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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?〜全ての虐待児に捧げる幸せな話〜  作者: ユメミ


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星見祭二日目 4.人間が一番怖いんだよ?


 「出ました」

「見たんだよ………」


 廊下に出るとブルブル震えている岸と澪が佇んでいた。

恐怖は違う恐怖を上回ると薄まるらしい。


 二人は最初こそ面食らったけど《《夢の世界のティータイム中》の教室にすぐ順応した。

オネェ様方に温かい紅茶を振る舞われ奴隷とかした騎士に菓子をサーブされ二人の震えは落ち着いた。

恐怖心で目の前の違和感が仕事をしないらしい。


二人曰く「りんが怖がらないなら大丈夫」と言う。

それだと二人の恐怖はりんにかかっている。

荷が重い。


「私の安全基準も《野生の勘》だから。

あまり二人の指針にはならないと思うなあ………」


山では生きるか死ぬかが遊んでいても突如くる。

崖しかり野生動物しかり。

その恐怖と比べてしまうとりんは大抵のことはあまり怖くない。

さっきのオネェ様方に抱いた恐怖はなんだろうか。

しばし考えてしまう。

ハッとした。

《触れてはいけない深淵を見た》感覚だ。

カップルの喧嘩に遭遇した時のような。

だから命の危機ではなかった。

どちらかと言うと《固定概念の崩壊》を恐れる恐怖だ。


「俺等は《護衛対象を守れるか》で判断しがちだから極端だ。騎士の基準だからりんより危険察知が早いと思う」

「言いたくはないですが。

騎士教育を受ければ受けるほど情けない事に《ビビリ》になります。

危険は《肌》で感じないと死ぬのが戦場なのです!

けっして《怖がり》というわけではありません!!」


二人とも力説する。

りんとはぐれてしまったことがかなりショックだったみたいだ。


「何を見たの?」


「「時計台の幽霊だよ(です)!!」」


二人の恐怖は幽霊だった。

それは目の前の違和感しかない女装騎士とピンクの薔薇柄エプロンのスレア団長よりも怖いものらしい。


「幽霊って………怖い?」

「「怖いですよ!!」」

 

りんが首を傾げるとそのりんを恐怖の対象みたいに見る二人は震えるタイミングまでシンクロしていた。


「物理攻撃してこないよね?あれは霧みたいな負のエネルギーだから。


こっちが白けて見てると舌打ちしながら逃げるよね?

よくトイレにいるおじさんなんかさ。

私が女の子じゃないと勘違いして嫌な顔しながら便座から飛び出すの。

女子トイレだよ?失礼なんだよね………」


「「見たことあるの?!」」


岸と澪はさっきからシンクロする。

案外二人は反発するほど似たもの同士なのかもしれない。



「あ………。言ったことなかったかも。

ほら。現し世で「幽霊見える」なんて孤児の子が言うとするでしょ?

頭おかしい判定。

精神病院送りだよ。

ごめんね岸。よく岸は背中に女の子の生霊背おってたの黙ってて」


「お………おい。嘘だよな?」


「あ。坩堝学園来てからはよく騎士っぽいオジサマに小突かれてるよ?強くなりそうって。

岸モテモテだね?」


「りん………お前。ジョークが上手いな………はは………はは」


岸の頬がひくついている。


沈黙が流れた。

イーテディ団長が静かに音もなくお茶を傾けた。

指の先まで洗練されていた。

周りな男達は皆が真っ青だ。

じっくり時間をかけてりんは虚無の顔を作った。


岸と澪がガタガタと震えだした。

先輩の騎士は泣きそうだ。

りんがニコリとした。


「ね?信じがたいでしょ?

無駄に怖がらせるだけだからチビ達にも言ってないの。

秘密にしてね?」


りんは口に指を添えてしっ………と音を出した。

何故か皆が赤らんだ。

ガタガタッ………。

騎士の一人が脛を痛めたらしい。

イーテディ団長に嫌味を言った自業自得騎士の先輩だ。

痛そうに蹲るのを団長二人がジト目で見ている。

特にイーテディ団長の視線が呆れていた。


「りん様は時折何もない空を見上げてニッコリしたり、虚無のお顔をされるのも神々しく美しいと思っておりましたが………。

何か哲学的なことをお考えなんだろうと………。

まさか。まさか………」


ニコリ。

りんは笑った。

これ以上怖がらせるのは可哀想だ。


「うそうそ!!

ほらね?大抵怖い話が膨らんで恐怖心が膨らむのが怪談の種明かしだよ。

ね?そう思うと《思い込み》が一番怖い。

人間が一番怖いんだよ?


私。………今凄く不気味に見えなかった?」


うふふっと笑うと途端に部屋の空気が緩んだ。


「わ………。まじか。りんはさすが説明上手だな!!

なんかしっかり見てもいないし確かめてもないのに恐がるの馬鹿らしいや!」


「りん様は可憐さも凛々しさも併せ持つのにまさかのミステリアスまで?!

感服いたしました!!」


「りん様は女優ね………」

「俺も少しヒヤヒヤした。

流石は魅せ方を分かってるなあ………ははッ」


イーテディ団長に少しくっついていたスレア団長がから笑いしている。


「話は終わり!!」


りんはパンッと手を叩いてから席を立った。


「二人が見たものを確かめにいこ?

見て調べて駄目ならまた皆で逃げようよ」


「ははッ!だな!」

「さすがりん様!!」


そしてりん達は団長達とオネェ様方と悪戯なオジサマ騎士に見送られて時計台に向かったのだ。

扉を閉める瞬間、騎士のオジサマにウィンクされたことは誰にも秘密だ。その人はゲシゲシと騎士の先輩を蹴っていた。

透明なのに器用である。


「あれ。俺さっきまで肩が重かったんだよな。

今フッと軽くなったわ!!」

「貴様は単純だな………」


岸の肩をバシバシ叩く澪を眺めながらりんは後ろを振り返った。


ーーー鍛えがいがある軟弱者を見つけたわ。か。

ここの幽霊。魔術使えるみたいで物理攻撃できるの凄いなあ。

これであの先輩騎士へのお仕置きになるかもね。


 りんはイーテディ団長もりんと同じ所を見ていたことも黙っていようと思った。

たぶん。

黒い熊さんが怖がりなのかもしれない。

彼は騎士の中の騎士だから。


魔導端末のアプリを起動し目的地をタップする。

キュイ………ンと目的地の赤い旗がヒラヒラたなびいた。


「《時計台の裏物置(はかば)》か。

ナニを見つけるんだろ?一生忘れない出会いをするかもね?」


「りんはポジティブだよな」

「その前向きな所がりん様の良いところですね!」


ワクワクしながらりんは歩き出した。

心なしかりんの魔導端末の現在地の点も跳ねたような気がした。


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