「フェザードリィマイス・オンライン」
フェザードリィマイス・オンライン――――――――
プレイヤー人口は世界で数万人規模と言われている大手オンラインゲーム。
その人気は凄まじく、某国では社会問題にすらなったこともある。
時折、マスコミなどでは社会問題視されることもあった。
内容は至って王道もの。
剣に魔法、モンスター、城、洞窟、などなど
いわゆるファンタジー世界をそのまま具現化した世界に、プレイヤーは自らの分身を送り込む事となる。
20XX年。12月。
プレイヤーたちは一様に浮き足立ち、その日を待ち望んでいた。
ついにフェザードリィマイスオンラインの新作が発売される。
そのジャンルは、フルダイブ型ネットゲーム VRMMORPG
フルダイブシステム。
医療の用途にその基礎的な技術が確立されてから、
すでにかなりの月日が流れていただろう。
当初、娯楽への流用が幅広く論議、または期待されていた。
しかし。数ヶ月が経過しようとも数年が経過しようとも、
その技術は医療面の、ほんの僅かな人の間のみに使用される技術に留まり
娯楽用、特に誰もが期待したであろう家庭用ネットゲームへの
技術転用がなされる事はなく
そこにはやはり倫理的な事情、または技術面での事情。
やがて人々はその期待の熱量を落としていった、そのさなか
まさかのニュースが世間を驚かせた――――――――
◆
12月も後半に差し掛かり、粉雪がチラホラと舞っている、
人もまばらなモノレールに揺られながら帰路につく少年の名は 新堂 圭。
都立高校に通う、高校二年生だ。
~まもなく甲州街道~
マイクロフォンを指でなぞりながら、動画配信サイトを見ていた。
とはいえ、このマイクロフォン自体もMRD端末が映し出す、3D画像だ。
<呪・フェザド正式サービス開始!>
そんな文字の書かれた鉢巻を付けた、
ふんどし一丁の男が半狂乱で画面を所狭しと駆け回っている。
”嫉妬厨ワロwwwww”
”ごめん、俺これからプレイだから落ちるはwww”
”嘘つけwwwwww”
”ちょwww倍率wwwwwww”
”絶対に許さない。絶対にだ”
”VRMMOとか、イタい厨二アニメかよwwwww”
”デスゲームマダー?”
”いつから帰ってこられると錯覚していた!?”
”ログアウトボタン「ちょっと用事が」”
”倫理解除コードありなら車売ってくるは”
”必死かおっさんwwww”
画面には様々な文字が次々に流れていった。
もはやネット上、どこもこのような状態。
圭は黙って画面を見つめていた。
(祭り状態だな…)
当然が如く、オンラインゲームへの初期参加人数には制限が設けられ、
ベータテストは高倍率の抽選となった。
サービス開始時の初期プレイヤー数は、日本サーバーだけでも数万人。
これも希望者が殺到するであろうことから、事前申し込みの抽選となり、
テント一式を用意していたコアゲーマーたちを
ひどく脱力させていたのも記憶に新しい。
圭はさらに、空間映像の画面を指でなぞる。
【フェザードリィマイス】βテスト参加者スレその13【勝ち組】
566:名も無き当選者 :sage:20XX/12/22(木) 17:02
やっと帰れるんだな…この3か月長かった…
567:名も無き当選者 :sage:20XX/12/22(木) 17:07
待ち遠しいな!俺もこの三か月、自宅警備が全く手が付かなかったぜ。
568:名も無き当選者 :sage:20XX/12/22(木) 17:07
どういうことだよw
576:名も無き当選者 :sage:20XX/12/22(木) 17:30
テスターの中に目立った奴いた?
577:名も無き当選者 :sage:20XX/12/22(木) 17:33
すげー廃見たは。エギドラルオーク相手に無双してた。
Lv25以上ないとあのモンスターはきつい。
578:名も無き当選者 :sage:20XX/12/22(木) 17:33
ワロwwwww廃乙wwwwwww
wwwww
俺Lv8wwwwwwww
581:名も無き当選者 :sage:20XX/12/22(木) 17:45
二人組で二人ともそんくらいのレベルだったな。
あれ?そういや、ベータテストのデータ引き継げんだよな?
583:名も無き当選者 :sage:20XX/12/22(木) 17:50
>>581
いや、確か装備、レベルもろもろリセットだとオモた
584:名も無き当選者 :sage:20XX/12/22(木) 17:52
>>583
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 ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄ ̄ ̄ ̄
599:名も無き当選者 :sage:20XX/12/22(木) 17:59
可愛い子ならみたぞ。金髪で三つ編みのヒーラー。
でもずげぇ不愛想だった
602:名も無き当選者 :sage:20XX/12/22(木) 18:03
>>599
おれもその子見たかもwwwwww
つか、PT誘ったら無視されたwww
619:名も無き当選者 :sage:20XX/12/22(木) 18:14
なんでアバター性別変更できねーんだよ?おかしくね?
620:名も無き当選者 :sage:20XX/12/22(木) 18:14
ネカマ涙目wwww
~立川北~
~閉まるドアにご注意ください~
「あ、やべ」
視線を立体画像から戻してカバンを持ち上げ、圭は急ぎ足でモノレールを降りた。
いまだやまない小雪の中、
ひととおりの買い物を駅ビルの地下で済ませ、家路につく。
駅からすぐ近いタワーマンション、その最上階近くの一室が圭の家だった。
ガチャ
「ただいまー」
部屋はひんやりと暗く静まり返り、返答はなかった。
ふう、と軽いため息をつくと、圭はリビングの電気をつける。
”仕事でしばらく出張になりました。お金置いとくからよろしく。母より”
テーブルの上にはメモ書きと二千円が無造作に置いてある。
買ってきたものを冷蔵庫にしまいながら、ふと時計を見ると時間はすでに18時56分。
「あと4分!」
バタン!
圭は冷蔵庫を勢いよく占めると、自室へと飛び込んだ。
カバンをベッドの上に放り投げ、PCを手早く起動させる。
PCにはあらかじめ、ある機械が接続されている。
辞書程度の大きさの黒い箱に、VR-bppsystemと書かれており
そこについているジャックには、小型の発信機のようなものがつけられていた。
PCデスクの上に置いてあったコードレスイヤホンのような機械を手に取り、
圭はおもむろに自分の耳につけ、ベッドへと向かった。
カバンを枕代わりに、ベットに横になる。
ふと部屋の時計に目をやり、時刻は18:59から、ちょうど19:00に変わったところ見計らうと
圭は目を閉じ、耳元についた小さな機械に指を触れ、つぶやいた。
「リンクスタート――――――――
◆
▼稼働サーバー選択―――――――――――――――――――――――――――
アーデルハイド
▼キャラクターエディット――――――――――――――――――――――――
βテストからのコンバート
▼所属国家選択―――――――――――――――――――――――――――――
ファスリアカイム
◆
圭が再び目を開けると、見える景色は、先程の部屋とは全く異なるものだった。
どんよりと暗く曇り、小雪が舞っていたはずの空は高く青く晴れ上がり、
何よりも冬の寒さはすっかりと影をひそめ、体は春先の様な暖かさに包まれている。
今までの現実の様な無機質なものは何一つなく、
そこはまさしく別世界という名が相応しい。
圭は手の感触を用心深く確かめ、空気を大きく吸い、あたりをまじまじと見まわした。
「やっと帰ってきた……!サウザンドフォール!」
サウザンドフォール、それはフェザードリィマイス・オンラインの土壌となる世界。
剣と魔法、そして魔物が存在する、
主に4つの国家から形成された巨大大陸の名称である。
圭が空中に手をかざすと、空中にウインドウが出現。
そこには、所持アイテムや装備品、現在のステータス等が表示されている。
一番上段には、ケイズ 冒険者見習い LV1 とあった。
「剣士の称号も、晴れて剥奪か…」
周囲は森の中にある小さな村落のようになっており、
ケイズと同じような格好をしたプレイヤーもすでに数多く存在し、各所で様々な会話を交わしている。
とはいえ皆、一様に体感としての操作感覚に手を焼いている様子だ。
集落には商店も少数あるようだが、
少なからずまともな品が売っているようには見えなかった。
「よう、ケイズ。三か月ぶりだな」
ふと聞き慣れた声が聞こえた。
声の方を見ると、そこにはケイズよりも長身のプレイヤーの姿。
ルックスは白髪で長髪。いかにもただ者ではない、手練れといった雰囲気漂う青年だ。
「よう、ザリア。相変わらずのラスボス臭だな。見た目だけは」
「見た目だけは余計だ。どうだ?三か月のブランクは?」
「問題ない。それよりも見ろよ、この解像度。半端じゃないだろこれ」
「ああ、これは驚いた。ベータテスト時に比べると天と地だ。
これじゃあまるでリアルとの見分けがつかないな」
「俺ここに住もうかな」
「勝手に住んでろ」
三か月ぶりの懐かしさも相まって、ひとしきり会話を終えたところで、
ピコン という呼びかけ音が鳴り、視界の端に「!」のマークが表示された。
「そうだ、クエストクエストっと」
ケイズがクエストウインドウを開くと、そこにはクエスト一覧。
◆NEW!! 大都市リオネリアで行われる、始まりの式典へ出席せよ!
の文字が光っていた。
「リオネリアか。懐かしいな。…始まりの式典?なんだ式典って?」
ケイズは首をかしげる。
「そうだな…
この内容からして、多人数同時イベント…。式典開始時刻も決まっているらしい。
どうやらその式典に間に合うように出席するというのが、
最初のクエストというところか」
「まったく、お前の沈着冷静さは時折鼻につくよ」
「当たり前だ。戦場では一瞬の混乱が即、死を招く」
「戦闘バカか」
「お前に言われたくはない」
二人はファーストクエストクリアのため、
さっそくリオネリアへと向かう準備を始めた。
「しかしザリアよ、分かっていたとはいえ、またLv1か…萎えるぜ」
「レベル20程度なら、かかる時間も知れている」
「確か、こっからリオネリアまでだとひとつ短いダンジョンがあったよな。
ダルコミートの小窟だっけ?
あれが最初のクエストの肝ってわけか」
「所詮はチュートリアルも兼ねたクエストだ。まともな敵が出るのかも怪しいが。
念のため、この周辺で多少はレベルを上げていくか」
「ああ、そうしよう」
いつまで続くかわかりませんが、初の長編作に挑戦してみます。
まだまだ未熟なところだらけとは思いますが、どうぞ温かい目で見ていただければ嬉しいです!よろしければお付き合いください。
(誤字脱字以外にも、後々のつじつま合わせのために内容を変更する可能性もあります。。)