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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?〜全ての虐待児に捧げる幸せな話〜  作者: ユメミ


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星見祭二日目 6.炉度ろーどについて


「なるほど………。

だから毎年新入生がここ登ってこないんだ。

普通の魔術初心者にはここは過酷なのか………。

そりゃなかなか見学にも来ないはずだね。

うちは《狂乱の宴》にも出ない引きこもりだから新入生のリサーチが足りなかったなあ………。

強者を条件にはしてないのに見学にも来ないのはおかしいとは思ってたんだよね………」


 四郎先輩は渋い顔をして顎に手を添えて「むむむ………」と唸りながらブツブツとつぶやいている。

独り言を言うのは彼の癖らしい。

医務室で物静かにサチ婆の助手をしていた時と印象が少し違う。

確かに恥ずかしがりやの四郎先輩が星見祭のあの鬼ごっこに出ている図は浮かばない。

そこを聞いたらそもそも参加資格もないのだと。


「同好会は本来「非公認団体」。

存在は認められても表立った勧誘やイベント参加は正規サークルとは一線を画すよ。

仕方ないさ。部費も支給されないからね。

支給されないから《実績義務》もないから気楽ではあるんだけどね………」


それに普通の体力のりん達が螺旋階段を登る過酷さで悩んでいた事実にも驚いていた。


「本当に用があったら二・三時間くらい登るかなと思ってたよ。僕の友達も最初は一時間くらいかけて登って僕を探しに来てくれたんだ」


「それは………いいお友達ですね」

「うん。大切な友達なんだ」


うふふとりんと四郎先輩で和やかに会話に花を咲かせていると、背後の岸と澪は唸っている。


「途中で挫ける長さですね………。

私ならりん様がいらっしゃるならどんなに時間がかかろうとも熟しますが」

「修業だと思えば………やらなくもないか?」

「天辺に《何があるか》分かれば行く気にもなりますが。

ただ《鐘を見よう》とか《幽霊を探そう》くらいの娯楽気分だとしたら。一時間で引き返しますね。

放課後も有限ですしーーー」


そこで四郎先輩の目がよりまん丸になった。

マスク越しなのに口元に手を当て慄いている。


「目的がないと………?

え?!そもそも。

この時計台の上が《現し世研究同好会》の部室があるって知らない?!」


「「「知らないですね」」」


 たぶんこれが一番の四郎先輩の驚きだったみたいだ。

壊滅的にプロデュース力がない。

同好会は魔導端末アプリの《サークル位置情報》には表示されないみたいだ。

今回四郎先輩に遭遇しなかったら存在すら知らないままだったろう。


「看板もありませんし………」


「看板?!あ………看板かあ………。

あれは部屋の手前に設置が義務の規定だから。

………外に掲げる発想がなかったな。


規定違反にならないかな………。

あぁ………研究に没頭すると周りを見ない癖。ヴォルグくんにいつも怒られるんだよ………。

まさかサークル勧誘ですらスタートラインに立ってなかったなんて………。

好きを探究するのは苦じゃないけど発表と目立つことは苦手なんだよな………」


しばらく黙り込んで導き出した答えは一つだ。

りんは深く頷き四郎先輩と握手した。彼は黒い皮の手袋をしていたからキュッと音がなった。

気恥ずかしいのかすぐにパッと離してペコペコされてしまった。


「ちょっと生徒会で規定分かりやすく変えましょう。

融通きくように。

弱小団体の看板の存在すら気づいてもらえないとか悲劇です。

真面目に規定守った人が損するのはやめましょう。

議案通します。必ず」


りんが胸を張り宣言した。

生徒の悩みに寄り添う。それこそ生徒会である。


「お願いします。生徒会長さん」

「いえいえ。仕事ですから気になさらず」


四郎先輩が申し訳なさそうにお辞儀する。

お互いにペコペコしてると何かの選挙演説じみてきた。


「真面目か」

「真面目な改善方法でしたね」


四郎さんはこの《現し世研究同好会》を立ち上げて実質一人でいたらしい。

たまに来るお友達に研究を手伝ってもらったりすることはあっても孤独に過ごしていたと。


「ひとりぼっち………」

「孤立無援かあ………」

「孤独でも好きを突き通す。素晴らしい精神ですね」


その強靭な精神を褒め称えたかった。



「あ。そうか。君等は帰宅するもんね。

訪問時間、滞在時間。

下校時間も考慮しなきゃだったのか………」


四郎先輩は寮暮らしなのだけど、研究が長引くと帰宅しなくてもいいのが《永久資格者》の特権でもあるらしい。



「四郎先輩は翼があるから大丈夫なんですか?」

「ん?翼はね、かさばるんだよ。

普段は面倒くさいから。こうかな」


四郎は黒い手袋に覆われた指先を擦った。

パチン。

翡翠色の光が閃光と共に爆ぜた瞬間に四郎の姿が消えた。

そして二秒後また同じ所に戻った。


ーーーわ!手品みたい!


当たり前だが魔術だ。

でも詠唱もないとただのイリュージョンのように鮮やかなのだ。


おお〜と拍手をして歓声を三人があげると四郎先輩は恥ずかしそうに頬をかいた。


「これが転移魔術の高位《姿隠し(どろん)》だよ。

これすれば駆け上がるよりは速いしね。

本来ある《転移紋様》を地面に時間かけて書かなくても出来るんだ」


「あ!前に御嶽さんがした《転移魔術》か?!

俺等を幽玄異郷に転移させたあの!!」


岸が指さして叫んだ。

りんと岸と孤児院の子供達を孤児院ごと現し世から幽玄異郷に転移させたあの指パッチンだ。


「ん?他者や建物への干渉はまた違う免許が必要だね。まあ………同じものかな」 


「便利………」

「俺もしたいな。瞬間移動はロマンだよな」

「戦闘にも使えそうですね?!ダンジョンで強制離脱したい時とか………」


三人で羨ましそうに見つめるからか四郎先輩がこまったような顔をした。



「でもこれは《炉度(ロード)》で段階(ランク)が5伍以上で受ける試験があるんだ。

それに合格しないで使うと違法なんだよ。

一年生のうちは………まだ早いかな?

大抵合格出来ない人隠れてしたりすると、爆散するんだ。


死にはしないけど………。

変な転移魔術でバラバラになった身体は繋ぐと跡が残っちゃうんだよね。

お勧めはしない」


「ば?ばらばら?」


さも当たり前のようにサラリと流された会話の中に不穏な気配を感じて聞き返してしまった。



「そ。ばらばら。爆散とも言うけど。

時空の歪みに引きちぎられるんだ。

痛くないのがまた怖いんだよ。理を外れてて。

しかもその傷跡。呪詛のように傷跡の上に《どろんどろんどろんどろん》って紋様が浮かぶんだ。

ただの傷なら修業傷と誤魔化せるけど。

この傷は誤魔化せないから格好悪いんだよ。

嫌だろ?一生あだ名が《傷跡どろん》は」


「「「嫌ですね」」」


《爆散》と聞いたあたりからブルブル震える怖い話だったけど、イマイチ話が頭に入らないのは多分専門用語があるからだろう。


「ろーど………?」

「ランク………?」

それは岸も同じだったみたいだ。

似たような用語でつまずいていた。


「あ。二人はまだラング階級を知りません!四郎先輩!!」


澪がビシリと手を挙げると四郎先輩はキョトンとした。

その後笑った。

ケタケタと。


「ははッ………ごめんごめん。

現し世人類には《常識》は通用しないんだった。

君等があまりに立派にここに順応してるから忘れそうになったよ」


まだ声変わり前の高めのボーイソプラノだ。

コロコロした笑い声が可愛らしくしばらく聞き入っていると四郎先輩はまた指先をパチンと鳴らす。


空中に浮かぶホワイトボードが具現化した。


《炉度ろーど 段階ランクについて》とある。


01 壱:フロワ・フェール(Froid Fer)


02 弐:ティエド・フレイム(Tiède Flame)


03 参:ヴィエイ・アルジャン(Vieil Argent)


【中位:液体のリキッド・フェーズ


04 肆:ルージュ・ショ(Rouge Chaud)


05 伍:フリュイド・ドール(Fluide d'Or)


06 陸:エブルイシオン(Ébullition)


【上位:気体・光のガス・ライト・フェーズ


07 漆:ブラン・エクラ(Blanc Éclat)


08 捌:シュブリマシオン(Sublimation)


【頂位:プラズマのプラズマ・フェーズ

09 玖:エトワール・ノワール(Étoile Noire)


10 拾:グラン・ノヴァ(Grand Nova)


と記されていた。


「この幽玄異郷は《炉度ろーど社会》と思ってくれていい。


力が権力だし、力が善だ。

何かを成して主張したいならまず《力》がないと聞いてもらえないよ。


その力を示すのがランク。段階とも階段とも言う。

現し世では《学力》や《学歴》と思ってもらうといいかな。

現し世と違うのは金の力、地位の力では買えないもの。

最も平等に公平に残酷に力を示してくる《指針》になるもの。


それぞれ試験がある。

そのラングを査定する機関から委託された教諭が学園ではその勲章を授与する決まりになっているんだ」


「この坩堝学園でも成績として反映される先に《炉度ろーど》の基準があると思って。

いい成績を取る目的の先に《炉度ラングが上がるか》を考えて行く必要がある。

様々な行事で成績を上げることもその近道になるよ」


と四郎先輩はここまでわからない所はないかと聞いてきた。

もう普通の授業だ。

「わからないところもわからない」と岸が言うとまた笑った。

四郎先輩はよく笑う人みたいだ。

人好きする顔をしていた。


「まず………一番下のランク。

01 壱:フロワ・フェール(Froid Fer)

冷たい鉄。魔素が眠る静止の状態だね。赤ん坊がこれだ。


次のランク。

02 弐:ティエド・フレイム(Tiède Flame)

微熱の炎。魔素が芽吹き、内側から熱を帯び始めた状態かな。

大抵は入学して魔素適性検査でこの段階かな。

君等新入生の平均と思ってくれていいよ。


03 参:ヴィエイ・アルジャン(Vieil Argent)

古銀(燻銀)。熱を蓄え、深みのある輝きを持ち始めた一般生徒の到達点かな。

他の学校ならここが卒業ラインかな。


【中位:液体のリキッド・フェーズ】に行くと少しラングの様相が変わる。

フェーズが代わるとも言うかな。高みの域に入る」


スラスラとりん達を見ながら解説する姿は先生のように言葉が淀みない。

さっきまでの恥ずかしがりやな四郎先輩とは違う人のようだ。


「得意なことでは人が変わるタイプか?」

「うん。大人みたいに話すよね」

「永久資格者とはこういう風格なのですね………」


りんも岸も澪も感心して頷くのみになる。



「次は

04 :ルージュ・ショ(Rouge Chaud)だね。

赤熱。魔素が外に漏れ出し、暗がりで赤く光る攻撃的な段階。これは《オーラ》として放出させる人もいるね。

覇気と呼ばれるものだ。


05 伍:フリュイド・ドール(Fluide d'Or)

流動する金。物質が溶け、柔軟さと強靭さを併せ持つ。ここが坩堝学園の《卒業資格者ライン》かな。


ここに行き着くとやっと《姿隠し(どろん)》の試験が受けられる。落ちても使えなくても社会生活は成り立つさ。

現し世の車の免許みたいなものと思って。

他者や建物への干渉は例えるなら大型車の免許だ。少し質が変わるんだ。


06 陸:エブルイシオン(Ébullition)

沸騰。激しく泡立ち、魔素が暴走寸前のエネルギーを放出する。

ここが《坩堝学園教諭の採用ライン》かな。

一般的に高位炉度ロード取得者とされるよ。


様々な特権的職業や名誉。この域でないと参加できない会議とかある。

貴族の当主はここの段階じゃないと家督を継げない。なんて法律がある」


職業選択にも影響するみたいだ。


「魔王倒す旅に出たら魔物倒してレベルが上がるみたいではないんだな?」


と岸が呟くと四郎先輩はクスリと笑う。


「そんな最古のレベル上げみたいなものはないよ。

修業やダンジョンの制覇特典を考慮された昇級試験はあっても。


すごいモンスター倒したらすぐ段階が上がるかはまたべつなんだ」


「「「へぇ………」」」  


一息ついたように四郎先輩は


ここからはあまり学生の君達には馴染みのない世界だからサラリと名称だけね。とニコニコ笑いながらボードの文字を書き換えた。

覚えなくてもまた分からなかったら聞いてとも話す。


まだまだ講義は続く。

りんはワクワクしながらホワイトボードを見つめた。




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