表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オカルティスト・クロニクルズ  作者: rimuru the jūto
――砂時計の仮面編――
2/12

2.

……


翌日――


 ゼフはベッドの上で、自分の体を確かめるように動かしながら目を覚ました。


「頭がぐるぐるする……変な症状だな。昨夜は、本当に悪い夢でも見たのか?」


 枕元の杖を掴み、ドアへ向かう。扉を開けた瞬間、慈凪の声が明るく飛んできた。


「おはようございます! よく眠れましたか?」


「まあな。でも昨夜はちょっと変だった」


 慈凪が首を傾げる。


「変……って、どんなふうに?」


「記憶が正しければ、少年の悲鳴が聞こえて、引きずられて……それから女の声で眠らされた」


 慈凪は頭を掻き、明らかに動揺した顔になる。


「あ、あはは! それなら私か護里が気づくはずです! きっと夢ですよ、夢!」


「……まあ、夢かもな」


「そ、そうです! 絶対に夢です!」


 慈凪の呼吸が早くなっていくのが、ゼフにはわかった。


(今は嘘に合わせておくか。まだこの子を壊したくない……でも、慈凪は俺に隠してることが多すぎる)


 そのとき、リエルが欠伸しながら部屋から出てきた。


「お。ゼフ、もう起きてんの? えっと……君、慈凪、だよな?」


 慈凪は元気に頷いた。


「はい! 何かご用ですか?」


 リエルは腹をさすりながら言う。


「朝飯ほしいかも……」


「わかりました! すぐ用意します!」


 慈凪は階段を駆け下りる。リエルとゼフも後を追った。


 一階に降りて、リエルがリビングのソファを見て目を丸くする。


「おい……ソファ、ピカピカじゃん。掃除したんだ」


「そりゃそうだろ。メイドだぞ」ゼフが言う。


「それでも、なんか……ありがたいな」


「まあ……な」


 慈凪はコンロの前で料理を始めた。リエルは覗き込み、目を輝かせる。


「うお、これ……ステーキと寿司?」


 慈凪が頷く。


「前の住人さんたちが、これ好きだったので!」


「前の住人……? 母さんと父さんってこと?」リエルが聞く。


 慈凪の手が止まる。


「……は、はい! そ、そうです!」


 ゼフが小さく笑った。


(また怪しい。簡単な問いに答えるのに、なんでそんな間ができる)


 リエルが肘でゼフをつつく。


「何笑ってんだよ」


「人生」


 慈凪は料理を仕上げ、皿とフォークを並べて二人に出した。


「ありがとう、助かる」リエルが言う。


 慈凪は柔らかく笑った。


「……ああ、俺も。ありがと」ゼフが続ける。「で、俺の皿はどっちだ?」


 慈凪がそっと皿を寄せる。


「ゼフの目の前ですよ!」


 ゼフは手探りし、うっかり皿を倒してしまった。


「あ……悪い」


「大丈夫です! まだあります!」


 慈凪が片付けようと身をかがめた瞬間、彼女の肌がゼフの手に触れた。


 ――冷たい。


(ん……?)


 慈凪は黙って掃除を終え、新しい皿をゼフの前に置いた。


「なあ」ゼフが言う。「お前、ずっとメイドなのか?」


「物心ついたときから、ずっとです!」


「論理的に言えば、その前があるだろ。お前、二十歳くらいじゃないか?」


 慈凪が固まって考える。


「わ、わたし……えっと……そ、そうです! 二十歳です!」


「じゃあ、何年からメイドなんだ?」


「お、覚えて……覚えてません……」


 リエルが咳払いをした。


「まあまあ。個人的なことだし、無理に聞かなくても――」


「俺は聞きたい」ゼフが遮る。「可愛いメイドに世話される機会なんて、そうないからな」


「おい、デュード」


「とにかく! 私は何でもお手伝いします!」慈凪は必死に言った。「仕事は得意です! ちゃんとやれます!」


「うんうん。疑ってない」ゼフが言う。


(まったくな)


 慈凪は少し離れた場所で、二人が食べるのをじっと見ていた。食後、皿を集めてシンクで洗い始める。


「親父、メイドがいるって言っといてくれたらよかったのに」リエルがため息をつく。「お前の世話する覚悟、ずいぶんしたぞ」


 リエルがゼフを小突くが、ゼフは手で払う。


「俺は五歳じゃない」


「はいはい」


 慈凪が片付けを終え、隣に立った。


「ほかに何か必要ですか?」


「娯楽?」リエルが言う。


「あっ! 一階にゲームルームがあります! 使っていいですよ!」


「最高。ゼフ、行く?」


「ん。まあ、いいよ。適当に」


 慈凪に案内され、ゲームルームへ入る。アーケード筐体、クレーンゲーム、エアホッケー台が並んでいた。


「やば。めちゃくちゃいいじゃん! 親父、俺らに隠してたな!」


 リエルはゼフをゲームへ連れていく。慈凪は入口で、笑顔を貼り付けたまま見守った。


 数時間が過ぎた頃、慈凪の腕を誰かが掴んだ。護里が彼女を引き寄せる。


「……何か話した?」護里が低い声で問う。


「な、何も! でも、弟のほうが少し勘が良いかも……ただ、確信はしてないと思います!」


「なら、確信させないで。もう夕方。私は引き継ぐ」


「……わかりました」


 慈凪が廊下へ急いで消える。護里は腰に手を当て、エアホッケーをする二人をじっと見た。


 ゼフがパックをリエルのゴールへ叩き込む。機械音声が響く。


『スコア! キミの勝ち!』


「なんで俺、目が見えないやつに負けんだよ!?」リエルが叫ぶ。


「俺は盲目なだけで、馬鹿じゃない」ゼフが言い返す。


 リエルが腕を伸ばす。


「さて、次どうする?」


「普通にって意味か、それとも――」


「普通に、だ」


「じゃあ、ジム」


 出口へ向かう途中、リエルが護里に気づく。


「あ。えっと……護里、だっけ?」


「護里」護里が淡々と答える。


「そうそう。護里、どう? 元気?」


「最悪」


「もう夕方か」ゼフが言う。「時間が早いな」


「用件は?」護里がぶっきらぼうに言った。


「ジム案内してくれる?」ゼフが聞く。「ここでの“設備”がどんなもんか見たい」


 護里は踵を返す。


「ついてきて」


 歩く速さがやけに速い。扉を開けて二人を入れた。


 中は片側がトレーニングエリア、もう片側がバスケットコートになっていた。


「最高! ここでバスケできるじゃん!」リエルが歓声を上げる。


「バスケ……?」護里が低く返す。


「そう!」


 護里は扉の横で腕を組み、待ち構える。


「……好きにしな。終わったら言って。必要なものがあるなら対応する」


 リエルがコートを指す。


「なあ、何本かやる?」


「また盲目に負けたいのか?」


「ボール取れよ。ゴールは右だ」


 ゼフはボールラックを探り当て、ボールを掴む。躊躇なく放ったシュートが、ネットを揺らした。


「勝負する? それとも、ちゃんと俺とやる?」


「見えないくせに自信だけは一丁前だな」


 リエルは首を鳴らした。


「……まあ、いい」


 護里が見守る中、二人はワン・オン・ワンをした。結果はリエルが十一対九で勝つ。


「俺の勝ち」リエルが言う。


「だから俺は盲目なんだって」ゼフが言い訳する。


「点取れてんだから言い訳すんな」


 二人は汗だくで座り込む。護里は期待するように見下ろした。


「で? 次は何が必要?」


「えっと……飲み物、お願いします」リエルが言う。


 護里は出て行った。


「待ってろ」


 数分後、護里は戻り、二人にワインボトルを差し出した。


「……あ、いや。俺ら、これ飲まない」リエルが困る。


 護里は露骨に苛立った顔をして去り、水を持ってきた。


 二人が水のボトルを開ける間、護里は室内の掃除を始めた。


「次、何しよ」リエルが小声で言う。「アイデアある?」


 ゼフも小声で返す。


「鍵の部屋、突破」


「この人がいるのに無理だろ。慈凪より怖い」


「観察力いいな。なら、意味のない日常で時間を潰して、こいつを疲れさせる」


「じゃあ映画室。時間が溶ける」


 護里は掃除を終え、バスケットボールを完璧な軌道でラックへ放った。


「今日は終わり?」


「えっと……映画見たい。迷惑じゃなければ」リエルが言う。


 護里は睨み、腰に手を当てる。


「……いい」


 数分後、二人はシアタールームの席に座っていた。大画面ではレース映画が流れている。


「うお、これ面白くなってきた!」


「そうだろうな!」ゼフが身を乗り出す。「じゃあ、全部実況してくれ。俺もフルで味わいたい!」


 ――数時間後。映画が終わり、リエルは席で寝落ちしていた。


「リエル? ……はぁ。護里?」ゼフが言う。「最後の三十分、何が起きた?」


「橋が爆発した」護里が淡々と答える。「悲惨な事故が起きた。それで全員死んだ」


「なるほど。要約ありがとう」


 一瞬、護里の顔に驚きが走ったが、すぐに無表情へ戻る。


「遅い。何か用は?」


「いや、もういい」ゼフが言う。「ただ……部屋まで運んでくれない?」


 次の瞬間、護里は驚くほどの力でリエルとゼフをまとめて抱え上げ、二階へ運んだ。


 ゼフの部屋で下ろされた瞬間、ゼフは護里の方へ向き直る。


「普通の体格の女にしては、力がありすぎる」


 護里が一歩引く。


「……どうして私の体格がわかるの?」


「今、俺を持ち上げた」


「……私は、その……ワークアウト、という活動をしている」


「よくやるんだろ」


「……そう」


 ゼフは杖でベッドを探り当て、腰を下ろす。


「ところで」ゼフが言う。「お前ら、給料はいくらだ? その……仕事の対価」


 護里は困ったように黙る。


「……ん?」


「金。俺の国じゃ、こういうサービスには払う」


 護里は長い沈黙のあと、低く言った。


「気にしないでいい。……おやすみ」


 護里はドアを閉め、足早に去った。


(あの姉妹はやっぱり妙だ。割るのは楽しそうだが……まずリエルを起こす)


 ゼフは杖で廊下を進み、リエルの部屋へ。ドアを押し開け、ベッドを探り当てると、杖で容赦なくつついた。


「リエル。起きろ。起きろ。起きろ」


「うぐ……なに……?」リエルが唸る。


「今だ。下を偵察する」


「朝じゃだめ?」


「だめ。闇こそ超常の時間だ。昨夜みたいにな。覗くぞ」


 リエルは顔をこすった。


「コーヒー持ってんだろうな」


 二人は起き上がり、階下へ向かった。その途中で、リエルが立ち止まる。


「……おい。あの南京錠のドア、様子が違う」


「どう違う?」


「ひび割れてる。誰かが壊したみたいに」


(やっぱり。昨夜の件を隠したかったんだ……)


「近づこう」ゼフが言う。


「お前の葬式な」


 二人はゆっくりドアへ寄った。ゼフが手を伸ばし、触れる。


 ――すり抜けた。


 まるで、そこに何もないように。


「……リエル。俺、ドアの近くにいるか?」


「近いどころじゃない」リエルの声が震える。「お前の手、ドアの中に入ってる……」


「冗談言ってる場合じゃない」


「冗談じゃねえ。ホログラム……いや、幻みたいな――」


「じゃあ、行く」


 ゼフは一歩踏み出した。


 次の瞬間、ゼフの身体がドアをすり抜けて消えた。


「ゼフ!? ゼフ!? ……ああ、くそ!」


 リエルも飛び込む。


 そこには、暗い空間と、下へ続く段差があった。ゼフは方向感覚を失い、ふらふらしている。


「リエル? 空気が違う。ここ、どこだ?」


「階段が下に続いてる……地下への道か? ここ、地下室あんのかよ」


「地下室? 面白いな……なんでメイドが隠す?」


「知りたくないタイプの理由だろ……」


「もう来た。降りる」


「お前、なんでそれ以外のことにその元気を出さねえんだよ!」


「意味がないから」


 リエルは呆れながらも、二人で階段を降りる。突き当たりには床のトラップドアがあり、リエルが開けて覗いた。


 そして二人は下へ降りた。


「埃、箱、棚……」リエルが周囲を見回す。「地下室っていうか、倉庫? 図書室?」


「追い出したがるなら、重要な何かがある」ゼフが言う。「探そう」


 リエルが周囲を目で追い、ゼフは棚を手探りする――そのとき。


「ゼフ! 見つけた!」


「声で場所を言え!」


「……これは、やばい」


 ゼフは杖で進み、リエルにぶつかった。リエルは壁を見つめている。


 そこには――七つの扉が並んでいた。


 それぞれに、紋章が刻まれている。


「蛇……砂時計……太陽……花……悪魔……ハート……月……?」


「何だ?」ゼフが聞く。


「七つの扉だ。それぞれマークがある。で……月の扉、あれ、お前の護符と同じ」


「嘘だろ」ゼフが息を呑む。「その扉、どっちだ?」


 その瞬間、月の扉が淡く光り始めた。


 同時に、ゼフのポケットの月の護符が飛び出し、扉へ吸い寄せられて――ぴたりと貼り付いた。


「やばい、行こう」リエルが引きつった声で言う。


「護符が……どこだ?」


 扉が開いた。異様な煙が噴き出す。


 ゼフが煙に触れ、眉を寄せる。


「……これ、何だ」


「扉が開いた」


「中は?」


「……近くにいろ」


 二人は扉へ近づく。リエルが中を覗いた瞬間、言葉が喉で潰れた。


「――っ!」


「何が見えた?」ゼフが問う。


 そこには、黒髪の少年が押さえつけられていた。


 メイドが二人――慈凪と、緑髪のメイド。


 そして護里は、少年の“切断された首”に足を置いていた。


「……おい、何が――」


 リエルが後ずさった、そのとき。


 慈凪たちの肌が、透けているのが見えた。


 そして――


 彼女たちが振り向く。


 全員の目が、二人を捉えた。


——

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ