「ファースト・クエスト」
正式サービス開始からすでに三時間が経過。
依然、始まりの場所となる小さな村落の中はプレイヤーでごった返している。
ケイズとザリアは周辺での狩りを終え、拠点となる村落へと戻ってきた。
村落の人の多さは三時間前よりも更に度を増していた。
「これ、仕様にしてはおかしくね?」
「いや、俺たちがまだ慣れてないだけだろ」
「私、今後やっていけるか不安になってきた…」
プレイヤーたちは各々話し込んでいる様子だが、
不安を隠せないという雰囲気が、あたりにそれとなく漂っていた。
「なあザリア、なんかみんな困ってるみたいだな?」
「ふむ…、さしずめ、操作感覚が身につかないというところだろう。
今までの名ばかりの体感型とはわけが違うからな。
まあ俺は3分もあれば十分だったが」
「一言多いなお前は…」
「おっ、そこのお二人さん!さっそく装備一式揃えるとは仕事が早いな!」
二人に声をかけてきたのは、二人よりもやや年上のプレイヤー。
髪は緑色で短髪、いかにも気さくという雰囲気だ。
ケイズがそれに応える。
「あ、どうも。この村落じゃあ弱い装備しか揃わないけど、いちおうは…」
「丁度今さー。数パーティー合同で会議やっててさ、
君らも参加してくれると嬉しいんだけど、どうよ?」
「会議?何を会議する事がある?
ファーストクエストの手順はわかっているのだろう?」
ザリアが怪訝な顔を見せる。
「あれ、お二人さん、まだダルコミートの小窟へ行ってない?」
「ああ、まだ行ってない。軽くレベルを上げておこうと思ってね。」
ケイズは剣を構える振りをした。
「そうか、いや確かにそれは堅実な判断だ」
「何かあったのか?」
「丁度今、小窟から帰ってきた奴が話してる。
話だけでも聞いていくといい」
ケイズとザリアは顔を見合わせ、出来ている人だかりに入っていった。
人の輪の中心から話し声が聞こえる。
「…で、どうだったんだ?中は?」
「…。
オートモブですら、フィールド上のモンスターとはレベルが違う…。
ダンジョン自体はそんな長くはない、
何よりも厄介なのはボスモンスター…エギドラルオークとか書いてあったかな…。4人で行ったけど呆気なく全滅だよ…ボスのライフは1/4も減っていなかったと思う…」
「おいおい…マジかよ…」
周囲のプレイヤーは息をのんだ。
「な、なんてこった…やっぱり、今そこらじゅうで噂になってる事は本当だったか…」
「どうするよ…」
人だかりに集まった二十人ほどが、神妙な面持ちで意見を交わしあっている。
「…。おい、お前はどう思う、ケイズ」
「…まさか…………………。
それはありえない……
ベータテスト時はあそこにボスなんていなかったし……
…でも………
嘘を言っているようにも見えなかった…」
「エギドラルオーク。たしかベータテストの終盤で狩った記憶がある。
おそらくあの時の俺のレベルが24。
レベルはもとより、装備も今のそれとは比べ物にならないだろう…」
「いくらボスとは言え、そんなのがファーストクエストに出てくるのか普通?
…いや、そもそもボス自体が存在するのかって話だけど」
「記憶にある限り、前作まで
いや、MMORPG自体の定石からはかなり外れていると言わざるを得ないな。
…それが本当ならば」
「しかもほとんどのプレイヤーが、フルダイブシステム初体験なんだ。
そういう状況下で、そんな過酷なクエってありなのかよ…」
「フム…。まあ俺としては面白い展開だがな」
「ザリア…。お前にはかなわないよ、ホント」
「なあみんな、聞いてくれ!」
今しがた、人だかりに二人を誘導した緑髪のプレイヤーが、
真ん中で声を上げていた。
「ここで、しばらくの間レベル上げをするのもいいだろうが、
おそらくはこの近辺のモンスターの経験値は雀の涙だ。
どうせなら早いとこ、この森からは抜け出すのが賢明だろう。
そこでだ、エレパーティーを組んで、是が非でも小窟を突破しようと思う!
どうだろうか!」
「おお!そうだそうだ!」
「俺も行くぜ!」
「よっしゃー!行こう行こう!」
集団は活気づき、みな声を上げだした。
エレパーティーシステム。
それはフェザードリィマイス前作において実装され、
今作にも引き継がれているシステムの名称。
まず、プレイヤー間でパーティーというものが組まれるが、一度に組める最大プレイヤー数が4人まで。
しかしエレパーティーシステムにおいては、
そのパーティー同士をひとつの集合体として認識する事ができる。
最大エレパーティー所属数は5パーティーまで。
つまり、最大で20人のプレイヤーが同じチームとなっての行動が可能になるシステム。
なお、経験値配分やアイテム配分などは事前に決定され、
その決定はメインパーティーに一任される。
あまりに大人数になってしまい意見統制が難しいのと、戦闘対象の能力も多少変動するため前作でも、ギルドや大規模ボス戦闘以外の場所で使用している例は少なかった。
「エレパーティーシステムを馴染ませるために、
わざと難しい仕様にした、という考え方もできなくはない…か…」
ザリアは少し考え込みながらも口にした。
「なあ、そこの二人、君たちもなかなかの戦力と見込んで頼むが
小窟攻略に参加してくれないか?」
ケイズが口を開く。
「あー、そうだな。少し考えさせてくれ」
「わかった。ぜひよろしく頼むよ。
参加者は一時間半後に小窟の入り口に集合だ」
◆
ケイズとザリアは、村落の隅にある木の根元に腰を掛け相談をしていた。
「まあ待て。お前の言い出すことはわかってる、ザリア」
「…」
「他人と手を組むまでもない!俺一人の力で十分だ!
俺は常人を超越したスーパー戦闘バカだからな!ウハハ!」
「貴様…俺を何だと思ってる…」
「違ったか?」
「大筋では違わん」
「違わんのかよ…」
「俺がレベル上げに専念すれば、エギドラルオークごとき倒すのは容易い。が
時間がかかりすぎる…
あの緑髪の言う事にも一理はあるという事だ…」
「これも運営の思し召しだろ、あんまソロにこだわんなっていう。
……………悪いが、俺は行く」
そう言うと、ケイズは一人立ち上がる。
ザリアは少し間考え込んだ様子だったが、口を開いた。
「…チッ、不本意だが、今は仕方あるまい。俺も行くとしよう」
ザリアもゆっくりと立ち上がった。
「じゃ、久々にPT組むか、”黒龍の剣”ザリアさんよ」
「勝手にしろ、”不死の雷光”」
「………………。
なんか、前作の二つ名で呼ぶと痛々しいな……」
「………………。
お前が言い出したんだろう……」
こうして二人のパーティーは、
ファーストクエストへと乗り出したのだった。
基本的にテンプレート展開で、少し色を出していけたらいいなと思ってます。ご意見ご感想、矛盾点や誤字脱字のツッコミなどもお待ちしてます~。