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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?〜全ての虐待児に捧げる幸せな話〜  作者: ユメミ


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星見祭二日目 12.巫女誕生秘話 Sideほっちゃん

 私はモブ子。

名前はない。いやあるにはある。

親が勝手につけた名はあまりに古臭くていじめられはしないけど呼びづらい。

だから《仮名》が書類上大丈夫な自由な校風の坩堝学園(るつぼアカデミー)に入学出来たことに震え上がったのに。

何故震え上がったか。

うちは家柄も分家だしお金持ちじゃない。

親の炉度だって決して高くはない。

なのに受かってしまったのだ。

ガリ勉の成果だった。

好きなことには猪突猛進になれる性格はこの時役に立った。

《自由》を求めてなら頑張れたのだ。

祝、寮暮らし。


でもここで誤算が。

まさかの親にバレてちゃんと本名で入学手続きを済まされてしまった。

生徒手帳だけは本名だけどさすがは天下の坩堝学園だ。

泣いて事務局に縋ったら名札と名簿には《仮名》が採用されたのだ。優しい。


だから私の名前は今は(ほう)(仮)だ。


「ほっちゃん。どしたの。………すごい機材ね」


 ピンクの角を生やした友。桃ちゃんが私の抱えた物々しいカメラを覗き込んでいる。

そりゃ珍しいだろう。

私のマイカメラは魔導デジカメと魔導端末のカメラのみだ。そんな私が魔導一眼レフ。しかも見るからに高級品。 

それはそれは目立っていた。

モブなのに。


「友よ。聞いて。

さっきね。《麗しの紅の騎士》が私に託していかれたの。

「すまんな。君は確かりん様の《ファン》であったな。

私も壇上に上がることになってな。

りん様の勇姿を撮ることの出来る《同士》を探していたのだ。

託しても良いか?」って。


任されてしまったのよ。《虹色の君》の撮影を!!」


「え。澪 モルガンさんから佐藤さんの撮影頼まれたの?

凄くない?認知されてたの。貴女のストーカー」


え。一眼レフカメラの望遠カメラ長っと友が呟く中私は指を振る。


「《信仰》と呼んでくれないかな?

これは崇高な推し活動なのよ?!」


「はいはい。貴女の王子様?

あ。女神様だっけ」


「そんなにすごいの?間近に見た佐藤 りん様は。

遠目に見る限りだと腰の低い美少年って感じだけど?

あ。笑うと美少女なんだっけ?ん?性別《無》だけど身体は女体なんだっけ?

なんか神話の神様みたいだね」


「神。そうりん様は………。

名前すらお呼びするのは烏滸がましい………。

《虹色の君》の素晴らしさは入学式前からなの。

式典のあの華々しさで釣られた有象無象のファンと一緒にしないでもらいたいのよ!!」


「同担拒否強火か」


「あれは入学手続きに手間取った私がカバンをぶちまけてしまったときだったわ………」

「またはじまったよ………。ほんとほっちゃんは好きなことする時は瞳孔ガンギマリだね。

ま。楽しそうでなにより」


何百回も聞いてくれたのにまた聞いてくれる桃ちゃんには感謝しかない。


 あれは入学手続きに手間取った私が転んでカバンをぶちまけてしまった時だった。

これは回想だ。桃ちゃんには今は聞かせていない。


 奉はそれはそれは目立たない容姿だ。

だからか。

転んでぶちまけた荷物を踏みつけられても誰も気付かなかった。

そこに開かれた生徒手帳があったのだ。

運悪くも顔写真が貼ってある欄。なんのいたずらが《本名》が記載されているページだった。

夢中で四つん這いになりそれに手を伸ばした。

そこに迫る黒革の影。

「踏まれるっ………」

思って目を瞑ったのに包まれたのはふんわりした手のひらの感触。


「失礼。君。

気をつけてね。彼女を踏むところだったよ」

「あ。ごめんなさい」


焦った男子生徒の声がした。

それとアルトのイケメンの声も。

イケメンって声も麗しいんだなと思った。

流石は天下の坩堝学園。容姿面接もあると噂にあるだけある。

そっと目を開けると虹色の瞳とかちあった。

ナッツのような甘い色のなかに虹色が隠された瞳が至近距離にあった。

王子様がいたのだ。

その王子様がニコリと笑った。よく見たら女の子だった。

男か女かなんてどうでも良かった。

彼女の手の甲にはくっきりと足跡。

それをさっとスマートに裏返して奉をすくい上げた。


「大丈夫?立てる?飴ちゃんいる?」

「おいおい幼児扱いすな。大丈夫か?」


背後にいたピンク色のイケメンが荷物をかき集めて渡してくれた。

いい人だ。

そんなイケメンが侍る人。

男か女か分からない魅力に溢れた人。


「わ。同じ学年かな?よろしくね?

出先で躓くのは幸先いいんだって。

怪我………ないかな?この後は良いことしかないはずだよ。

不思議な縁だね〜。また会えるといいね〜」


「おい。りん。リリス様が呼んでるぞ」

「じゃまたね」


「あ!あ………ありがとう!」


生徒手帳の表面をそっと払ってから手渡してくれた。

景色になるはずの奉を見つけた人。

友達の桃すら見えないことがあるのに。

奉の家系にはないはずの胸のあたりがじんわり温かくなった。


 同じ学年と知った瞬間垣間見たはにかむ笑顔。

最初の神々しいほどの完璧な笑顔とは違った気安い笑顔。

奉の身体を気遣う視線の動きは幽霊族の透明な身体すら労るように。

透けているけど良く見れば輪郭はあるのだ。実体もある。

透明だけど透けてはいないのだ。

透明だから軽んじられることが多いのに。



「名前も教えてもらえなかったのに、その後入学式の式典でリリス学園長が「私の娘よ〜」って叫んだのが二度目の邂逅と。それでファンクラブ一号かあ………すごいわ」


そう呟く桃ちゃんを引き連れて戦場に赴いた。


ずっしり重い魔導一眼レフを抱え直した。

もう片方の手にはハンド録画魔導カメラ。

友にはスマフォを託す。

脚立を用意しなかったことを後悔した。切実に。


「写真は神の一瞬。動画は神の奇跡。

私の網膜には神話が焼き付き紡がれる!!」


「あ。空隙教諭だ!」


壇上には式典を仕切る教諭の姿が見える。

高々と星見祭の後夜祭を宣言し、垂れ幕の向こうを指差す。


そこから躍り出たのは。


チャコールグレーの軍隊服を着込んだ綺羅びやかな集団だった。

威圧と顔面偏差値。オーラが凄まじい。

元レジオン団の筋骨隆々な面々。元セルクル団のたおやかな足運びに追随して現れたのは雷クラスの面々だった。

その顔は凛々しく観客を射殺すかのような圧があった。

エリートクラスの皆が登壇。

クラス全員の生徒会入りなど未だかつてあっただろうか。


どよめきと歓声に式典会場は震えていた。


畏怖とも羨望とも呼べる集団が割れ躍り出たのは。

神話そのものだった。


 役員と同じチャコールグレーの軍隊服を姫騎士風にアレンジされた短パンに長いマントが風にはためいている。

胸元の虹色のブローチがキラリと光る。

その(かんばせ)は清らかな中に情熱を秘めて発光していた。

卵型の美しい形をふわふわの蜂蜜色ともシダーとも呼べる絶妙な色合いのボブ髪が絹の滝のように彩る。

瞳は落ち着いたへーゼルアイだ。

この多民族国家の幽玄異郷では目立たない部類の瞳の色。

でも彼女の瞳は輝きが虹のようなのだ。

その光に吸い寄せられるように身体は動いた。


奉は知らず知らずのうちにどんどんステージに近づく。この時自身のギフトに感謝した。透明(クリア)。万歳。

彼女は語った。

新体制の組織を見守ってほしいと。

皆で創り上げる学園にしたいと。

皆が主役で自身はその代表で象徴でしかないと。


坩堝学園(るつぼアカデミー)は真の理想と渇望を溶かし合う場所を取り戻しました!!

皆さんが成し遂げたのです!感謝します!ありがとう!!

るつぼアカデミー万歳!!」



「聖女………様」

「あ。ばか。それは言わない掟っ………」

「あ」


天から雷が走った。

リリス学園長が空に向かって紫紺の光を放った。


「繰り返します。

《僭越ながら勝手に呼んではいけないあの天の秘匿》を口に出してはいけません。

天罰が落ちます。

リリス学園長がバリアを張りましたが学園外では決して口に出してはいけません。死にます。

繰り返します。

《僭越ながら勝手に呼んではいけないあの天の秘匿》を口には出さないでください。思想は自由です。でも決して口に出してはいけません。神は見ています。繰り返しますーーー」


そのアナウンスがサイレンのように鳴り響くのを聞いたのが最後に。



奉は意識を失った。


「カメラ!?神の奇跡は?!無事なの!?」

「起きたわよ〜この子で最後〜」


叫びながら飛び起きた。

両手にはしっかり無傷なカメラ。

中身も奇跡的に無事だった。


養護室のおばあちゃんが衝立からひょっこり顔を出して消えた。


「あ………!奉子(たてまつりこ)ちゃん!!

起きた?大丈夫?」


私は死んだらしい。

目覚めたら聖女りんがいたのだから。

もう口にはしない。

この世界で《聖女》を決めるのは神だけなのだから。

私たち下々が軽々しく新たな聖女を名指ししてはいけないのだ。


「びっくりしたよね?

観客席にね?百は超えるピンポイント雷が落ちたんだって?お母様が弱めてくれて良かったあ………。

幽玄異郷はやっぱり不思議なところだね〜。

大丈夫?飴ちゃんいる?」


「りん様………」


感動で言葉は出なかった。


「また会えたのがこんな部屋なんて。

災難だったね………。

なんか良くある事故らしいとは聞いたけど。

澪ちゃんが心配してたんだよ奉子ちゃん。

あ。今度あったらね。連絡先をこうかんしーーー」


彼女が魔導端末を取り出したのが見えた瞬間、私は飛び起きた。


「推しと密に連絡取れるのは解釈違いです〜!!

ごめんなさい〜!」

「え?」


推しの供給過多は死だ。

私は泣きながら逃走した。

後で養護室のおばあちゃんにしこたま怒られた。


私は奉子(たてまつりこ)

名は親が付けてくれたけどりん様が呼ぶからまた名付け直した。仮名は捨てた。未練はない。

でもやはり呼びづらいからみな変わらず《ほっちゃん》だ。

私は巫女。

心の中でしか呼べない聖女りん様を信仰する巫女。


この身がくちても邁進するつもりだけど私が倒れるとりん様が心配するからもう危険は冒さない。


澪さんとはお友達になった。

りん様が「私初めて振られちゃったの………」と落ち込んでいてクラスが騒然とした話をされた。


私が原因と聞いた瞬間の澪さんの殺意には縮み上がったけど、この胸の丈と奇跡の品を共有したら感動してくれた。


「私は隣で。

奉子は外から。あの方の覇道を見守り尽くそう!同士よ」

「はい!!私は奉子(たてまつりこ)です!!

りん様が呼んでくれた瞬間から!」

「君は最初から奉子だろ?」


澪さんが不思議そうに首を傾げた。

その仕草がりん様にそっくりだ。仲良しは似るのだろう。



でも。


「まさか私が意識を失った後。そんなことがあったなんて」

「覇道には試練が付き物なのだよ。

私達が一年かけて支えるがな?」

「生徒会長(仮)かあ………」



まさか。

生徒会長の就任が(仮)になるなど誰が想像していただろうか。


この後私が撮った写真。

私に落ちた白い閃光が瞳に映り込んだりん様の驚いた顔が美しい1枚。

それが《私の秘匿様》のタイトルで大賞を取るのはまだ先の話である。

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