さよならを知った王子様
泣き声がする。
押し殺したようなすすり泣き。
顔は見えない。
だけど涙だけはポタポタと滴っているのがわかる。
暗い。
暗く誰もいない場所で一人で泣いている女の子。
「………たすけて………お….…ま」
かすれて良く聞こえない。
「助けて………王子様」
手を伸ばす。
空気を掴むように手応えがない。
何度も何度も手を伸ばすのに届かない。
ーーー助けるから!!
りんは力の限り叫ぶのに
喉からは空気の音しかしない。
一面に白い花が咲いている。
鈴のように連なり咲く可憐な花。
甘い香りが立ち込める。
途端に花畑が白く発光して暗闇を打ち消した。
ーーー私が王子様になるから!!
お願い、泣かないでーーー。
そこで意識は途切れる。
りんは、はっと息を吸い込んだ。
心臓の音が耳に響く。
伸ばしていた手に重みが加わる。
そっと下ろすと布の感触がした。
重いまぶたを開けた瞬間、白い無機質な光が溢れた。
断続的な機械音、
消毒液の匂い。
首を動かすとピンク色の頭頂部が見えた。
「つむじ………二つある」
岸の肩が跳ねた。
ゆっくり顔をあげる。
目尻が赤い。
「おまえ………最初に言うこと………それか?」
りんは笑った。
脇腹が痛い。
見上げると岸は顔を歪ませて歯を食いしばっている。
「もえちゃんたちは?」
「ッ………」
「わたしが殴った人たちは?」
「あんなやつら!!どうでもいいだろ?!」
「無事なの?」
「おまえが………無事なことが………奇跡なんだぞ」
「そっか、無事だね。よかった」
岸が怪訝そうな顔をする。
「もえちゃんたちとあの人達が無事じゃなかったら。
岸の親御さんがこんな個室用意してくれるはずないもん」
苦笑いすると岸の喉がなった。
口が戦慄き、どんどん顔は強張っていく。
「ッ………そんなことない!親はーー」
「ごめんね。明日には大部屋に移してもらうね?」
「おれの!!俺の資産だ……気にすることーーー」
「ちがうよ」
岸の腕をそっと擦った。
岸は怪我一つないのに、りんよりも辛く痛そうな顔していた。
「今までがおかしかったんだよ」
「俺は関係ある。俺がついていかなかったからだ」
「岸は関係ないよ」
岸の瞳が揺れた。
ーーーーあぁ。やっぱり傷つけた。
そうは思ってももう止まれなかった。
一線を越えたのだ。
「義理堅い岸は素敵だし、大丈夫だーーー」
「おい!」
「岸。今の学園はいい子ばかりだよ。岸ならーーー」
「りん!」
「岸ーーー」
「やめろ」
りんの腕を掴んで岸は項垂れた。
口調は雑だし荒いのに、掴む力は震えるほど優しい。
「やめてくれ………たのむ………」
岸のピンクの頭頂部をりんは見つめた。
やっぱりつむじが二つあった。
長い期間過ごしたのに。
今まで知らなかったのに。
それに気づいてしまうこの状況はやっぱり歪なのだ。
「岸、ありがとう。私は大丈夫だよ。
どうとでもなるし、する。心配しないで」
「だからさ」
岸の震える肩を叩く。
「もうーーーー共犯にならなくていいよ」
手繰り寄せたコードの先のボタンを押す。
看護士さんに「面会謝絶で」と伝えると岸は更に顔を顰めた。
「ばいばい、岸」
重い腕をそっと振る。
ーーーー大丈夫。笑えてる。
ここで暴れない岸はやっぱり真面目で優しいなとりんは思った。
「ありがとう、岸」
そっと閉じる白い扉をりんは何時までも見つめていた。
りんは岸も守りたかった。
だから隣にはいられなかった。
大切だから一緒にいたかった。
守るために離れなければならないことを
りんは思い知らされた。




