表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/20

20.

ゼフとリエルはタクシーの後部座席にいた。運転手は道中ずっと、不気味なくらい無言だ。


「なあ、白川郷まであとどれくらい?」リエルが聞く。


 男は返事をしない。


「愛想がないようだな」ゼフが言った。「放っておくのが合理的だろう」


「……はいはい。もういい、スマホで見る」


 リエルが地図を開き、数秒入力して――息をのむ。


「……あと四時間!? マジかよ。今日ずっと車じゃん!」


「なら覚悟しておけ」


 さらに数時間後。


 雪山の村に着くと、運転手は唐突に車を止めた。


「降りろ。着いた」


「ここか?」ゼフが尋ねる。


「荻町だ」男は短く答える。「観光しに来たなら、ここが見たかった場所だろ」


 リエルは車外へ目をやる。雪を被った家々が固まっている。


「……静かだな。ほとんど廃村みたい」


「知ったことか。金を払って出ていけ」


「はいはい」


 リエルが金を渡し、二人は車を降りた。その瞬間――運転手に気づかれないように、護里が屋根の上からひらりと降りる。


「後ろに一緒に座ればよかっただろ」ゼフが小声で言う。


「あなたが怪我をしてるから。少し距離をあげたかった」護里が答える。


「……気が利くじゃないか」


 運転手は発進しかけたが、窓を少しだけ下げた。


「お前らが何しに来たか知らねえが……あの気味悪い家から逃げたくて来たなら、この村は“上位互換”にはならねえぞ」


「どういう意味だ?」ゼフが眉をひそめる。


「自分で確かめろ」男は吐き捨て、走り去った。


 リエルが肩をすくめる。


「寒すぎ。家にノックして、泊めてくれって頼む?」


「無駄だ」ゼフが即答する。「見知らぬ人間を家に入れる確率は低い」


「外で編み物してるおばあさんがいる。ワンチャンあるだろ」


「忠告はしたぞ」


 二人が村の奥へ近づくと、リエルは家の前に座る女性に声をかけた。


「すみません!」


 女性が顔を上げる。


「……ん?」


「俺、リエル。こっちは兄のゼフ。ちょっとここで泊まれる場所を探してて……手助けしてもらえませんか?」


 女性は毛糸を膝に置いた。


「旅の方かい」


 リエルがうなずく。


「妙だねえ。町の“妙事”を調べに来たのかい? 人を寄越すと言ってたのに、結局来なかったからね」


「妙事……?」リエルが首をかしげる。


 ゼフが咳払いをする。


「詳しく聞かせてもらえますか」


 女性は道具を手に取り、家の戸を開けて二人を招いた。


「入んな」


 二人は一瞬だけ躊躇し、それから家に足を踏み入れる。


 暖炉の前に座らされ、湯気の立つ茶が差し出された。


「ほら。飲みな」


「えっと……ありがとうございます」リエルが受け取る。


 ゼフは香りを確かめる。


【毒……じゃないな。よし】


 二人が茶を飲む間、女性は火の具合を見ていた。


「……あんたら、何者だい」


「俺たちは――」


「探偵だ」ゼフが割り込む。「東から来た」


「……ほう」


「それで、さっきの“妙事”とは?」ゼフが続ける。


 女性は一口すすり、言った。


「うちの村の“長”が、一年前に家で死んだ。すぐ後に、娘も消えた。それから夜になると、変な音と影が出るようになった」


 手が強張る。


「人の声じゃない悲鳴。長の家の周りを回る足音。空気が、ありえないほど冷たくなる」


「死因は?」ゼフが問う。


「分からん。医者も“特定できない”って言ったよ。急すぎた。心臓発作みたいにね」


「……妙だな」ゼフが小さく呟く。「その家へ案内してもらえますか。調べたい」


 女性はくすりと笑った。


「朝まで待ちな。夜は隠すんだよ。現象が出るからね」


 そして立ち上がる。


「その代わり、寝床を貸してやる。こっちだ」


 案内された客間には、床に敷いた布団が二つあった。


「何年も客なんて来なかったからね。気に入らなかったら勘弁しとくれ」


「十分です。本当に助かります」リエルが頭を下げる。「あの、名前は?」


「メイ・ワタナベ」女性は答えた。「今じゃ、ひとりさ」


「家族は……?」リエルがそっと聞く。


「旦那は死んだ。子どもは皆、海外へ行った」


「……それは……すみません」


「気にしな」メイ・ワタナベは淡々と言う。「今は編み物で村に返してる。それが私の楽しみさ」


 軽く会釈し、女性は戸口へ戻った。


「好きなだけ休みな。用があれば、暖炉のところにいるよ」


 女性が去ると同時に、飢呑・玲離・慈凪が姿を現し、護里は扉をすり抜けて入ってきた。


「全員集合だな」リエルが言う。「で、ゼフ。どう思う?」


「この現象は砂時計の仮面と繋がっている可能性が高い」ゼフが考え込む。「だが、どう繋がっているかは分からない」


 リエルがゼフの腕を指さす。


「それ、もっと白くなってる。あんま時間ないぞ」


「焦るな。砂時計がこちらの動きを把握すれば、逃げられる。あるいは――先に叩かれる」


「じゃあ、どうする?」


「明日、長の家へ行く。一年経っていても、死の痕跡は残る」


 ゼフは布団に腰を下ろした。


「……とにかく寝ろ。全員」


 リエルはゼフが頭を倒すのを見て、ぽつりと言う。


「今の、人生で初めて聞いたかも。お前が“休め”って言うの。……お前ら、影響力すげえな」


 それに反応するように、姉妹たちの頬がわずかに灰色を帯びた。


「聞こえてるぞ」ゼフがぼそっと言う。「バカ」


「はいはい。もちろん」


――その頃。


 長の家の外。村人が懐中電灯を向けながら、そろりと玄関へ近づいた。


「……もしもし? 誰かいるのか?」


 手を伸ばすと、扉が――なぜか開いていた。


「え……?」


 一歩入って、光で室内をなぞる。


「息子はここで死にかけたって言ってたが……大げさだったのか?」


 さらに奥へ。部屋を覗く。


「……空っぽだ。長よ、どうやって死んだ? 本当に病気だったのか――」


 その瞬間、冷たい風が撫でた。玄関の扉が、バン、と閉まる。


「おい、な――!」


 振り返ると、巨大な人型の影が――膨れ上がる。膨れ上がり、腕と脚が増え、増え、増えていく。


「うわああああ! 誰か! 助けて! 助けてくれ!」


 男が扉へ駆ける。しかし腕が伸び、彼を部屋の奥へ引きずり込む。


 そして――扉は閉じた。


――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ