさかのぼる。
始まりの村落からダルコミートの小窟へと向かう林道の中。
<< Winner!! Name:ケイズ Lv8 >>
ギャラリーは一瞬の出来事に、ざわめいていた。
「なんだ?今、何が起きた!?」
「わ、わからん…しかしとりあえず勝負はついたらしい」
「ヒーラーの方の武器が飛ばされたみたいだな」
「終始女が押してたんだが…、スタミナ切れか…?」
「でも大健闘だろ。ヒーラーだぜ?」
「いやー、面白いもん見させてもらったわ。乙!」
周囲からは、誰ともなく拍手が巻き起こった。
「何だ?最後の一瞬、速さがハンパなかったぞ!?
一体何をやりやがった?」
ガルヴァは、まるで理解できないという様子だ。
「…体の使い方を知ったという事だ」
ザリアが応える。
「そりゃあどういう事だよ…??
イメージモーション中は、体に無理な力を入れないって事だろ?
それなら俺も知ってるが…」
「その上のレベルの話だ」
「上のレベル??……って、おい!」
ザリアはガルヴァを気にせず歩き出す。
「ふうー…あぶねえあぶねえ…間一髪」
ケイズは剣を鞘へ入れ、一息ついた。
そこへザリアが近づく。
「不死が笑わせる。気は済んだか?さっさと行くぞ」
「お前も気が付いたか?」
「俺を見くびるな。もとよりそれに近い予感はあったが」
「へいへい。じゃあ行くか」
歩き出そうとしたケイズだったが、
ひとつのシステムウインドウが目の前に現れ、立ち止まった。
「ん?なんだ?」
<< フェルローデ Lv6 ヒーラー見習い が
パーティー加入申請をしています。承認しますか? >>
「パーティー申請?」
険しい表情のフェルローデが近づいてくる。
「……私の負けだ…」
「良い勝負だった。…だけど勝ったとは思わない。
君がヒーラーでなかったら、俺が負けていた。
それと、君には礼を言わないとな。
おかげで体の動かし方がわかったよ、まだなんとなくだけど」
ケイズは握手の手を差し出すが、フェルローデは応じない。
ケイズは渋々、手を引っ込める。
「…」
「最初にも言ったけど、
決闘で無理やりパーティー入りさせようなんていう気は全然ないんだ。
安心していい」
「…、それではこちらの気が済まん…………
……受けた借りは返す」
「いや、借り……なのかこれ??
うーん、………どうしたもんか」
「なぁに、せっかく入ってくれるって言ってるんだぜ?
素直に受け入れるのが男ってもんだろ。俺は加入に賛成だぜ!」
ガルヴァがケイズと肩を組み陽気に話し出す。
「…」
「…」
「あ、知ってると思うが俺ァガルヴァだ!
以後よろしくな!ケイズ!ザリア!フェルローデ!」
「…」
「…」
◆
「おいそこ!我の話を遮って何を申しておるのだ!」
場面は小窟の入り口に戻る。
ケイズたちに向け、キジョウが激しい剣幕でまくし立てていた。
「この人は?」
ケイズがジェイに話しかける。
「あ、ああ…、キジョウだ。
今回同行してもらうパーティーのメンバーだよ」
「キジョウ”さん”であろう!第一、集合時刻に遅れてくるとは無礼千万!
その様な者らに我と同行する資格はないわ!」
「ああ?何様だテメェ?
まだダンジョンに入ってねーんだから間に合ってんだろが!」
ガルヴァが突っかかる。
「ぬううう!なんだこの赤髪は!無礼千万!無礼千万!」
「うるせえよこの球根ヘッド!!」
「ぬ、ぬううう!出会え、出会え~い!」
「ま、まあ…キジョウさんも落ち着いてくれ、
今は少しでも戦力が惜しい状況だ。ここは団結していこうじゃねえか」
ジェイが取り繕う。
ケイズにも小声で話しかける。
「ケイズも、もし気に障ったらすまない。
俺もさっき知り合ったばかりなんだが…、こういうプレイヤーもたまにいるんだよ…」
「いや、遅れてきたのは確かだ。こっちは気にしてない。
しかしジェイ…あんたも気苦労があるようだな…」
「まあなに、リアルで慣れっこよ
会社の上司に比べりゃこんなのは可愛いモンだ」
「そ、そうか…」
こうして、ひと悶着ありながらも、
一行はダンジョンに足を踏み入れるのであった。
イロモノ登場!!!