星見祭 18.学園公認の夜更かし
「学園公認の夜更かしってさ」
「「「「「「「「最高〜〜」」」」」」」」
りん達は雷クラスの"金剛の宮"でお泊まり会である。
何故お泊まり会かと言うと。
簡単に言ったら《帰れない》からだ。
星見祭は通例上三日間のお祭りである。
それが異例の一日で「閉幕」してしまった。
通常なら狂乱の宴の後、日を跨いで次の日に《ステラ・ランキング》。
最終日に後夜祭らしいのだ。
後夜祭はやるにしても。
一日余ってしまったらしい。
それは今二人の団長が一生懸命協力してイベント拡張を今夜詰めるらしい。
ならこの祭りを縮められないのか。
日程の短縮。
致し方ないと一番取りがちな案。
運営も混乱しない。
それで簡単に終わらないのが坩堝学園らしい。
なんとこの祭りは始まる時に《結界》を張る。
確かにレジオン団 団長スレアとセルクル団 団長イーテディが魔術を空に放っていた。
あそこから更に教諭陣総出の結界魔術行使をする魔道具があるらしい。
りんは新入生を恐怖に落とす《演出》だと思っていた。
逃げられない、連絡とれない、助け来ない。
B級ホラーじみていて最高に怖かったから。
それは《古来魔術制約》で2000年続く結界。
その間外部との連絡遮断。
行き来は不可能。
外部からの破壊は不可能。
これらは《不正》や《外部からの横槍》を防ぐ処置らしい。
最後まで命がかかった割にはふざけた鬼ごっこだと思っていたけど。
岸が
「バチカンの教皇選挙みたいだよな。こっちは神聖さが足りないけど」と言うから言い得て妙だと思った。
確かに。
厳重さと秘匿性はこちらの方が上かもしれない。
昔からどうでもいい事に魔術全振りする権力者が居たのだろう。
だから今りん達は《帰れない》のだ。
「学園にお泊りなんてわくわくするね」
りんは何故白哉が子供たち皆をつれて《保護者》として学園に来たのかがわかった。
後二日連絡がりんと取れなくなる。
それもリリスが不在なこの時に。
ーーー白哉さん。過保護だなあ。
その保護者も含めた夕食会もあって。
白哉は《保護者、来賓用宿泊施設》で過ごすらしい。
そんなわけでりん達の目の前には。
石造りの湯気立つ白乳色の温泉が広がっていた。
「………。温泉施設があるなんて………」
「これ作ったやつ。日本の温泉行ったことあるやつだな」
「あ。わかる。微妙に違うって違和感ないね。
〜風じゃなくて。《本物》だね。
純和風の老舗温泉宿みたい」
まさか露天風呂まであるなんて素晴らしい教室だ。
天空の教室が建つ紫紺の雲の上。
真神教諭がすごく凄くすごく凄く不服そうにため息交じりに魔術で開示したのは。
教室の裏庭に当たる《温泉施設》の使用パスだった。
あることにすら気づかなかった。
そんな魔術が施されていたらしい。
「これは学園からの《生徒会長、役員》特典になる。
本来は本館にある《生徒会入浴施設》を特典にするのだが。
………誰かさんが存続させてしまったからな」
そこでクラスの皆がクスクス笑った。
りんも笑ったら真神教諭に睨まれた。はい。当事者同士ですもんね。
「あちらはレジオン団、セルクル団がもう占有している。
今リリス学院長不在のため拡張魔術を行使出来ん。
その代替案だ。
………………。邪な気は起こすなよ」
「なんで僕を見るの」
アンテが荷物を抱えホクホク顔でキョロキョロしていたのに固まった。
確かに真神教諭の視線はアンテをロックオンしている。
「いくら囂しいお前等でも。最低限の《倫理観》はあるよな?
邪な気は起こすなよ。監視をさせるな。見たくもないんだ」
「だから。なんで僕を見るの?!」
やっぱりアンテを見ている。
アンテが動揺する度に寧ろ真神教諭の視線は剣呑になる。
「言っとくがな。人殺しより女子達を害したほうが罪は重いからな?」
「ね?そんな変態の大罪人だと思ってるの?!僕が?!
生徒だよ?信じてッ………」
他の男子は巻き添えを回避すべく黙って直立していた。一言も発しない。
アンテが真神教諭の視線に怯えている中。
女子達は色めき立っていた。
「りん様とのパジャマパーティが叶ってしまいました………!」
「良かった!私も嬉しい!約束してたもんね?ごめんね。リリスお母様出張だからお招き出来なくて………」
「いえ!おうちが大変な時は致し方ありません!
りん様のせいではないのです!お気になさらず………」
星の肩がビクッと震えた。寒いみたいだ。
目の前の澪が感動でうち震えている。
飛行訓練の時の願いが叶ったのだ。感無量みたいだ。
「わ!これブランドものシャンプーだ!トリートメントも!
これはご褒美だあ!ちっす!真神せんせ!」
ナタージャは早速脱衣室に備え付けのスキンケア用品に釘付けだ。
それらを持ち出し共有スペースでお披露目してくれた。
オシャレさんは目が肥えている。
りんにはイマイチさっぱりな分野だ。
「それらは女性教諭陣が手配した物だ。後でお礼は直接伝えろ」
「ちっす!」
「ん………?ん!!」
「え?美肌の湯なの?咲ちゃん物知りだね〜」
そんな事でワイワイしていたら男子達はさっさと男風呂に入ってしまったらしい。
共有スペースには誰もいなかった。
「あれ。男子達、もう入ったのかな?すごく静かだったね」
「いつも騒がしいのにこれだけ静かだと不穏じゃね?」
「嫌な予感が。護身用の投げナイフ探してきます」
「ま。いいや。入ろう!!」
「「お〜!」」
「長湯するなよ。そっちは救出が遅れるぞ。俺を社会的に殺してくれるなよ」
「「「「は〜〜い!」」」」
女子達が騒がしくも脱衣室に入るのを見届けてから真神教諭は踵を返した。
カポーーーーン。
源泉かけ流しが染み入る石造りの露天風呂。
三方が10メートルはする竹細工の壁に阻まれている。
その物理的な壁に無謀にも挑もうとする勇者がそこにいた。
「アンテ。君めげないね?やめな。
僕が《構造解読で見たんだ。
その竹は魔術で強化されてる。空には幻惑魔術。下も掘り起こせない。
あっちの《女の秘密の花湯》は完全な砦で守られている。
さすが坩堝学園だよ」
「アンテ。バレたら死ぬぞ?子供だからとこれは赦されんぞ」
「さすがに俺でもその悪ノリはしねぇよ。やめろアンテ」
「アンテ君。君まで通報したくない。やめてくれ」
琥珀は理論で諌め、猿田は正論を放ち、岸は呆れ返る。
星など青い顔してまるで修行僧のような面持ちで水風呂の滝に打たれている。
「知ってるか………?
罪はな?バレなきゃ罪にはならないんだ」
ふッ………と前髪に風を吹かせてアンテの歯はキラリと光った。
顔も声もイケメンだが言ってることは最低である。
「馬鹿の理論だな………」
「紳士たるもの。女子の秘密は暴かない。
それを父親に習わなかったのか?いないならカウンセラー紹介するが」
猿田が珍しくアンテに乗らない。
猿田は日頃バカ騒ぎや悪さは嬉々としてやるタイプだ。
真面目な岸よりも真剣にアンテを諭している。
珍しい光景に岸は少し首を傾げるが気を取り直して頭を洗い出した。
「ふ。僕は何も彼女達の平和を乱す気はない。
物理的に突破する気もない。
僕が突破するのは!!己のギフトの限界だ!!」
「わ………。あり得そうで笑えない」
琥珀がゲンナリしながら頭を洗い出した。
アンテを見捨てたらしい。
「アンテの………ギフトだっけ?家系に伝わる能力だっけか?」
岸が猿田の背中を洗いながら呟いた。
「正しくは《一族で崇めている氏神に貰う》能力だ。貰うもらわないは割と自由でな。
俺は貰わなかった。
後々の人生で強力な神や精霊から賜ることのメリットのほうが大きい。なんせここは《八百万の神が住まう地》幽玄異郷だからな。
琥珀やアンテのほうが変人寄りだ」
へ〜と納得したけど琥珀に目線を向けた。
琥珀を岸が見る時は更なる説明が欲しい時だ。
なんせ琥珀は博学の天才なのだから。
岸は最早、歩く辞典代わりにしていた。
「で?アンテのギフトの能力はなんなんだ?」
「《観察眼》だよ。
人体、有機物の構造を解析出来るんだ。
見た対象の体力や筋肉の動きとかかな。
能力が高まれば疾患とか、能力の有無もわかる」
琥珀がお湯を浴びながら呟いた。
匂いのよい石鹸を泡立て始めた。
「医者みたいな能力だな?」
「ちゃんと使えれば。だけどね」
琥珀が呆れ気味にアンテを見上げた。
アンテは見たことがないほどの闘気を漲らせ、目を血走らせていた。
「僕はッ………。修行の末。
音さえ聞こえればその対象の姿を朧気に検知するまでに至ったのだ!!」
「「お〜〜?!」」
ガタリと猿田と岸が立ち上がった。
背後に小さなコロンとした椅子が転がった。
「ちょっと。そこ詳しく」
「某も手伝えることはあるか?」
「そうだろう、そうだろう。男のロマンの話だ。
君等もそんな奴だったんだな………」
猿田と岸の目の色が変わった。
二人は少しアンテの話に興味が湧いたようだ。
「罪深い………滅殺………滅殺………」
星はもう真っ青になるほど滝修業をしていた。
「………。隣の女湯の音すらしないけど?ここ」
カッ………ポーーーーン。
石に染み入る鹿威しの音が響いた。
あまりの静けさに不安になるほどだ。
言われてみると目の前の竹林の風のざわめきもない。
まるで無音の動画を見ている気分になった。
「な?逆にさ。
ここで俺等に何かあってもさ。
誰も気づかない可能性あるな」
岸が呟いた途端皆の動きが止まった。
カッポーーーーーーーーーーーーン。
この鹿威しの音だけがする。
何故するのか怖くなってきた。
「ここに魔獣来て僕達皆殺しになっても。
完全犯罪じみるね。ミステリードラマにありそうだ」
「だいたい最初に死ぬのは五月蝿い陽キャだよな」
「うむ。なら俺等は生き残るな。硬派な枠だ」
「いや………ヒロイン庇って死にそうな枠だよ君等」
猿田は岸の背中を流すことに集中しだした。
岸は琥珀の髪にトリートメントを塗っている。
「絡まりやすいんだ。丁寧にね」
「へいへい」
「ふむ。こうか」
「なんだ。猿田のほうが上手。チェンジ」
「酷いな!」
「な。そろそろ星温めようぜ。さっきから静かだ」
「ヤバイな。浮いてるぞ。あいつは何と常に戦ってるんだ」
滝行をしている星はもう何も話さなくなった。
そこへ小走りに走る猿田と岸とお湯に浸かる琥珀。
もうアンテを構う存在はいない。
アンテは女子風呂があるであろう竹細工の壁際で一人、精神を研ぎ澄まし耳をそばだてた。
一筋垂れた鼻血すら拭わず、一点を見つめるその瞳は、もはや獲物を狙う肉食獣。
だが、その背後に立つ影には微塵も気づいていなかった。
「いや………。味方は居なくとも………。
天才とは孤高なんだ。
皆が理解しなくとも僕は僕を信じるんだ!!
僕には聞こえるんだッ。
集中だ………集中。
アンテ。限界を超えろ。
あわあわする甘い香り。姦しい嬌声!!
女の子同士しか晒せない秘密の会話ッ!
弾ける水飛沫!お湯の波紋の揺らぎで導き出せる肉感のッ………。彼女達の神から賜った流線の黄金比をーーー」
「騒がしいぞ」
「ひぎぃや〜〜〜〜魔獣が僕等を殺しに来た?!」
アンテの悲鳴が大浴場に反響した。




