表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様になりたい私、勇者候補になりました!?〜全ての虐待児に捧げる幸せな話〜  作者: ユメミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/101

エピソードZERO 8.生きろ親ならば〜666法廷の壊滅〜

※トラウマ描写があります。

作者はフラッシュバックを起こして吐きながらも書きました。

魂削った自覚があります。

心配な方は見ないことをお勧めします。 


これは、陽光の下に生きる少女が、決して知ることのない「夜」の記録。

彼女がその名を知ることも、その痛みを分かつことも許されない。

秩序が崩壊し、倫理が血の海に沈んだ法廷で、何が産声をあげたのか。

――ここから先は、本編の「彼女」を愛する者には劇薬となるだろう。


注意。虐待描写の匂わせがあります。

血なまぐさいのが苦手な方は見ないことを勧めます。



 「いや〜〜!まさか。真神卿自ら出向いていただけるなんて!!粘ってみるもんですな!!」


「………お時間頂きまして。ありがとうございます」


「なになに。もしかしたら未来の婿殿なんだ。畏まらずとも良いさ良いさ。うちには珍しくも五人の娘がいましてな?

皆が器量良しです。慎ましく男に尽くすように躾けましたから。

高位の殿方好みと存じます。

ははは!!全部娶ってくださっても良いのですよ?」


ーーー下衆が。


 真神は内心の罵倒を珍しく胸に留めながらも話を聞き流す。

情報は得た。

(いぬ)》は事前に送った。

あとは見届けるだけだ。

まさかこんなに早く即日裁判、即日処刑の日程が決まっているとは思わなかったのだ。

《デウス》と《モルガン》幽玄異郷の良家の代表。二つの家の告発の重さがこの期日の秘匿性と早さに現れている。


ーーー明日などと待っていたらリリス様の首がとっくに飛んでいた。


 その事に一瞬肝を冷やしながらも真神は脚を急いだ。

そろそろ結審の頃合いだ。

駒の仕事を見届けねばならなかった。

脚の短い妖怪族の脂ぎった貴族の男を気遣うこともなく、真神は音もなく歩く。



百目鬼どうめき 卿は、気が早くいらっしゃる。

私は《婚活市場(ラブバーゲン)》の舞踏会でお宅の姫君達と優先で踊るのをお約束したまで。

……………他を当たりましょうか。

過度な期待をさせては気の毒ですのでーーー」


「そんな!いけずなことおっしゃらず!


ほら!そこの第666号法廷ですよ!

あそこであの、三尊リリス・ヴェルミナが断罪されとるのです。

へへッ。女風情が《魔皇帝》の地位を蹴って道楽しとると噂。とうとう尻尾を出しましたなあ………女狐めがッ。

へへへ」


背後の妖怪の戯言は今はどうでも良かった。

目の前の法廷がどうなっているかだ。重要なのは。


ーーー耐えろ。ヴォルグ。虫唾が走りこいつを引き裂きたくとも耐えろ。

二人の生徒の人生が狂うのだ。

もしかしたら全員。

お前の嫌悪は捨て置け。


「入ります。貴方は待ちますか」

「婿殿ッ………こんな楽しそうな断罪を見逃すわけないじゃないですか?!」


「お好きにどうぞ。

………お気に召すかはわかりませんが」


 重々しい扉を開けた。

防音と秘匿の魔術はこの妖怪族の貴族の身分証明でパスしたらしい。最悪は砕き破ってやろうかと思っていた真神は安堵して踏み入れた。


 途端に強烈に香ったのは大量の血と胃液と汚物のすえた匂いだった。

噎せ返るほどの《罪悪》と《激痛》が立ち込めて見えるようだった。


思わず手の甲で鼻を抑える。

鼻が効きすぎると他の情報が入りづらくなる。

今それは避けたかった。


 その光景は異常を超えて戦場だった。

大勢の男が倒れていた。血と汚物に塗れ。

その中心で佇む女の後ろ姿を見て驚愕する。


「佐藤……………… りん………?」


 

見覚えのある制服。

二ーハイロングブーツ。

淡い蜂蜜色の綺麗にカールされた(・・・・・・・・・)髪。


だが。

振り向いてうっそりと微笑んだ瞳を見て真神は言葉を失った。いくら鼻を抑えようとも薫る甘い薫りは彼女そのものなのだから。

佐藤 りんには残り香すら香らないもの。

血塗れの中で一人身綺麗で佇む姿が異様なのに花のようだった。


「らん………?」


 その傍らで倒れている男と佇んで血だらけの大男。

法廷の《被告席》で硬い顔をしている女を一瞬で識別してから真神が駆け寄ったのは。


倒れていた《(いぬ)》だった。


伏見(ふしみ)

忠夫!目を開けろ。


どうしたんだ?情報は証言したのか?資料は見せたか?

この惨状はなんだ?!」


 抱え込み揺さぶるが意識がない。

血反吐を吐いたのか口元が真っ赤だ。

ただ周りの男達よりは出血が少ない。

脈を測ると安定はしていた。ひとまず命には別状がないことに安堵した。


「呼びかけは無駄だよ。真神………教諭。まだ目覚めない。

彼も《見たんだ》よ。

普通の人は《気が狂う》さ。

僕も彼にはなるべくぼかして薄めた。


だけど。彼たぶん底抜けに優しいだろ。《悲劇を感じやすい》。

最初に血を吐いたのは彼だ。

………しばらく。昏睡し続けてると思う」


「慎一………?!御嶽教諭。何故ここにいる?」


ここにいるはずのない慎一郎の存在に驚けばいいのか、姿に驚けば良いのかわからず途方に暮れる。

状況がわからないのだ。


厳かなほどの神聖さを誇るはずの法廷。

そこには秩序しかないはずだ。

それらが混沌としている。誰もが呻き誰もが地面に転がっている。

そこで血塗れながらも佇んでいる慎一郎もまた異質だった。


「召喚だよ。彼女がしたんだ。僕は《従魔》。

彼女の命令に逆らえない(・・・・・)


これでも必死に抵抗してみた。

………………この有様だけどさ」


 よく見ると慎一郎の真っ白なスーツが煤けて赤黒く染まっていた。血が滴っている。

下には血溜まり。慎一郎も血を吐いたらしい。

それにその強靭な肌を焼くほどダメージ。

そんな慎一郎を一瞥してりんの姿をしたらんは冷笑した。

口は微笑んでいる。

一見見ればりんそのもの(・・・・)だ。

でも違う。

りんは慎一郎をそんな目では見ないことを真神は知っているからだ。


「《従魔》ごときが。

一丁前に抵抗して抗おうなんてするから。

さらには私を止めようと《拘束》しようとしたのよ?

そりゃ。《神罰(メギド)》喰らうわよね?


………私は何もしてないわよ?そんな目で見ないで。

心外だわ」


 真神は目を見開く。

驚きと恐怖が同時にくると人間は言葉を失うらしい。

神罰(メギド)》は従魔が主の命令を違反した場合に浴びる《神の雷》だ。


なかなか目の当たりにはしない。

何故なら《従魔》は主に心酔し絶対服従だ。

操られない限り《抗う》など本来有り得ないのだ。


その惨状にも唖然とするが、今目の前の慎一郎の姿があり得なかったのだ。


慎一郎が雛ではない(・・・・・)状態で召喚された。

しかも成人の《成熟した姿》での召喚だ。

暴走もしていない。


それは。

それが意味するのは。

|神獣とのラング差が3以下であること。《・・・・・・・・・・・・・・・・・・》


ラング。

この幽玄異郷では《炉度(ロード)》の高さで人生がきまると思って良い。

高ければ高い程それは《神格》が高いのだ。

罪や罰にそれらは適応されないが、

多大なる権限、財、名誉。

世が世なら、《家柄》すらそのラングの高さで得ることが出来るのだ。


ーーー《炉度ロードのラングが陸6相当。

慎一郎はラングが玖9だぞ………。

新入生がブラン・エクラ(白炎)の等級だと?!


真神は総毛立ったを感じた。

それは規格外と呼ぶには化け物じみていたからだ。


ーーー14の小娘が坩堝学園教諭合格ラング相当?

しかもこいつは意識とはいえ現し世出身だ。

幽玄異郷の民として英才教育されたならともかく。


まだ炉度ロードの測定など二学期の終わり頃だ。

新入生など平均弐2 ラング。貴族の血筋で肆4ラングはあり得るだろう。

神獣の完全具現化………。佐藤 りんが成し遂げるには5年はかかると見越した。

それを………この《二重人格》の女が?成し遂げた………?


 真神がなんとか状況を整理している間にらんはひらりと裁判官の座る椅子に腰掛けた。

まるでそもそも自分の椅子かのように。

優雅に脚を組み替えてりんの顔で微笑んだ。


本来の主はいない。

下の床でのた打ち回っているのだから。



「この老害。

私が《りんのフリ》して大人しく証言してたら。

なんて言ったと思う?


「記録では証明は出来ません。

現し世の書類など意味を成さない。

日時、期間、相手の容姿が記憶に提示出来ないようなら。

この証拠も証言も無効になります。


ただ。リリス・ヴェルミナの貢献度は高い。 

したがって。リリス・ヴェルミナの死刑は延期。 

坩堝学園の学長の地位は剥奪。 

魔皇帝へなることに同意し。この国家に尽くすことを処します。


また勇士候補、佐藤 りんの親権は《魔元老》の管轄とし。

新たな養子先は改めて検討する。以上」………ですって。


………ふざけてるとは思わない?


だから。

私《見せてあげた》のよ。


《いつ》《何処で》《だれが》《どれだけの回数》。

私を肉の袋として扱ったかの。

何を吐き出し何を屠り貪ったのか。

その息遣いも空気も匂いもわかるほどに。

《鮮明》に。

お望み通りにね。

悍ましいほどの獣が蹂躙した《夜の記憶》を。


この梟の能力使ってね?《追体験》させてあげたの。

知らなかったわあ………。

《追体験》はラングをあげると《共有》も出来るのね?

他者への行使。

確かにそれは唯一無二の能力だわ。坩堝学園が梟を囲うはずよね。

ま。その程度よ。この男の価値は。


最初にお見せしたりんの《昼間》の記憶は確かに朧気で。

あの子記憶がないじゃない?

そこをほじくり出すのは私も無理だったの。

梟も拒否したしね?だから丸焦げ。


この人達、お気に召さなかったのよ………。

だから。

仕方ないじゃない?


ここの殿方は軟弱なのね………。

《命の根源の殺人》?

《魂の冒涜》?

《貞操と倫理への悍ましい反逆》って叫んでいたのも居たわね?

《いやだ》《いたい》《そんなとこ入らない》って泣き叫んで………。本当情けないわ。


まだまだあるのよ?《10年間分》くらい。

二晩くらいの記憶で狂わないでほしいわ………」


気怠げに痙攣する男達を小突き回しながららんは跳ねるように踊るように法廷を横断した。

まるで《成果》を飼い主にひけらかす猫のような目つきだった。

喜びというよりは。

やり遂げた達成感に満ちていた。

しばらく彼女の鼻歌が法廷に響く。

誰も話さなかった。

聞こえるのは呻きと悲鳴と泣き声のみ。


 耳障りなBGMが煩く、真神は指を鳴らした。

蒼く閃光が天井まで爆ぜた。

《防音魔術》を施したのだ。

その魔術の軌跡すら興味なさそうに見つめる虚無の瞳の女に投げた言葉は端的だった。


「俺にも見せろ」

「は?」


なにを?と女は首を傾げた。

それを見てますます苛立った内心に舌打ちをして真神は努めて穏やかに問いかけた。


「慎一郎には見せたんだろ。伏見にも。

有象無象の男には見せたんだ。

ここにいるほとんどの男にも見せたんだぞ。

何故俺には見せん」


チラりと視界に映るのは泣き叫ぶ貴婦人達。



ーーー女の傍聴人は避けたか………。

人質か。

これでも抗議があった場合の保険(生贄)だな。

恐ろしく頭が回る女だ。


「お前の《敵》は《男》だ。

俺も男だ。見せろ。


俺は………知りたい。お前の《苦痛》を《忍耐》の傷を」


らんは笑った。

それはりんの笑顔ではなかった。

それはそれは妖艶に。

ここが劇場だったら花を贈ったろう。

残念なことにここは血に塗れた法廷だが。


「あのね。狼さん。


私。別に《加虐趣味》ないのよ。

おいそれとベッドの記憶をひけらかしたい《被虐趣味》もないわ。


苦痛?貴方にお見せする何があるのかしら?

この場では必要ないと思うのよね。

梟さん?

貴方は私の心読めるのよね?


どう?私は身を焦がすような哀しみ。恨み渦巻いた哀れな魂をしているの?」


「………………君の魂は、傷ついてないよ。君の魂は美しいよ。

汚れてない。

君は狂ってないし。おかしくもない」


「まさか。そんなはず………。この惨状だぞ?

元の記憶保持者の苦痛は計り知れないーーー」


 法廷の中央に聳える巨大モニターは砂嵐だ。

本来はあちらに投影されるはずだった彼女の記憶証拠映像。

それを彼女は《生温い》と直接脳に投影させた末路。

彼女なら《功績》と呼びそうな惨状を見渡した。


 裁判官、検事。事務官に書記官。映像管理官。

執行官、証人。傍聴人、代理告発人。

そうそうたる《貴族》や《財界人》。

その関係者や親族が血を吐いてのたうち回り泡を吹き。

下からも上からも汚物を垂れ流し。

それらを目撃した婦女子は泣き叫ぶ。


法廷はまさに《地獄絵図》となっていた。


 一見すると無事なのは。

青ざめたリリス・ヴェルミナと、彼女の盟友達。

三尊の一人でありリリス・ヴェルミナのかつての仲間、フルカス将軍と、魔導学校「アルカナ・ルナ」の校長ジウ=フーウェイのみだった。


彼等もリリスの窮地に駆けつけたのだろう。

弁護人席に誰もいない中、彼等はそこに呆然と佇んでいた。


彼等がたぶん一番状況を把握している。

痛ましい表情で、佐藤 りんの姿をした、らんを見つめている。


 リリスは普段の高圧的で不遜で傲慢な態度が鳴りを潜め、ただただ鉄格子を血が滴るほど握っていた。

頬には一筋流れ落ちたものの跡がある。


ボロボロの慎一郎が一歩一歩とらんに近づく。

それを汚物のように見るらんの瞳は冷淡で情の一欠片もない。


「彼女は………「感じてない」んだ。

そもそも彼女は「自分のことを人間と認識していない」んだ。

酷いよ。ここまで人は魂を摩耗することに防衛対抗すると《心》を感じることを失うのかと愕然とする」


「結論言いなさい。話が長い」


「彼女もりんさんも。

今回のことで魂の歪みはありません。

現在の彼女に苦痛は存在しません。以上です」

 

慎一郎が歯噛みしながらも跪いた。

一見らんに侍るようだが、限界だったのだろう。

倒れることをなんとか耐えている顔だった。

途端悲痛な叫びが木霊した。

リリスだ。



「らん………?私が死ねば良かったのよ。

ごめんなさい………ごめんなさい。

りんちゃんを救えなかった。貴女もよ。

貴女はこんな悍ましい記憶を開示する必要なかったのよ?!

なんでそんな無茶したの?!なんで?!


私なんか捨て置いて幸せになれば良かったのよ!!なんでよ!!」


リリスの叫びとも慟哭とも区別の付かない言葉に無機質に見えたらんの瞳にやっと感情が走った。

怒りだ。

飛躍するとふわりとリリスの前に降りたった。 

鉄格子を物理的に破壊してその破片を放り投げた。

それは裁判官の椅子に突き刺さった。


「オリハルコンの檻………だぞ」


フルカス将軍が引きつりながら笑った。

気持ちはわかった。

|オリハルコン《神が与えた一番硬い金属》がひしゃげたのだ。笑うしかない。

そんな外野は気にしていないのが彼女だ。

跪くリリスの顎に指を添えぐいっと上を向かせた。

絵面だけなら主演俳優のラブシーンだ。

片方は返り血で血まみれだが。


「貴女が《死んで楽になってチャラになりたい!!休みたい》なんていつまでも過去の傷にメソメソしてるから付け込まれるのよ?!あんな権力しかない老害に!!


なにが《うちの娘》によ。

なにが《我妻に》よ。《息子の嫁に》よ。


貴女はね?あの魑魅魍魎の中にりんを放り込もうとしたのよ?!無責任にも!!


なにが《いいこ》だからよ。

なにが《大事にしてもらえる》よ?


この三尊の二人にも親権なげようともしたわね?

あのね?誰が相応しいとかの次元じゃないのよ?!


りんは!!

貴女を《お母様》と呼んだのよ?!

しかも一日で。


今までの里親には一度も呼ばなかったわ。

慕っていたシスターにすら。


あの子は《親》を持つことすら諦めていたのよ?

欲したこともないの。

望みすら抱かなかった。《概念》すらなかったの。


貴女だけなのよ。

りんが信じた《親》は。


りんを悲しませないで。


貴女が勇者や聖女を失った哀しみをりんにさせないで。


私はまだ!認めてないけど。

りんが《お母様》と呼ぶし寂しがるから助けたのよ?!


そうじゃなかったら勝手に野垂れ死ねば良いんだわ!!死にたいやつは!!

りんの知らない所で朽ち果てろ!!」


肩を震わせ叫んだ声は怒りに震えながらもソプラノの調べだった。

美しく可憐で。 

そして微かに震えていた。



「りんに選ばれたのだから血反吐吐いても生き残りなさい!!懺悔したいなら生きて!!

生きて生きて生きてあの子を幸せにしなさいよ!!

生きろ!親なら!!」


空気が震えた。

リリスが涙をぐッと堪えたのが見えた。

これで終わりか。

真神が一息つこうとしたのに終わらないのがこの世界だ。


「「リリーだ」」


フルカス将軍とジウ=フーウェイが呟いた。

元、勇者一行の二人。

日頃はリリスと三人でダル絡みする《偉人》が呆気に取られていた。

視線は一心にらんを見ていた。


「おいおい。生まれ変わりか?魂の憑依か?

何の冗談だよ………。

啖呵の切り方がアマリリーまんまだぜ」


「特筆すべきはあの《冷淡な紫紺の瞳》でしょう。

あの冷笑。人をゴミと思っている目つき。

彼女も数々の有象無象の男を踏みつけねじ伏せ笑いましたね。懐かしい………。

かつての元老どももリリーの愛の敗北者で奴隷ですよ。

その再現を見ているようです」


「勇者誠しかリリーは子猫ちゃんにならなかったもんなあ………」

「誠いないと魔王すら飼い殺そうとする女豹でしたね。本当に懐かしいです………」


しみじみとありもしない空を見上げる三尊の二人。


そこへ「き〜!」と奇声を上げたのはリリスだ。

少し顔色が戻っていた。


「あぁ………!!

だからあんた達には会わせたくなかったのよ………。

確かに。似てるのよ。似てるのは認めるわ。

でも、この子はりん!!ツンデレな方はらん!!


リリーの代わりじゃないの。

勇者と聖女の、代わりじゃないのよ………。私の娘達なの。

代わりじゃないの………。ごめんなさい。らんちゃん。


私が愚かだったわ。ごめんなさい………」


「ふん。それはりんに言いなさいよ。

謝罪は私は求めてないわ。


生き物は寂しいと死ぬのよ。

りんが寂しがっているわ。早くこの裁判結審させるわよ」


らんは裁判官をブンブン振り回した。

慎一郎がハラハラと治癒魔法をかけさせられている。

完全に従魔契約は奴隷契約じみている。



「俺には見せんのに。何故こいつにはコンマ一秒で見せた」


真神が背後を振り返る。

未だ煩くも喚きながら血反吐をはき、ムカデのように這っている百目鬼どうめき 卿を見おろした。


「こいつ。

《女子供は俺に従うべきだ》ってゲスい考えが滲んでたから。ピンときたのよ。間違えたかしら?」


「はッ………ははは!!」


ヴォルグは笑いを我慢出来なかった。

慎一郎が哀れなものを見る目でこちらを振り返る。

正気か?だと。

狂ってる自覚はあるのだから大丈夫だろう。


「いや?正しい観察眼だ。


やはりお前は勇者向きだ。

それと同時に「裁定者」向きだな。


現し世にも連れ歩きたくなったな………。未成年の課外授業として特例を探すか。

作らせるほうが早いか。


ますます気に入った。これからもしごくから隠れるなよ。

危機がなくとも出ろ。個人教育してくれるわ」


指で女の眉間を突く勢いで言葉を投げた。


らんは目を見開く。しばらくその豊かなまつ毛の音がするかと思うくらい瞬かせた。


らんは珍しいものをみる目つきでヴォルグを見た。

あまり女にされない目つきだ。

その視線をやっと独り占めしたことにほのかに胸が熱くなったことは咬み殺した。

無駄な感情だからだ。


「貴方。………趣味悪くないかしら?

趣味の良さだけは梟のほうが上ね」


らんはチラりと真神が抱えた男を一瞥して初めて。

人間らしいバツが悪い顔をした。


「この伏見(ふしみ)さん。

忠犬みたいな顔してたから貴方の《駒》とはすぐわかったの。貴方好きでしょ?このタイプ。私もよ。


見せる気はなかったのよ。

彼………。私を止めようとしたのね?

最初はあのモニターに映像が、映ったのよ。


「君が尊厳を捨てることない!!こんな裁判間違ってるんだ!!やめてくれ!」って。私の肩を触ったのよ。


《記憶を見せている最中》の私を。

梟と親和性が一番高まってた私をね。


この人。感受性が高かったみたいなの。

あと。鼻もね。


痛みと………情景の匂いかしら。

一番生々しい場面踏んじゃったのよ。


悪かったわ。早く治療してあげて」



「同じ事した僕への優しさは…………?」


血塗れの慎一郎がまん丸の緑の瞳でらんを化け物を見るような目つきで見た。


「貴方は強いじゃない。

それに貴方はウザい。


《りんさん》《りんさん》《番の家族》《大事にしなきゃ》《りんさん》《りんさん傷つく》《りんさん》《りんさん》《りんさん》《らんさん》《りんさん》《りんさん》


召喚してから貴方の邪念がうるさいのよ!!

りんが無事ならいいでしょう?!

重い男は嫌われるわよ!!


白哉!!帰るわ」


「は。らん様。

お召し替えをまずされませんと………。りん様が驚きます。


リリス様。事後処理終わりましたら迎えにあがりますゆえ。暴れませんように」


背後に控えていたオレンジのトラ獣人の無表情の執事は嬉々としているのをしっぽに隠さずらんに侍っていた。

一瞬真神を見た。

尻尾が激しく揺れた。

顔は無表情なのに考えていることがわかることが不快だった。


嬉々としてらんの肩にタオルケットを掛けたり甲斐甲斐しくお世話している。

ひけらかすように。

お世話こそ至高の喜びのように。


結界に包まれた学園から抜け出すことも。

慎一郎を召喚する《召喚紋》の用意も。

この執事なら難なく熟せただろう。


何故か殴りたくなった。


「………………………これ以上どう暴れろと?

見せ場はなにもないわ〜。

適当にこいつら回復させないと。

これでも役職押し付けてる自覚はあるのよね〜。

申し訳程度だけどね〜」


「後、半日は彼等は《悪夢》見ます」


リリスがせっかく茶化した空気が凍った。

慎一郎が目を瞑りながら渋く唸るように絞り出したことで。


「………この地獄絵図が………半日カ。俺何する?運ぶ?平積みしていい?軽く殴っときたいナァ。

老害もここまでかって見本市だもんナァ………。

今殺しといたほうがこの幽玄異郷のためじゃネ?」


「これ隠蔽するとか。ほぼ介護ですか。はいはい。やりますけどね。使えるのは使えるのですよ。

いい神への《目隠し》になりますしね。

愚かなものも使いようなんですよ。

私、こっち。貴方はそっち。よろしくお願いします」


フルカス将軍とジウ=フーウェイはまるでダンジョンの分担ぎめをするテンションで、尊厳はなく人の肉の形を辛うじて保つ高貴なる《汚物》をどう綺麗にしようか話し合っていた。



「あら。《夢魔属性》なの。


ふ〜〜ん。じゃ。半日は拷問楽しんでもらいましょ。

私もりんちゃん交換材料にしたのムカついたし。

臭いから浄化だけしてちょうだい。ジウ!!」


「はい。リリス様。人遣い荒いですね。

会えて嬉しいですよ」

「ふふ。またお茶をしましょ。お詫びに今度、月餅ユエビン贈るわ」


リリスとジウ=フーウェイはハイタッチした。

そこに寂しそうに合流したのは強面の代表のような傷がトレードマークのフルカス将軍だ。


「おいおい。俺は?」

「ふふふ。フルカス。あの学園の結界超えてきたの?

内側とはいえ大変だったんじゃないの?

ありがと。岸坊の雄姿は見れたかしら?

それかなぐり捨てて来てくれたの?男気あるのね。あんた」


「お前の娘。ビデオ撮っといたぞ。

後で焼き増すな」


「あんた出来る漢になったじゃないのさ〜!」


三尊はキャピキャピと同窓会の雰囲気で跳ねていた。

血みどろの法廷で。


「さ。裁判官起こして結審よ。


らんちゃん。なんて言ったらいいかしら?」


「『お前の所に養子でも嫁でも行ってもいいわよ。

毎晩毎晩。お前と嫁と息子と娘、孫にこの映像をプレゼントしますわ♥

私を《道具》に出来ると浅はかに思い上がるのは自由よ。


あまりお勧めはしないわ。弱いものイジメは嫌いなの。


わかったらさっさと裁判記録自体抹消なさい』って言っといて下さる?………お母様?」


「へぶぎゃッ………」


「「リリス(様)」」


「あ………。らんさん。三尊すら射抜いた」

「リリス様は守備範囲が広いな」

「………君が言う?」


真神と慎一郎でささやき合っていた。

そこでも終われば早く帰れたはずだった。

ここでも終わらないのがこの世界だ。



「ま………待て」

「佐藤 りん………さん。待ってください」


振り向くと。

水色の髪の美丈夫が気丈にも血だらけで立ち上がっていた。

アスモ・モルガン。

渡悪執官所(わからせや)執官官長。

モルガン家当主の男が検事席から這い上がってきた。


彼だけだ。

明らかに血反吐を吐きながらも意識を保っているのは。

さすがは88柱といったところか。


その男すら有象無象のものを見る目つきでらんは睨みあげた。



「ご機嫌よう。執行官官長様かしら?

何がご用がありまして?

私は《一被害者兼証人兼証拠》ですわ。

………………これ以上私に何をお求め?」


沈黙が続いた。

彼の咳き込む音が吸い込まれた。

アスモ官長は居住まいを正し胸に手を添えた。

それは《敬意》の表れだった。


「お越し頂き光栄………です。

アスモ・モルガンです。

娘………澪………を。末永くよろしくお願いいたします………。

本来。私が………すべきことを貴女にさせました。

リリス様を救ってくださり………ありがと………ございます」


執官官長が頭を垂れた。

そこにも衝撃だった。

だがその物言いはアスモは《リリス側》だということだった。

これにはフルカス始め無事な大人は皆が刮目した。

リリスだけは悲痛な眼差しを向けている。

なら。

少なくとも《モルガン》は敵ではない。表向きは。

渡悪執官所(わからせや)トップの謝罪だ。

この裁判は秘匿され何事もなかったようにされるだろう。



ーーーこいつはこの裁判を《意図してなかった》?

策謀を巡らすタイプの御仁じゃないしな。

なら………。


 真神はそこまで巡らせてやめた。

こういう事は適材適所だからだ。

らんが白哉からの耳打ちを聞きながら目を見開いた。

その表情をすると無垢な少女にみえるから不思議だ。



「ん?あら………。モルガン………。澪ちゃんのお父様?

あら………?もしかしてこちらの味方でしたの?

席で適当に判断して申し訳ありませんでした。

お身体は大丈夫ですの?」



「ははは………。なんのこれしき。

貴女様の苦痛に比べたらこの………苦痛………など………」


辛そうだ。


「いつも御息女にはりんがお世話になっております。

私はりんの《二つ目の人格》です。

名乗るほどでもありませんの。


ここでお会いしたことも秘密でよろしくて?

いずれ消えるべきものへの敬意は不要ですわ?

ご丁寧にありがとうございます。

忘れてくださいませ」


らんが初めて頬に手をやり気遣わしげに首を傾げる。

そこで息を呑んで愕然としたのはアスモだ。

目を覆うように項垂れた。



「忘れ………これを?この《偉業》を………?

寧ろ讃えたい………。いや。それも問題か?え?

これ………………《秘匿》なのか………?」


「「「「(気持ちは痛いほどわかります)」」」」


法廷の皆の気持ちは一つになった。


88柱が一人の大人の男すら彼女は屈服させた。

その姿をにこやかに見つめた後らんは踵をかえした。


「では。ご機嫌よう………皆様」


血みどろのレッドカーペットを踏みしめながら歩く後ろ姿は覇者の佇まいだ。


「あの子は本当に14ですか」

「………………残念ながら」


警戒して敢えてアポイントを取らなかった御仁と横並びになり途法に暮れる。


「真神卿?まさかここに入るのに身売りでもしましたか」

「いえ。ご令嬢のエスコートの約束をしただけです」

「それを身売りと言うんだよ。………無茶をしたね」



アスモ官長がチラりと見た先の汚物に背を向け真神は跪き拳を打ち付け目を隠して頭を垂れた。


「………遅れてご挨拶申し上げます。

真神家 次男が玄狼と申します」


「うむ。アスモだ。

最敬礼はこの際省こう。この醜態を見せた後だ。

おや。あそこの次男は社交界に出ないことで有名だが。

まだ19ーーーー」

「ラングの高さの前では年齢は不問のはずです」

「あ………ごめん。

それにしても………老け顔だね?私より年上に見えるよ」

「………褒め言葉です」

「老生してるね?君」


真神は召喚を終えた慎一郎が召喚陣から消えたのを見届けてから学園へと帰ったのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ