表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オカルティスト・クロニクルズ  作者: rimuru the jūto
――砂時計の仮面編――
5/13

5.

 メイが外へ出て茶を一口すすろうとした時、震えながら近づいてくるゼフとリエルに気づいた。


「また会ったね」メイが言う。「落ち着けたかい?」


「はい」リエルが答える。「もう少し聞きたいことがあって。よければ」


「聞こう」


 ゼフが咳払いをした。


「子どもたちの件です……あと、“砂時計”がこの村にいた間、どこに住んでいたのか、分かりますか?」


 メイは茶を護衛に渡す。


「いい質問だね……昔ほど記憶が冴えていなくてね。でも、川沿いに一番近い家……そこは確か、うちの若い子の一人――小林ヒナタが住んでいた。玄関に旗が下がっているから、すぐ分かるよ」


「廃屋ですか?」リエルが問う。


「ええ」メイは短く頷く。「娘を失って、両親は狂ってしまった。そして……残念ながら、自ら命を絶った」


(自滅か。それとも“何か”をされた結果か――)


 メイは二人に会釈した。


「他にも必要なことがあれば、遠慮なく」


 メイは屋内へ戻り、護衛が扉を閉めた。


 敷地を離れたところで、ゼフがリエルへ低く言う。


「今の、砂時計の質問を完全に無視した」


「本当に覚えてないんじゃないか」リエルが言う。「七十どころじゃないだろ。たぶん七十以上。何年も前の出来事なら、細かいことは抜ける」


「……まあな」ゼフは考え込む。「でも一応、目は離さない」


 風が強まり、リエルは近くの川沿いを見つけた。


「川の家、玄関の旗……こっち!」


 リエルがゼフの腕を掴み、川へ向かう。案の定、川沿いに家がいくつか並んでいた。そのうちの一軒に、白い旗が垂れている。


「着いたか?」ゼフが問う。


「たぶん。ドア、試す」


 リエルが引くが、扉はびくともしない。


「……は? 鍵? 廃屋に鍵かけるか?」


「引き方が違うんじゃないか?」ゼフが言う。


「いや、普通に……固い」


「俺がやる。どこだ」


「左」


 ゼフは杖で扉を探し当て、掴んで引いた。腕が抜けそうになり、顔をしかめる。


「っ……無理。鍵だな」


「別の入り口があるかも」リエルが呟く。


 そのとき、ゼフの頭の中で護里の声がした。


『……見られてる?』


「分からない」ゼフが口に出す。「リエル、周りに誰かいる?」


「いないけど。なんで?」


『唱えろ』


「魂の……いや、“力の幽霊”?」


 ゼフの視界が一気に戻った。


 筋肉が張り、体が重く、強くなる感覚。


『今。扉を殴れ』


 ゼフは構え、拳を叩き込んだ。


 バンッ――!


 扉は蝶番ごと吹き飛び、雪の上へ転がった。


 ゼフは反射で腕を抱え込み、呻く。


「痛っ……なんで痛いんだよ」


 視界が、ぷつりと切れた。


『効果が切れた』護里が言う。『あなたの身体はまだこの強さに耐えられない。短時間だけ。切れた後の反動が来る』


「便利な情報、後出しすぎだろ」


『慣れなさい』


 家の中へ入ると、リエルが周囲を見回した。


「……空っぽだ。何年も放置されてる」


「最近の痕跡は?」


「見当たらない。埃が、やばい」


『油断するな』護里が言う。『中の部屋の扉が開いてる』


「どっちだ?」


『右』


 リエルが開いた扉を見つける。


「ゼフ、こっち」


 中は寝室だった。床に落ちていたぬりえ帳をリエルが拾う。


「今、何を拾った?」ゼフが聞く。


「子どもの本。恐竜とか虹とか……普通の」


「それだけか? 他のページは?」


 リエルがめくる。


「……変なのがある。背の高いローブの男が描かれてるんだけど、頭が見えない。で、女の子が笑って手を握ってる」


 ゼフが顎に指を当てる。


「……興味深い」


 リエルはさらにめくり、首を振った。


「それ以外は、ユニコーンとかポニーとか」


「じゃあそれは持っていこう」ゼフが言う。「俺が預かる」


 リエルはゼフに本を渡し、ゼフはジャケットの内側へしまった。


「他は?」


 リエルは部屋を見回し、隅のドレッサーに気づく。上には“ハート付きのポニー”。そこにタグがついていた。


 ――HAPPY BIRTHDAY. From N. M.


「N・M?」リエルが眉を寄せる。


「ん? どうした」ゼフが聞く。


「ドレッサーの上に贈り物。筆記体でイニシャルがある」


「案内しろ」


 ゼフが近づき、ぬいぐるみを触る。


「……ポニーのぬいぐるみ。普通――のようで、普通じゃない」


「N・Mってやつ、追う価値ありそうだな」リエルが言う。


「可能性はある」ゼフが言う。「ただ、関係者か、ただの親戚かは情報が足りない」


 ゼフはタグを外し、コートの内側へ入れた。


「他は?」


「ない。別の部屋いこう」


 廊下へ戻り、リエルが次の部屋へ。


「ここも寝室。両親の部屋かな」


「状況を説明しろ」


 リエルはベッドの上の毛布を見て眉をひそめた。


「……なんで破れてる?」


 リエルは毛布を一枚ゼフに渡す。


「触ってみろ」


 ゼフが指先で確かめる。


「切断痕。ギザギザ……暴力の痕か、別の要因か」


「持ってく?」


「俺のコートに入らない」ゼフが言う。「写真でいい」


「了解」


 リエルが写真を撮り、次に埃だらけのドレッサーへ。引き出しを開けると、ボロボロの服が詰まっていた。


「これ、しばらく着てないな」リエルが言う。


「服か」


「そう」


 ゼフは手探りでコートを持ち上げた。


「臭いもある。放置期間は最低一年――いや、それ以上」


 リエルは次の引き出しを開ける。


「衛生用品しかない。デオドラント、歯磨き粉、香水。全部期限切れ」


「俺の推定と一致だ」


 最後の引き出しには紙束が入っていた。


「何かあった?」ゼフが聞く。


「働く大人の書類だな。税関連、車の支払い、保険、通帳の明細……異常なし」


 クローゼットも空。


「この部屋は終わりだな。次、違う場所行くか」


「キッチンと風呂」ゼフが言う。「まずキッチン」


 キッチンはシンクが空で、オーブンは錆びていた。


「また年季が出てるな」リエルが鼻で笑う。


「使われてない?」


「うん。シンクもオーブンも空。カウンターも安っぽい」


 ゼフは顎を撫でる。


「風呂場は未確認だ。重要かもしれない」


「じゃあ風呂」


 リエルはゼフを引っ張って風呂場へ。扉を開ける。


「……狭いな」


 ゼフが中へ体を滑り込ませる。


「助手、配置を説明してくれ」


 リエルが見渡す。


「トイレは……ひどい」


「想定内」


「洗面台も錆び。オーブンと同じ」


「そこはいい。だが洗面台の下、収納はあるか?」


 リエルがしゃがむ。


「ある。取っ手が折れてる……いや、もげてる。危うく見逃した」


 ゼフは少し考えた。


「……それは妙だ。俺を近づけろ」


 リエルがゼフを連れて行く。ゼフは取っ手のない部分を触った。


「……切り口が綺麗だ。意図的に外された。雑な破壊じゃない」


「時期は分かるか?」


「難しい。工具があれば推定できるが……悲劇の後にやった可能性が高い」ゼフが言う。「周りに、それができそうな道具は見えるか?」


 リエルが首を振る。


「ない」


 ゼフは扉を押すが、動かない。


「くそ。きっちり封がされてる」


 そのとき、ゼフの背筋が震えた。護里が体から抜け出て現れる。室内を一周し、目を細めた。


「見つけた? それとも時間の無駄?」


「分岐点だ」ゼフが言う。「この収納が唯一の突破口かもしれない」


 護里は扉を見つめる。


「……変ね」


「だろ」


「どけ」


 ゼフが退くと、護里は蹴り一発で扉を破った。


 バンッ。


 中には――血まみれの手紙が落ちていた。


「うわ……」リエルが息を呑む。


 護里が拾い上げ、困惑した顔になる。


「何、これ」


 リエルが受け取り、見た。


「手紙だ」


「収納に手紙?」ゼフが聞く。


「しかも血がついてる。乾いてるけど」


「内容は?」


 リエルは裏返し、すでに開封済みだと気づく。


「誰か、もう読んでる……」


「ほう」


「――『N・Mへ。娘に対する不健全な執着に心底嫌悪している。お前の地位も“壮大な野望”も、私には関係ない。誰より信頼していたのに、その信頼を、お前の支離滅裂で妄想的な言動が壊した。この家への出入りを、即日禁止する。小林ハヤトより』」


「父親だな」ゼフが言う。


 護里が腕を組み、苛立ったように言う。


「……で? 説明。待ってる」


 リエルが頭を掻く。


「ゼフの方が――」


「つまり」ゼフが引き取る。「N・Mはヒナタ失踪の容疑者候補になる。砂時計本人、もしくは関係者と断定はできないが、何かを知っている可能性は高い」


 ゼフは顎に指を当てる。


「なぜ手紙を隠す必要がある? そして血……」


 護里は腕を組んだまま言った。


「よく分からない。でも、あの女にもう一度聞け」


「同意」


  *


 外――


 ゼフとリエルがメイの家へ向かうと、護衛が止めた。


「客人。用件は?」


「長に会いたい」ゼフが言う。


「今は就寝中だ」護衛が答える。「理由は? 何が必要だ」


(話すか、隠すか……両方やるか)


「N・Mって名に心当たりある?」ゼフが尋ねた。


 護衛たちは顔を見合わせ、片方が咳払いする。


「個人的には知らない。ただ……聞き覚えはある。昔、菓子の屋台をやっていた男がいた。先代の長が生きていた頃だ」


「もう屋台はない?」


「ない。だいぶ前にやめた。その後、誰も話題にしない。寒さから逃げて出て行ったんだろう」


(面白い)


「長が起きたら聞け」護衛が言う。「明日また来なさい」


「分かった」リエルが答える。


 二人は宿へ戻った。集めた物証を机に並べる。


 護里、慈凪、飢呑が体から抜ける。


「うまくいきましたか?」慈凪が恐る恐る聞く。


「何か面白いのあった?」飢呑が目を輝かせる。


「標的は誰?」護里が苛立ち気味に言う。


「結論」ゼフが言う。「N・Mが第一の注目対象。動き方は三つある。別の失踪者の家を調べて共通点を探す。屋台の件で聞き込みをする。あるいは先代の長の家にアクセスする」


「全部やれば?」護里が即答する。「情報は絞り尽くす」


「順番が要る」ゼフが言う。「まず名前の正体を掴む。それが一番合理的だ」


「つまり村を回る?」リエルが渋い顔をする。


「そういうこと」ゼフが頷く。「噂、嘘、隠し事。人の反応から背景を作る。容疑者には土台が必要だ」


「手伝う」護里が言い切る。


「どうやって?」リエルが怪訝に言う。


 次の瞬間、三人の肌色が人間寄りに変わり、メイド服が再び現れた。


「……今の何だ」リエルが固まる。


「デュード、メイドに戻ったぞ」ゼフが言う。


 慈凪が頷く。


「擬装です。人に近づかれすぎないように……」


「じゃあ」ゼフが言う。「分かれよう。効率がいい」


 護里は周囲を見回し、頷く。


「いい。あなたは妹たちを連れて。私はあなたの兄を連れる」


「は?」リエルが素で声を漏らす。「俺?」


「そう」護里が平然と言う。「あなたを妹たちと二人きりにしたら、災害になる」


「はあ?」リエルが鼻で笑う。「俺を誰だと思って――」


 護里は答えなかった。


「明日一番」ゼフが言う。「尋問開始。あと、俺だけか? ここ、急にめちゃくちゃ寒くなった」


 リエルが薪を見る。


「いや……変だ。何かがおかしい」


「……マジで、おかしい」


——

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ