星見祭二日目 11.生徒会役員特典
「りん様!笑ってくださいまし!
笑った状態を保たないと化粧がよれるわ………。
肌つるつる………。これは生かしてラメを多めに。
瞼が重い?まつ毛が重くなるほどの大きい目を恨みなさい!!
笑顔が硬い!笑顔は《にこやか、品よく、たおやかに》ですわよ!!
苦笑いではないの!!女神様の笑顔よ!」
「は………はい〜」
りんの背後には鞭を持ってニコニコするイーテディ。
笑顔が怖い。目が笑っていないから。
淑女サークルにメイキャップの指示をするセルクル団長改め生徒会副会長イーテディは檄を飛ばしている。
午前中の聖母のような優しさはどこにいったのか。
半端物への慈愛は。
不完全の美しさを昼間に語り合ったばかりなのに。
背後ではさっきまで女装していた騎士達が完璧な騎士として佇んでいた。
誤解はないように言いたい。
鞭打たれてはいない。
寧ろ鞭はしなる音が怖いのだ。
当たる痛みはない。
ピシャッて音が怖い。
「上に立つものは《表で》完璧にするための努力は死ぬ気で。
息抜きに怠惰は許されてもそこは区別ですわ」
ごもっとも過ぎて反論はしないのが《元いい子》のりんである。
彼女が鞭を振るう姿をレジオン団長改め生徒会副会長スレアがニコニコ眺めている。
その瞳は嬉々として口元はニンマリが正しい。
彼に文句を言えないのはちゃんと団員に指示をだし教員と協議しながらもイーテディをウットリ見ているから。
仕事出来る視線だけサボり魔は叱られないのが世の常だ。
「りん君。これ追加のセリフ。
コンマ一秒待つから覚えて。はい。発声練習」
「はい〜」
レジオン団文官改め生徒会筆頭会計書記官となったガンザ先輩からはまた大量の書類が手渡された。
たぶん坩堝学園史上初めての異例中の異例の《新入生の生徒会長就任式兼ステラ争奪表彰式》が急ピッチで準備されていた。
時間はない。
わかっている。
責任感もある。
速読得意だ。
でもそれを淀みなく演説しろはまた違う分野だ。
りんは泣きたくなった。
「りん様!!泣かない!」
「ひゃい」
「りん君《え………と。》は言わない!!ハキハキと!!
立つだけとは理由が違うんだ!気合入れろ!」
「ひゃい!はい〜」
《後夜祭》の舞台裏。
どの世界でも裏というのは知られざる過酷な準備や下調べとリハーサルが必要不可欠なことはりんも知っている。
知っていることと出来ることはまた別だ。
「ひ〜やることいっぱい〜お腹すいたあ〜」
「「流動食!!」」
「ぁ゙り゙がどぅ゙ござぃ゙ま゙ず………」
ストロー付きのゼリーを押し込まれた。
時間ない化粧崩れる。
仕方ないとはいえこれが一番りんには辛かった。
「うわ。スパルタ教育の最中だったか」
「りん様………お邪魔でしたね………失礼します………。
雄姿はしっかりと録画しますので………」
「「「「「お邪魔しました」」」」」
「あ!見捨てないで!!私を置いて行かないで〜」
生徒会控室テントに顔を出した岸と澪を筆頭にした雷クラスが空気を察知して出ていこうとするのをりんは横目で必死に止めた。
でも物理的に止めたのはレジオン団セルクル団の団員改め、生徒会役員の平役員の方々だった。
控室テントの出入り口は一斉に占拠された。
すごい統率力だった。
「「皆様も準備を!!
貴方達もりん生徒会長の側近でしょうが!!」」
その言葉に面食らったのはりんも始め、岸と澪、クラスの面々だ。
祭りでは確かに《ポレモス》のために協力した。
《IRISアイリス団》立ち上げの立役者だ。雷クラスの皆が。
闘いは猿田、岸、星が活躍したのは勿論だったけど。
アンテと琥珀にも演説内容の助言は受けたからずっと魔導端末で連絡は取ってたし澪達棄権組の女の子達も応援合戦で貢献してくれた。
でも。
それと生徒会運営に皆が係るのと何が関係あるだろうか。
りんですらキョトンだ。
「え?側近?」
「いやいや俺等立ち上げは協力したけども………」
「りんのサポートはレジオンとセルクルの皆様が十分………」
逃げ腰になる面々の動きを精神的に止めたのはバリトンボイスだった。
「ほう………。《神輿は担いだが最後は手放す》か。
雷クラスの結束はそんなものか」
「ま………真神教諭?!」
いつの間にかいた真神教諭は本日は普通の教諭服だった。
でも正式な式典らしくいつもよりも襟ボタンが多めで金色に輝いていた。
「貴様ら。昨夜の金剛の宮の《露天風呂》は堪能したか?」
「え?まあ………素晴らしかったです?」
「最の高」
「「今夜もはいるよな〜」」
温泉の感想?
そう思ったのはここまでだった。
「俺は説明したはずだがな。
《ここは「生徒会役員特典」である》と。
まさか特典をただで使ってトンズラする気はないだろうな?」
固まった。
周りは着々と準備が進んでいる。
動き回る周りの時間に置いていかれた気がした。
「え?りんっちが「生徒会会長」になったから、うちらも友達特典で………」
「誰がそんなことを言った?」
「りんが………「みんなで温泉嬉しい」って………あ」
「はい………ちゃった。うちら」
「聞いた。確かに聞いた。《役員特典》だって真神先生言ってた」
「己の記憶力の良さが悔やまれる………」
「これは一本取られたな」
「あちゃ………そこまで考える余裕なかったよ。あの時は」
「「「「「「それな」」」」」」
雷クラスがみなで頷きあっているけど、琥珀が異議ありと叫びながら手を挙げた。
勇者だ。
「真神卿は仰りました!!
《こいつらに任せてみろ?学園運営が破綻するわ!》と。
矛盾してます!!」
「そうだそうだ!」「理不尽眼鏡!」「俺等を馬鹿にしといて今更使い倒そうって腹か!!」「陰湿!」
ブーブー言う雷クラスの面々のをチラッと見てから顎でスレア、イーテディ、ガンザ先輩を指し示した。
「だから《補佐兼教育係》は手配したろ。働け」
「「「「「「「詐欺だあ〜〜〜」」」」」」」
絶叫とともに捕獲された皆の制服がどんどんひん剥かれていき生徒会役員制服に変えられていく。
それらは衝立のなかで悲鳴と共に服が乱舞する様しか見えないようになっている。
男はレジオン団が、女はセルクル団が。
もう《差別ではなく区別》の動きが成されている。素晴らしい仕事ぶりだった。
皆の悲鳴が木霊する。
笑ってはいけないけど思わずりんは笑ってしまった。
「りん!」
「りん様!!」
「りんっち!」
「りん………ちゃん!」
「佐藤!」
「りんちゃん!」
「りんさん!」
「皆ごめん〜ありがと〜!!
皆も一緒!!嬉しいよ〜〜」
「「「「「「「こっちもだよこのやろう〜〜」」」」」」」
「やるなら最初から囀るな囂しい………」
「教育しがいのある新役員だこと。
真神教諭の日頃の教育の賜物ですのね?」
イーテディがクスクス笑いながら扇で口元を覆う。
さっきの鞭は扇に可変するものなのだ。
「名誉ある役員をここまで拒否するものも珍しいな」
スレアが呆れつつも自身の生徒会制服に着替える。
「仕方ないよ。
彼等は《名誉》のために革命を起こしたんじゃないのさ。
まあ。あれを使えるようにするのが僕等の仕事だね。
でも………」
ガンザがチラりとイーテディを横目で見た。
「後の問題は………」
イーテディがチラりと真神教諭を見上げた。
「暗黙のルールはいかがなさるおつもり?」
「それは一年かけて扱けばどうにかなる。
ならぬなら《退任》だ。心得ておけ」
「「「承知しました。生徒会顧問真神教諭」」」
「真神教諭が顧問なの?!」
「地獄だ!!」
綺羅びやかな後夜祭の裏側は高度な秘匿魔術が施されたテントの中で騒がしくもひっそり準備は整ったのだった。




