星見祭二日目 17.自慢の家族に自慢の友達
星見祭最後の夜。
リリス学園長の粋な計らいで招待客も父兄も雷クラスが上空にある豆の木の下の広場でテントで宿泊することになった。
勿論りん達と父兄は同じテントだ。
野営は野営でもそこは摩訶不思議坩堝学園長主催の野営だ。
テントが普通のテントではない。
「「「豪華!!!」」」
雷クラスの父兄が揃ったそのテントはサーカスを開けそうなほど広大な布テント。
一見普通の野営テントかと室内に入るとそこは。
白いふわふわの毛皮が敷き詰められた天国だった。
ハンモックや寝袋、布団にベットが備え付けてある。
野営にしつは豪華すぎる内装にりんはもちろん雷クラスの全員が興奮した。
幽玄異郷の民でもこの規模の野営は珍しいらしい。
「室内なのに星空が降ってくるみたい!?」
天井は透明だった。
布の繋ぎ目も分からない。
星が翼を広げて飛んでいき天井を突く。
するとボワンとその星空の境界は揺れた。
確かにそこには布があるみたいだ。
「マジックミラーみたいなテントだな………」
岸がそう呟いた。
岸が言うとおりだ。
外から見えないのに中からは見える。
そんな開放的なテントでリリス学園長とりんを待っていたのは家族皆だった。
「「「りんお姉ちゃん〜」」」
「みんな!!」
今夜のりんは血みどろではない。
昨夜の式典とは違い身綺麗な状態で家族に会えたことが嬉しかった。
だって。血みどろのりんには誰も抱きついてはくれなかったから。
さっき露天風呂に入ったから今のりんはつるつるうるうるのいい匂いだ。
だから子供達は皆がりんに飛びついてきた。
その幸せを噛み締めている暇もないほどゴロゴロに転がったのに痛くはなかった。
後ろに転がってもふわふわの雲のような毛皮がクッションになってくれたから。
「 蓮、陽翔、湊人、樹、悠馬、大和、律、朝陽、陽茉莉、紬、結菜、芽生、結月、琴音、澪、彩葉、葵、凪、翠、
楓、薫、瑞希、飛鳥!!
皆応援合戦してくれてたね?ありがと!大丈夫?怖くなかった?
白哉さん、皆の面倒見てくれてありがと!!」
「「「「楽しかった!!りんねぇかっこよかった!!」」」」
「なんの。家族ですからね。彼等もいましたし」
「式神の皆さんもありがとね?」
執事の礼をする白哉の背後には紫色の人造召使い達が彼女と同じ様にお辞儀していた。りんがペコペコすると彼等もペコペコする。
人型の自我のないリリス学園長の《式神》だ。
自我はないはずなのにりんが声をかけると嬉しそうに見えるから不思議だ。
本来は家具や魔導家電のような扱いらしいのだけど。
りんは毎回声をかけるようにしている。
ロボット大国出身の性だ。
「みんな!!紹介するね。
私の現し世からの家族なの!!
蓮、陽翔、湊人、樹、悠馬、大和、律、朝陽、陽茉莉、紬、結菜、芽生、結月、琴音、澪、彩葉、葵、凪、翠、
楓、薫、瑞希、飛鳥!!」
「「「「「こんにちは!!りんねぇがお世話になってます!!」」」」」
皆がキビキビと整列してお辞儀した。
素晴らしい集団演技だ。
「「「「礼儀正しいねぇ〜」」」」
と皆が拍手してくれた。
心無しか子供達の顔も誇らしげだ。
りんも誇らしかった。
「よく噛まずに言えるな。23人だろ。」
「大家族だね……」
「皆………りんの?」
「うわあ………子供いっぱいだあ………壮観」
「かわわッ………。皆黒髪黒目だ!!ザ日本人だ!!」
「………かわいい………」
「りん様に………似てない?ん………?いや。似てる」
もうすでに子供達は雷クラスの面々に纏わりついていた。
子供は優しい人はわかるのだ。
「同じ施設にいたんだ〜。一年しか一緒にはいないけど本当の姉弟みたいだと思ってるの。
紹介したくてしたくてたまらなかったの!!嬉しい!!」
りんは嬉々として子供達を整列させた。
自慢の家族も自慢の友達に紹介だ。
心躍らないわけない。
「俺の弟妹でもあるな」
「じゃ僕の弟妹でもあるね」
岸と星が同時に言ったから少し聞き取りづらくて首を傾げたら二人を澪が締め上げていて聞き返せなかった。
気になって三人を伺うりんに猿田が「気にするな。仲良し同盟のじゃれ合いだ」と話を続けるように促してくれた。
「蓮はね〜私より先に大人になろうとするくせに、まだ甘え下手。
陽翔は泣き虫だけど、誰よりも先に手を伸ばす子。
湊人は何も言わずに隣に座ってくれるの静かだけど思慮深いの。
樹はよく転ぶんだよね。でも 倒れない強さじゃなくて、何度でも立つ強さの子。
この子達が最近学園に行ってる間、私の代わりにみんなをまとめてくれてるの」
りんが四人の頭をこねくり回すと身動ぎしながらもニヒニヒ笑う。かわいい奴らだ。
「悠馬はいたずらっ子で逃げ足が速い!!走って逃げるふりして、最後は必ず戻ってくるけどね。
大和は硬派なの。ぶっきらぼうな優しさで、みんなの背中を押すんだ。
律はね。正義感がすごく強くて、正しさに迷いながらも、最後まで考える子なの。
この子達は我が道行くタイプなのにいつの間にかみんな巻き込まれて楽しくあそんでたりしてね?」
「りんねぇがちょっかい出す、かまっちょさんだからだよ」
「うふふ。いつもかまってくれてありがと!」
三人がりんをつつくからくすぐったくてクスクス笑った。
「朝陽は笑顔がお日様みたいなの!!暗い部屋でも笑える、朝みたいな存在。
陽茉莉は温かい言葉を選んでかけてくれる子。
紬はね〜喧嘩の仲裁が上手なの。 壊れた空気を、そっと縫い直す子なの。
結菜はすっごい甘え上手。手をつないで抱っこする理由を、何度でも作れるの。
この子達はしっかり者のお姉ちゃんしてくれるんだあ。
いつも男子達を躾けてくれる。
ね?男の子は人数いると大変だよね?ありがと」
「バカはバカで使いようなのよ。りんねぇ」
「あら。上手く転がしてるね〜」
ふふんとおねぇさんぶる三人のほっぺをつついた。
そしたらお返しにくすぐられた。
「芽生は一番幼いのに一番的確な事を言う子なの。頭がいいの」
一番の幼子をりんは抱き上げた。
最近お姫様と王子様のお人形が大好きで肌身はなさず抱えていた。今日も金髪のお姫様と黒髪の王子様は仲良く抱き寄せられていた。
「りんねぇがあさおきると、ないてるのはおひめさまが………しんだからなの?」
流れ星が、ひとつ、天井を突いた。
境界が、ぼわんと揺れる。
りんは笑いかけたまま、少しだけ止まった。
朝。
泣いている。
その事実を、誰にも知られていないと思っていた。
「……ん?」
声は、いつも通りの調子だった。
芽生は首を傾げる。
星はまた流れる。
りんは笑った。ヘラリと。
「りんねぇは、ないてる。いつも。みるから」
りんは首を傾げた。
この子に朝観察されていたとは気付かなかった。
もしかしたらよだれも髪の爆発にも気付かれているのかもしれない。一生懸命直しているのに。
本当に聡いこだ。
「りんねぇは。あくびがながいんだよ〜だからないちゃうの」
「そっかあ。あくびがでるくらい、ゆめがつまらないのか」
「そ。つまんないよ〜。ここのせいかつのほうがたのしいもん」
皆がクスクス笑った。
幼子の話す摩訶不思議な思考が微笑ましいのだ。
「ね?かしこいの。言ってることは分からない時あるんだけどね。すごくお話が上手」
皆が首を傾げる。
りんもよくわからないからしかたがない。
芽生は降ろしてあげると駆けていった。
「結月は優しさで周りを照らしてくれるの。
琴音は泣き虫さんなんだけど、声が綺麗だから泣き声すら音楽に変えてしまうの。
澪は空気を読むのが得意なの。流されるようでいて、ちゃんと流れを選んでる。すごく柔軟。
彩葉は絵が得意で工作大好き。何もないところに色を置ける子。私を七色の女神様に描くんだよ?面白いの。
葵は曲がったこと大嫌い。真っ直ぐすぎて、時々まぶしい。
凪は大人しいんだけどここぞという時激しい意志があるの。
頼りになるの。嵐のあとに残る静けさそのもの。
翠は癒し系。そばにいるだけで呼吸が深くなる。
楓は場の空気を読んでちゃんと変われる子。気遣いしい。
薫は見えなくても行動力で示すタイプ縁の下の力持ちなの。
瑞希は誰かのためにすぐ悲しくなっちゃうくらい優しい子なの。
飛鳥は向こう見ずですぐ行方不明になるの。いちばん遠くまで飛べるくせに、帰ってくる場所を忘れない。野生の勘が鋭い子。
みんなみんないい子なんだよ〜〜よろしく〜〜」
「「「「よろしくお願いします!!」」」」
「みんな。こちらは私をずっと救けて励ましてくれたクラスのお友達だよ」
今度はくるりとりんは子供達に向き直った。
「猿田 一彦くん。私は猿田君って呼ぶよ。
見ての通り大きな身体の優しいお兄さんなんだよ〜!!
木登りと肩車が特技!!」
猿田は面食らったの顔をした。
まさか紹介されるとは思わなかったみたいだ。
赤い髪に赤い瞳の猿田が頬まで少し赤らんだ。長い細い尻尾がゆらりと揺れた。
少しごほんと息を整えてから子供達に向かってしゃがんだ。
声はいつもよりも柔らかかった。
「うむ。某は猿田 一彦。
猿族だ。お猿さんだな。現し世人類の君等には大きくて少し怖いかもしれんがよろしく頼む」
「「「おさるさん!!」」」
そう目を輝かせてもう男の子の子供達は猿田よじ登りだした。どちらがお猿さんかわからない。
猿田もニカリと笑い肩車もしジャングルジムと化してくれた。やっぱり優しいお兄さんだった。
「岸はわかるよね?みんなの岸だからね?私達の大切な家族だもんね」
そう言うと岸はピンクの短髪にワックスでツンツンにした髪の毛をガシガシかいた。
あれは照れ隠しのガシガシだ。頭皮が痛まないか心配になった。
「岸は騎士してたな」
「りんねぇのきしね」
「きしはたいていむくわれないあてうまだよ」
「おい。なんか不吉なこと話したのは誰だ?」
岸が子供達を片っ端から頭をこねくり回した。
いつもの風景だ。
やっと日常が戻った心地がした。
「澪ちゃんは初めましてだよね。
みんな。あの話によく出てくる澪ちゃんだよ。澪 モルガンさん。
私の話には必ず出てくるから名前だけはわかるかも?
私のお友達一号の《大好き同盟》の一号でもある。可憐で優しくて強いオネェさんだよ〜」
澪も赤い長い髪とアンシンメトリーな刈り込んだ頭皮がピンク色になった。頬は薔薇色だ。
「りん様の《お友達》であり《騎士》であり《信奉者》であり《大好き同盟会員番号一番》でもある。澪 モルガンです。君達は私の家族でもあります。以後お見知りおきを」
「あ。ヤバい女だ」
「同担拒否強火だね」
「少しけいかいする必要ありだな」
「え………?」
澪がショックを受けた瞬間女の子達がわらわらと澪を囲む。
何やら質問攻めにしているが澪の笑顔が深まったから仲良しになれたのだろう。
「ナタージャさん。私はナタちゃんって呼ぶよ。
ダンスが得意なナイスバディなの!!お洒落も流行もお任せあれ!!頼れるねぇさん!!」
「ナタージャ・A・メノウスだよ。ナタ姐さんって呼んで♥よろしく★
ダンスとオトナの世界を覗きたかったら何時でも声かけてね」
ナタージャは日焼けしたナイスバディな身体と波打つ黒髪を揺らしながら魅惑的なダンスを踊った後に元気が出るようなダンスも踊った。
「インド系ギャルだ。陽キャだ」
「お洒落番長か」
「美女だ。りんねぇとは違うタイプ」
ナタージャのダンスのリズムに当てられたダンス好きの子供達がダンス対決を始めた。
頭で地面を回転しだしたナタージャのサービス精神に感謝した。
「咲ちゃん。木ノ葉 咲ちゃんだよ。
恥ずかしがりやだけどすごいお花畑出せるんだよ?
眼鏡取ると綺麗な水色の瞳のお目目が大っきいの!!」
「咲です。………よろ………しく」
消え入りそうな声なのに咲が呟くと同じ大人しい女の子達がすすすと近づいた。
「かわいい」「かわいい」「かわいい」と呟きながら。
なにか感じる所があるらしい。
ほんわかした雰囲気に包まれたのを見てりんはまた視線を横にずらした。
「琥珀・ピアス。私は琥珀って呼ぶの。
天才なんだよ?研究熱心で私より本を読んでるの!!
身体は少し小さいけど皆より100歳は年上だからね?
失礼のないようにね?」
そう言いながらりんは琥珀の頭を撫でた。
蜂蜜色のくるくるの髪の毛はとろとろの手触りだ。美容も万全な天才児だ。
蜂蜜色の瞳がジトリとりんを見あげたけど耳が紅いから嫌ではないらしい。
「甘えん坊天才児か」
「背と知識は比例しないもんね」
「頭への栄養全フリかあ………」
「ね?この子達。実験動物見るような目で僕を見てない?」
「違う違う。私よりも頭がいい人が物珍しいだけだよ」
りんはアンテを見た。
アンテもりんを見てニッコリ笑った。
「アンテ君はアンテ・クオニ。
アンテはアンテでアンテだからアンテなの」
「雑すぎないかい?僕だけ?!」
「うふふ。アンテ君はバカみたいなことをするんだけど皆の事良く観察している気遣いしいなの。おちゃらけも空気を読んでするしイケメンなのに顔芸も多彩だよ。
すごい頭がいいからたぶん私の考えることの斜め上のことを考えてるから私が理解できないだけなんだあ………。琥珀とは違うタイプの天才なの。あとね………ナタちゃんがすーーー」
「わ!わ!わあ!!
わかったから!!分かったからこれ以上はやめてお願い〜」
泣きわめきながらりんにすがる姿はやっぱり少し変人だ。
「残念イケメンだ」
「イケメン残念だ」
最後にりんが振り返ったのは壁に持たれていた星だ。
「せい君。星って書いてせいって読むの。
お花をいつもくれるお花博士なんだよ。
綺麗な黒髪に黒目だから皆と似てるよね?
冷静でいつも私を助けてくれる紳士な人だよ。瞳の中に星がキラキラ光ってるの。翼も艷やかな黒でかっこいいんだよ?」
「星です。いつか君達と本当の弟妹になりたいんだ。
よろしく。因みに将来有望だから君達のおねぇさんに苦労はさせないよ」
「ん?」
ざわりとした。
「また違うタイプの外堀埋めるヤバいやつだ」
「イケメンだな。ヤンデレ気質だ」
「後方彼氏面してたぞ。あいつ」
「かっこいいから一歩リードかな」
「たまご………もってるね」
「卵?なにそれ」
「わかんない〜」
何やら星を囲んで真剣に討論を始めた。
皆がみな楽しそうに交流を持った。
「りんさんは。家族が一番大切なんだね」
星が呟いた言葉が自然にしっくり来た。
そうなのだ。
りんの一番はやはりこの家族なのだ。
だから。
「うん!!私がここにいる指針でもあるし目的でもあるの。
勇者………候補としては。失格かもしれないんだけど。
魔王と闘うくらいならこの子達と逃げたいなあ………って思うくらいには大切かな」
空気が変わった。
さっきまで岸の義父フルカス将軍と和やかに話していたリリスお母様が血相を抱えて戻ってきた。
「待って。勇者候補ってなに?
りんちゃんは「幸せになるため」に私のとこに来たのよ?
なんで勇者候補失格なの?」
「え」
りんはキョトンとした。




